3-14 クランゼールの空姫(からひめ)
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「クランゼールの空姫っ!?」
「ん? 知り合いか?」
ナヤカとリアを交互に見やるギーツに、リアは低く重い口調で答えた。
「あたしも伝え聞いたことがあるだけよ。クランゼールに、男に生まれていれば魔王の座は確実と評される貴族の娘がいるって。…そう、あんたが」
リアは倒れた椅子も忘れてナヤカを見つめた。
クランゼールはバルミラ大陸北方の統令地だ。バルミラはギデルの北東にあり、ギデルを中心に見ると、リアの生まれたゴノーとは正反対に位置する。そんな場所の噂も海を越えてリアの耳にまで届いていた。とりわけ、蔵した魔力に関する話は興味を引きつけてやまなかった。
リアが聞き覚えていたのは、クランゼールの統主の娘で空姫の異名を持つこと。そして、空姫の名を持つに至った経緯だ。ほぼ同世代で歳が二つ下であることも知っていた。王選びが開かれれば間違いなく調制士として競うことになる相手だった。リアは、いまだまみえぬライバルに闘志を燃やした。そして噂を耳にする度に、どんな人物なのだろう、絶大な魔力を有しているのなら、自分のように魔王になりたいと思ったことはないのだろうか、などと答えの出ない問いを積み重ねたものだった。
永く強い関心を抱いていた相手が目の前にいた。ナヤカを見るリアの目は否応なしに鋭くなった。ナヤカは、リアの視線を静かに受け止めた。