1-6 ギーツの調制士じゃないか
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ナヤカの胸に陰が射した。アルカシャ・クルグに異名の由来を知られてしまった。隠し通すつもりもなかったが、殊更に知らせたい事柄でもなかった。四人の関係に及ぶ微妙な影響の予感がナヤカの気持ちを暗いものにした。
だが、それも今となってはどうでもいいことだった。グナエグという男も調制士もアルカシャ・クルグに関心はなさそうだ。アルカシャ・クルグも言われる通りに立ち去るだろう。ならば、自分が相手をすれば済むことだ。そう判断して前へ出ようとしたナヤカの動きは立ちふさがった影に阻止された。
アルカシャ・クルグだった。
「アルカシャ・クルグ?」
「相手にしちゃ駄目だ。向こうは二人だし」
「ですが…」
ナヤカはアルの後姿を見ながら戸惑っていた。グナエグと調制士は戦闘を望んでいる。このままでは無関係な人間を巻き込んでしまうことになる。
それに、空姫の名の意味を知った以上、アルカシャ・クルグがこの場に留まる理由はないはずだった。当然の報いとして捨て置いても誰も責めはしない。
「あの方たちが用があるのはわたくしです。あなたはお下がりください」
「そんなわけにはいかないよ。君はギーツの調制士じゃないか」
振り向いたアルの顔は笑っていた。