4-7 リアの苛立ち
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「待ってよ、リア!」
後ろから追いかけてくるアルの声をリアは無視した。前傾気味になりながら大きな歩調で中庭を進んだ。
手には食堂で仕入れたバスケットと水筒を持っていた。中身は二人分の朝食だ。リアが勝手に注文したサンドイッチと飲み物が入っていた。アルとは部屋まで迎えに行ってあいさつを交わした他はほとんど会話をしていない。食堂ではギーツたちとは出会わなかった。二人のどちらかが朝に弱いか、さもなければ先に待ち合わせ場所に向かったかのどちらかだろう。
昨夜の何者かの襲撃の後、リアは大変だった。駆けつけた警護員と対応し、破壊された寝室とベッドを修復してもらわねばならなかった。魔界には、人体の治癒のための相転儀があるように物体の修復に特化した相転儀が存在する。幸い、求法院所属の修復師は優秀でほどなく元通りになった。修復師は工房にいるスタッフだ。
問題は警護員の対応だった。ろくに現場の検証もせず、犯人が残していったと思われる髪の毛の一部を渡しても受け取って終わりだった。あまりの素っ気なさに抗議をしても無駄だった。口調だけは丁寧に睡眠を促された。しかも、襲撃者と推測できる人物を問いただしても誰もいないという。リアの苛立ちは増すばかりだった。