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時計のすり方

 奇術師って言うのは妙な仕事で人を騙して生計をたてる。ただ、お金を払うのは騙された人たちなんだ。まぁ僕としてはうれしいんだけど、馬鹿なんじゃないかと思うよね。まぁ、今日も仕事しにいこうかな。

 僕は紺色のスーツを着て鏡を見てみた。相変わらず決まってる。で、いつものように手袋をはめて人差し指と中指の準備運動を怠らない。あとはシルクハットを被って蝶ネクタイを締めれば、どこから見てもマジシャンだ。僕は背筋を伸ばして大物ぶってホテルを出た。ホテルマンもなんだか負けじと背筋を伸ばしてた。

 いきつけのバーの前まできたら、用心棒のジョンソンが出迎えてくれた。黒人で大きな体をして強面。だけど性格が正反対であんまり用心棒って仕事は好きじゃないらしい。

「遅かったな! 旦那」そういって歯を見せて笑顔を見せる。肌とのコントラストのせいか歯が輝いて見える。

「昼に行っても人がいないしな」

「お? てことは女の子目的か?」

「マジックだよ」大体、女の子なんてぜんぜんこないじゃないか。

「冗談さ。でも今日は珍しく女の子のお客さんが入ってるぜ」ウィンドウ越しに見てみると確かに、女の子が奥の席でレモネードを飲んでいる。なぜバーに来てまでレモネードを頼んだのかわからなかったが魅力的に思える女性だった。特にその茶髪の長髪、後ろに結ばれたポニーテールに惹かれた

「どうした? そんなに見つめて。まさか本当に女の子目的か?」

「いや別に、ただいい髪だなって」そうだけいって僕はドアを開けて入っていった。

 店に入ると、みんな拍手で迎えてくれた。どうやら僕も結構な有名人になったらしい。何回もマジックを披露していたうわさにでもなったかな。僕は見渡して一人の客に目をつけた。上質なコートを着けていて葉巻を吸っていた。右手の袖には金色の腕時計が見え隠れしている。

 「マスター、今日もいいかい?」マスターはぐっと親指を立ててOKサインを出した。確認した僕はその客の前に堂々と座った。

「どうも、マジックの実験台になっていただいても?」

「ふん」彼は葉巻を灰皿に押し付けてむすっとして、「実験台は困る、まじめにやってくれないと」そう言ってにこっと笑った。

「ありがとうございます」強めに握手をしてにこりと微笑み返す。「ウイスキーお願いできる? 安めのやつ」そうウエイターに頼んだ。

「いや、マッカランを頼めるかい? 私が払うよ」

「いいんですか?」

「マジックはあまり見ないからね、せっかくなら好きなウイスキーを飲みたいのさ」

「あんまり酔っ払うとタネ見逃しちゃいますよ?」

「タネがわかったらつまらんだろう」

「まぁ、タネなんてないんですけどね」そういうと彼も周りの観客もクスりと笑ってくれた。観客には例の茶髪の彼女も含まれていた。何でか笑ってなかったけど。

 ちょうどいいタイミングにウイスキーが来た。少しグラスに注いでやって目の前の彼にマジックに使うからと飲んでもらった。そのグラスを受け取ってポケットからコインを取り出す。

「皆さんいいですか? このコイン、何の仕掛けもないコインが見えますか?」そう言って茶髪の彼女に渡して見てもらう。彼女は叩いたり透かしたりして僕に返した。僕は席を移して彼の隣に座ることにした。そのほうが都合がいいから。それでハンカチを貸してもらってグラスの上にかぶせると彼の右手にコインを持たせた。

「握りこんでいてくださいね」そう言ってカウントを始めるんだけどもう僕の仕事は終わっている。

「ゼロ」そういうと彼の持っていたコインはウイスキーのキャップに変わってコインはグラスの中から見つかった。

 で、しばらくマジックを披露したあと、飲み比べをしてあの客はつぶしておいた。たぶん明日の朝にはすべて忘れてるだろう。マスターにありがとうといって、店を出てホテルに向かう途中だった。

「ずいぶんと手際がいいのね」振り向くとおくに座っていたレモネードを飲んでいた女の子が真後ろに立っていた。

「んー? 君は確かバーでレモネードを飲んでた子だよね? どうしたのかな?」わざと馬鹿にするような口調で話しかける。

「はぐらかしても無駄よ、あなたが時計と財布をスるのはちゃんと見たわよ」やはり見ていやがった、これだから女は。

「証拠でもあるのかい? ないなら言いがかりはよしてくれ」

「別にあなたをとっ捕まえたいわけじゃないのよ」じゃあなんだっていうんだ

「見事な手際だったわ、握手の際にはずしておいて右手を握ったときにするっと。財布だって右手で腕時計を取った隙にポケットから人差し指と中指で」

「たいした想像力だ」

「自己紹介しておくわ。私の名前はアーニー、探偵よ」どうりでよく観察してる。

「で、結局なにがしたい」この言葉を発してしばらくの間沈黙が続いた。お互いがお互いを見つめあう。まるでラブストーリーの一シーンだけど僕はさっさとホテルへ帰りたかった。彼女はハッと息をすってこういった。

「あんた、助手になりなさい」

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