3-8 底辺のさらなる底辺から頂点へ
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「…でも、ギーツも貴族なんだよね」
アルが呟くように言うとギーツが目をやった。
「出自を気にしてるのか? どう育ったかは知らんが、才能に身分は関係ないだろう。王選びに参加した人間は、ここに辿り着いて制服を着た時点で対等なんだ。胸を張れよ」
へえ。
リアは心の中で感嘆した。声をかけられて以来、初めて目の前の男に好感を抱いた。
なるほど。享楽者だけあって物事の捉え方が柔軟だわ。いけ好かないエリート意識はないみたいね。
リアが眺める先で二人がアルの出身について会話を交わしている。
漁民に限らず、肉体を酷使する職業は魔界では蔑視されることが多い。仕事で肉体を使う事実が相転儀の能力の乏しさを物語るからだ。アルでなくても何らかの引け目を感じるかもしれない、とリアは思った。
でも、そんなアルが魔王になったら凄いことね。
ふと思いついた。
アルは確かに下層階級の出身だ。だが、たとえどれほど低い身分であろうと、どれほど貧しかろうと居場所くらいはある。アルはその居場所すら奪われた人間だった。盟約の儀の後、リアは最下層の賤民でも構わないと告げた。事実、アルは魔族の社会において底辺のさらなる底辺の状態にあった。最下層の賤民にすら劣る状態だったかもしれない。少なくとも求法院に辿り着くまではそうだったのだ。そんなアルが最終試練を突破すればいきなり頂点に立つことになる。痛快だ。
リアは自分の想像に興奮した。