1-7 嫌いなんだ、こういうの
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「それに、ぼくは嫌いなんだ、こういうの」
前を睨んだ表情はいつになく険しかった。
「大丈夫。これでも防御は得意なんだ」
ナヤカは迷うように視線を落とした。握り締めたアルの手が目に入った。震えていた。
「どけって言ってんだよ」
低い声でグナエグが威嚇した。アルは動かない。
「そうかい。そんなに巻き添えがお望みか」
グナエグが口元を歪めた。
「こんなチャンスは滅多にねえっ! やるぞ、マリュール!」
マリュールと呼ばれた調制士は今度は止めなかった。グナエグのかけ声とともに口を大きく開けた。球形の物体が現れたのは次の瞬間だった。球形の物体はマリュールの口腔から次々と湧き、空中に浮かんだ。
シャボン玉?
ナヤカが思い浮かべた言葉にそれはよく似ていた。
しかし、マリュールの吐き出した玉は透明度が低く、鈍い光沢を帯びていた。空中に浮かぶと同時に大きさを増して人間大にまで膨らんだ。計五つの玉は明らかに意図を感じる軌跡を描きながら緩やかな速度でナヤカたちへと向かってきた。
グナエグの行動はさらに迅速だった。吼えるようなかけ声とともに駆け出し、アルに向かって突進した。走る姿は胸を起点に炎に包まれ、発火炎上のごとき様相を呈した。炎は見る間に獣の姿を取り、グナエグは肉食獣の外観を備えた。炎による獣化現象だった。同時に身体の寸法も増し、倍加したかのような巨体がアルに迫った。