1-9 反撃
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
リアは一連のやり取りを冷めた目で見ていた。胸の中で膨らみつつあった感興は急速に萎んでいた。少年の受け答えも仕草も何もかもが評価できなかった。
情けないなあ。もっと毅然とした態度取ればいいのに。そんな居丈高なやつ、まともに取り合うのがそもそも間違いなのよ。…見込み違いだったかな。
自信が少しぐらついた。
違う。表面に惑わされるんじゃない。内実を掴むんだ。
傾きかけた思いを建て直した。
他人が見ようとしないものを見る。見えているのに見落としているものを見る。
商人から身を起こした父親の教えだった。そして、どちらも商売以外にも応用が利いた。
背が低く、身なりの粗末な少年は確かに貧相に見えた。生活を優先したと思える短い髪も余計に貧しい印象を深めていた。
魔族は髪の毛を特別視する。魔力は魔族が具有する生命エネルギーであり、精神と体の双方に横溢して個体が活動を停止するまで突き動かす。精神における魔力の源は脳であり、体は心臓だ。自己に付属する全てに魔力が宿ると考える魔族は、生命の営みから生まれ出る事物を大切にする。中でも格別な扱いを受けるのが髪の毛だった。排泄物や老廃物とは異なり、人の一部となって生き、美しさや気高さを付与するからだ。
ゆえに、魔族は男性種も女性種も長い髪をしていることが多い。短い髪は魔力にまつわる話を顧みない自信家か他の何かを優先した者、さもなければ、上層以外の知力や体力に依存した生活をする人間と決まっていた。リアの眼下で怯えたように身を縮こませた男性種は明らかに後者だった。
海と山に、子どもと大人、いや、それ以上に差のある大男との対決か…。対照的にもほどがあるわね。
リアは傍観者を決め込んでいた。
でも、もしもあたしの見立てが正しければ―。
広間を注視した。
「着いた日にリタイアすりゃあ、諦めもつくだろうが。試練を待つまでもねえ。オレ様が時間を節約してやるよ!」
ドロスが手を伸ばして少年に接近した。足音が荒く広間にこだました。
次の場面は、少年に降りかかる惨劇に思われた。
リアですら自らの観察眼に反する情景を思い浮かべた刹那、予想は覆された。
少年が反撃していた。