1-3 ナヤカとアルの会話
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
ナヤカ・エジェイルは食堂の建物を出るところだった。手には目的の品の入った小さな金属製の容器を持っていた。
比較的早い時間帯のため、人影は少なかった。両開きになったドアを押し開き、建物の外に出ると入れ替わりに一組の胞奇子と調制士が入っていった。ナヤカは気もなさげに見送ると歩みを進めた。
食堂は求法院の中でも風変わりな建物の一つだった。独立した建造物になっており、入り口は一つだ。文礼室のある本棟の後ろに位置し、求法院のスタッフも利用するため職員の居住棟が左右の離れた場所にある。本棟と繋がる石畳を除き、四方は植栽すら見られない広場になっていた。そのため、食堂は外からも容易にアプローチできる構造だった。利便性を優先していながら入り口には階段が設けてあり、食堂に出入りするには必ず使う必要があった。
ナヤカが手すりに近い場所を降りていると左手から声がかかった。
「ナヤカ」
顔を振り向けるとアルカシャ・クルグの姿があった。中庭から食堂へと駆けてくる。ナヤカは小さく会釈をし、段を降りきるとそこでアルを出迎えた。向かい合ったアルは息を弾ませていた。
「独りなの?」
「はい」
ナヤカは静かに返答をした。
「えーと…。何かもらってきたの?」
「これを」
手に持っていた容器をナヤカは掲げた。半球形の蓋のついた円筒状をしている。可動の提げ手が二つあり、サイズが小さい他はバケツのようにも見えた。底には氷が入っていて中身を冷やしていた。中の食べ物が時間的に多少常識から外れているという意識はナヤカにもあり、具体的に告げる気にはならなかった。先刻、食堂を出るアルとリアを見た時も声はかけなかった。