1-10 黒い檻
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「やめろっ!」
悲鳴にも似た鋭い声が響き、少年の胸元を中心として白光が広がった。球状に広がった光は身を守るように腕を上げた少年を包み込み、全体を隠してなお拡大した。光球の表面が、節くれだった五指を開いたドロスの手と接触した。
光球はドロスの手を受け入れなかった。手は少年に触れることなく弾かれた。
「うおっ!?」
予期せぬ出来事にドロスが呻いた。
拡大し続ける光球は腕を支点にしてドロスを押し戻し、攻撃の反動を加えて巨漢を弾き飛ばした。バランスを崩したドロスは床に尻餅をついた。広間に振動が伝わった。
「!」
一連の事態を目撃したリアは衝撃に立ち上がっていた。
広間に響いた振動が消えるのと時を同じくして光の球は収束した。発生したのと逆の行程を経て、光の球は少年の胸元に吸い込まれるように消えていった。
後には気まずそうな顔をして立つ少年と呆気に取られた表情をしたドロスが残された。
広間を静寂が包んだ。
「てめえ…」
最初に空白から立ち直ったのはドロスだった。顔を怒りで歪めて立ち上がろうとした。
次に動いたのはリアだった。
片方の髪飾りを外すとドロスの上に放り投げ、続いて手すりに手をかけて広間に身を投じた。同時に手すりを触媒にして階段を作ると延伸させながら駆け下りた。リアの相転儀だった。手すりの一部は削り取り、スカートの脚の間を縫いつけるために使った。戦闘服を兼ねる制服のスカートは、そうすることで幅広で丈の短いパンツに変貌する。
「リア!?」
驚くレガートが背後で立ち上がっていたが、リアの意識は広間に集中していた。階段の生成と同期した移動は速く、途中で生成のスピードに追いつくと伸びきるのを待たずに二人の間目がけて飛び降りた。落差は小さく、リアの運動能力も手伝って姿は優雅ですらあった。
髪飾りはドロス目指して落下しながら変形していた。急激に増殖して八つの方向に太い支柱を伸ばした。支柱同士は同様の黒い金属の棒でつなぎ合わされていた。目の粗い格子を形成した髪飾りは、拡大しつつ筒状に変形して巨大な檻を形作った。支柱の先端は杭のごとく尖っていた。檻はドロスを中に囲い込んで落ちると支柱の先端を床に食い込ませた。重く激しい金属音と落下の衝撃が広間を揺るがした。
「双方、それまでっ!!」
床に降り立ったリアは両手を開いて横に広げ、ドロスと少年を制した。