1-10 愛称で呼ぶナヤカ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
適度な場所まで来るとアルは光球を解いた。中庭の片隅だった。
アルの息が荒い。ナヤカはアルから手を放すと様子を伺った。地面の一点を見据え、口を使って大きく呼吸し続けている。疲労ではなく極度の興奮状態とナヤカは見て取った。グナエグとの邂逅は戦闘としては軽微なものだ。それでもアルにとっては精神的に相当な負荷となったようだった。
アルを見つめるナヤカの中に一つの思いが芽生えた。
ギーツと出会うことがなかったら、この方との関係も別の形をしていたのかもしれない…。
その思いはナヤカの心を和ませた。
「ご気分が悪いのですか?」
「平気。大きな口を叩いたけど、闘うのは苦手なんだ」
弱弱しく笑うアルにナヤカは穏やかな笑みで応えた。
「アルカシャ・クルグ。わたくしもアルと呼ばせていただいてよろしいでしょうか?」
「え? ああ、もちろん」
「アル、助けていただいて、ありがとうございました」
「逃げるぐらいしかできなかったけどね」
「そんなことはありません」
続けようとした賞賛の言葉をナヤカは胸に仕舞った。謙虚なアルの人柄には相応しくないように思われた。
「では、アル、参りましょう。ギーツとリーゼリア、いえ、リアが待っています」
アルが返事をし、二人は丸屋根の建物を目指して歩き始めた。