3-11 ギーツの申し出
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「それはともかく、メリットね…。どうだろう? おれがアルカシャ・クルグに闘い方を教えるってのは」
「同じ胞奇子であるあなたがアルに教えるの?」
「そうだ。最初に伝えたように、おれも漠主の系統に属する人間として相応の知識を授けられている。聞いたところ、アルカシャ・クルグは体系立った相転儀の訓練は受けていないようだ。これまでの実戦経験も踏まえた、おれの話は有益だと思うがね。念のために言っておけば、調制士であるおまえさんの能力を軽んじてるわけじゃない。だが、相転儀の習得法には地域や流儀によって違いがあるし、違った角度からの考察は有意義のはずだ。おれはデタラメを教えるつもりはないが、内容はその都度確認してもらって構わない。当然の用心としてこちらは気にしない。敢えて言っておくと、おれは戦闘で人を殺した経験もある」
重い内容でギーツが話を締めくくった。リアはギーツの目を見つめながら素早く考えを巡らせた。
悪くない提案だった。アルに絶対的に足りないのは相転儀の知識であり、実戦からくる知恵だった。もちろん、調制士であるリアにも知識や経験はある。しかし、ギーツが言うように多様な教えはアルに有用な蓄積を促すだろう。―ギーツの申し出が罠でなければ。
リアは横にいるナヤカを一瞥した。
ナヤカは押し黙って座っていた。どうやらナヤカはギーツがアルに接触することを快く思っていないようだった。表情が硬く、まるでこの場にあるギーツ以外の全てを拒絶しているような頑なさがあった。リアにはその頑なさがギーツの好意を裏付けているように思われた。もちろん芝居という可能性もある。ならば、相当にしたたかな相手だということだ。この二人にそうまでして狙われる理由は思い当たらなかった。