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手段は問わず

「なに言ってんだお前」 反射的に返事を返してしまった。まさか探偵にスカウトされるとは思ってなかった。

「だから!」 可愛らしいポニーテールを大きく揺らしながら怒鳴る。「私の事務所に来いって言ってるのよ!」

「断る」

「なんでよ!どうせスリしてるぐらいなら無職でしょ!ニートじゃない!」

「だからって誰が探偵なんかやるか。大体、ものの頼みかたがあるだろ」

彼女はむすっとしてため息をついた。めんどくさそうな顔してる。

「おなしゃす」 僕は無言でその場を去った。

 結局あの後別に追ってくる様子もなく僕はホテルまで無事にたどり着いた。また変わった子だったな。スリをスカウトするなんて探偵としてどうなんだか。そんなことを思いながら盗品用のケースの南京錠を開けてそこに時計と財布を放り込む。しっかりとロックして、僕は手袋をはずしてベットに倒れこんだ。

 このベットはなかなかの寝心地で寝つきの悪い僕でもぐっすりと眠れたんだ。

いや、本当にちょうどいいやわらかさで体に負担がかからないんだよ。まぁそんなわけで僕はすぐに眠っちゃったんだけど一時間ぐらいかな?フロントから電話がかかってきた。

「何?寝てたんだけど?」

「申し訳ありません。お客様にどうしても面会したいという方が尋ねてきたもので」 あの女、ホテルまで押しかけてくるとは。

「その女、ストーカーだから追っ払って」

「いえ、男性の方です」はて、男とは予想外だった。あの客はつぶしたから違うし誰だろう?

「わかった。今行く」

 僕は不本意ながら手袋を付け直してフロントまで出向くことにした。安物の絨毯を革靴で踏みしめながら思いをめぐらせる。さて、誰だろう? 今までに騙した相手だとしたら候補が多すぎる。かといってそれ以外の男というと候補が少なすぎる。ホテルで面会したいぐらいだから敵意があるわけじゃないだろう。どっちにしてもなんだかいやな予感がする。その予感はフロントに着いたら的中した。

「…………」フロントに着くと一人、とてつもなく目立つ人間がいすに座っていた。身長は二メートルと少し。体格からして格闘家だろう。いや、服装からして格闘家だった。なぜ柔道着でホテルに来たんだ。

 しばらく見つめていると向こうもこちらに気がついたようで手を振ってきた。苦笑いしながら近づいていく。

「どうもこんにちは」なるべく自然に接したいのだがあまりにインパクトが強すぎてどうもぎこちない挨拶になってしまった。

「今は午後十一時ですが……」

「ああ、それもそうですね。先ほどまで寝ていたもので、まだボーっとしているんですよ」

「それは申し訳ないことをしました。ご就寝なされていたとは。たしかにこんな時間に押しかけるのも失礼でしたね。次からはできるだけ早く来ることとします」 それとできれば次はもっと目立たない格好で来てほしい

「いえいえ、お気になさらず。で、一体このたびはどのようなご用件で?」 彼の眉間にしわがよって沈黙が訪れた。服装の擦れる音が聞こえそうなほどの静粛、破ったのは彼だった。

「多分、アーニーとはもうお話されたと思いますが……」 結局それか。

「何度も言わせないでほしいんですがね。私は断りましたよ」

「いえいえ、一応説明しておこうかと思いまして。なぜあなたなのか」

「手短に説明してくれ」 彼は微笑んで頷くと続けた。

「うちの事務所にはキャッチコピーがありましてね、あまり褒められたキャッチコピーじゃないんですが、一応「手段を問わず解決」がキャッチコピーなんですよ。手段を問わずというとあれですよドアを爆破したりとかそんなことですよ。まあそういうのは最終手段ですがね。ですが最近問題が浮上し始めました」 今まで問題が浮上しなかったことのほうが驚きだ。「荒仕事出来る人材しかいないことに気が付きまして、最近はあまりドンパチする仕事が少なくて困っているんですよ」 ドンパチする仕事しかしてないのか。

「で、なんで俺なんだ?他にも良い人材はたくさんいると思うぞ、何もスリを選ばなくても」

「まぁ、リーダーが決めたことですから。アーニーはいつもフィーリングで決めるんですよ」 リーダーだったのかあれ。

 僕はため息を付いて考えてみた。探偵になるべきか否か。

「なるほど、理屈は分かった」

「引き受けてくれますか?」

「いや、申し訳ないが引き受けることはできない」 僕は席を立ってその場を去ろうとする。

「いいですが、我々のキャッチコピー覚えておいてください」彼が何を言いたいのかはわからなかった。だけど僕はあまり深く考えずに部屋に戻ることにした。

 自分の部屋のカードキーで開けると来客がそこにもいた。

「どうやって入った」 バーで出会った茶髪の女、アーニーがベットに座っていた。

「あまりオートロックを信用するべきじゃないわ、出たすぐ後に足を引っ掛ければ簡単に入れるもの」

「そりゃ忠告をどうも。で、なんの用だよ」

「勧誘」 僕は苛つきを通り越して呆れていた。ここまでしつこいと本当に呆れてくる。

「言わなかった?断るって」

「言わなかった?あたしたちのキャッチコピー」

 後ろに気配を感じた時にはもう遅かった。薬品入りのハンカチを口に当てられて首根っこを押さえられた。抵抗しようにも意識が遠のいていった。意識が完全に落ちる前、彼女はいった。

「手段を問わずって言ったじゃない」 反則じゃないのか、こういうのは。

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