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私と小隊長殿の魔族討伐  作者: 銀月
3.私と小隊長殿の事件捜査
7/28

前篇

「今度も魔族討伐ですか?」

「ああ、既に死者が出ているらしい」

「……死者ですか」


 小隊長殿が、相変わらずの仏頂面で告げる。


 前回の魔物討伐の後しばらくの間、私を含めた出動メンバー全員が傷が癒えるまで休暇状態だった。それが明けてひさしぶりの任務だと呼ばれたら、今度は魔族討伐らしい。

 魔族が本当にいるかどうかは置いておいて、死者が出ているのなら穏やかではない。嫌な任務になりそうだ。

 それにしても、私はすっかり討伐小隊付の魔法使いという扱いなんだろうか。任務があると必ず最初に呼ばれている気がする。


「死者が出たというなら、その死因などはわかってるんですか?」


 小隊長殿の仏頂面がますますパワーアップする。最近わかってきたが、小隊長殿の仏頂面は任務の時に最大になるようだ。任務がない時に見かけたら、眉間の皺が標準装備になっていなかった。


「それがはっきりしない。その村の人間の申し立てによれば、住民の女性が、魔族の魔法で人を呪い殺したということだ」

「え……なんですかその言い掛かりな申し立ては。呪いで殺すとか、相当ですよ」


 たいていの場合「呪い殺された」なんていうのは、魔法を知らない者による言いがかりだ。


「お前もそう思うか? だから、今回はまず調査で入る。その女性が魔族かどうかは、お前が見れば一発だろう。それと並行で殺された者の死因を再調査だ。魔族の関与が確定して、必要であれば応援を呼ぶ」


 呪いまで出てくるとは、今回の任務はどう転んでも後味が悪そうだなと考えつつ、私は銀槍騎士団の本部を後にした。


 ……呪いで人を殺すのは、実はそれほど簡単ではない。呪いは細く長く嫌がらせをするには向いているが、殺すなら直接的な手段に出るほうがよほど簡単だ。

 人を殺すほどの呪いを掛けるにはそれだけの代償と魔力が必要になる。並の魔法使いがそれを用意するのは至難の技だし、そもそも呪いには失敗も多い。おまけに、失敗の反動は洒落にならないくらい酷いものになる。それだけのリスクを冒してでも呪いたいというのは、だいたいにおいてそれだけの動機があるということで、その動機はだいたいにおいて恨みであることが多くて、恨みがでかいから呪いが成功するかといえばそういうわけでもなく……。

 はあ、と溜息が出る。

 もっとも、魔法に長けて魔力も豊富な魔族なら簡単に呪えるのかもしれないけれど、それにしたってなあ。


* * *


 それから3日。

 今回の申立があった村は少々距離が離れすぎているということで、魔術師団から転移魔法のサポートを受けての到着となった。さすがに早い。


「逃亡中?」

「ええ、彼女は、自分は罪を犯してないと言って逃げ出したのです。何せ、魔法が使えるので、村のものでは抑えきれず……」


 早速調査を始めるため、魔族の嫌疑がかかった女性……アニタの所在を確認したら、なんと逃亡中だとは。

 拘束……といっても、この村で下位とはいえ仮にも魔法使いを拘束するのは、確かに難しいかもしれない。


「魔法使いエディト、お前の探知魔法で行方がわかるか?」

「さすがに、相手をほぼ知らないのでは無理です。

 ……彼女に繋がる物品や彼女の血縁者があれば、遠見の魔法で見ることができるかもしれませんが」

「村長、どうだ?」

「アニタの血縁はおりません。物品は、彼女の家にいけばあるかと……」

「わかった」


 それから、村の者たちに呪い殺されたという犠牲者……スードという薬師が亡くなった時の様子をもう一度確認した。


 彼は自宅で血を吐いて事切れているのを、朝、訪ねていった村の人間に発見された。特に病気であった様子もなく、ただ、その前の夜、アニタが彼を訪ねていたことを、今回申し立てをした女性……ツィスカが知っていたということだ。

 また、ツィスカは、アニタが「彼は穢れに相応しい報いを受けた」と言っていたのだともいう。

 ……血を吐いて亡くなっていたことがなぜ呪いとなるのかはよくわからないが、アニタが何かをやったことには間違いないのだろう。アニタ本人も、スードに手を下したことは否定していないらしい。

 ちなみに、アニタとスードは恋仲だとのことで、だったら単なる痴話喧嘩の縺れによる殺傷事件でしかないのではと思うんだが。


 さらに言えば、そこからなぜアニタが魔族だと言い出したのかがさっぱりわからない。

 まさか、アニタが魔法使いだから魔族疑惑が出たのか?


「では、まずはスードの自宅を確認する。それからアニタの自宅を調査し、所持品の確保だ。では村長、案内してくれ」


 小隊長殿の淡々とした指示に従って村長の案内で薬師の家へ向かうと、そこは家というにはかなり小さく、庵と呼んだほうがしっくりとくるような住まいだった。


「では、魔法使いエディト、頼む」


 私は頷いて探知魔法を詠唱する。

 魔法が完成した後もそのまま集中を続け、家の中に何か魔法的な痕跡や魔法のかかったものが残されていないかを探るのだ。

 万が一、この家の主が本当に呪われていたなら、何かしら痕跡が残っているだろう。

 呪いに限らず、何かないかと集中を続けたまま家の中をくまなく歩き回ると、これは……。


「小隊長殿、そこのラグをどかしてください。床に何かあります……そう、そのあたりです。印をつけておいてください」


 床に魔法の痕跡を感じた。この魔法は幻術だろう。幻術を破るには別な魔法が必要なので、ひとまずは置いておく。

 他に……と探してみたが、床の幻術以外に特にないことを確認できた。


「見つけたのはこの床にかかった幻術だけです。……破りますか?」


 小隊長殿が頷くのを確認し、幻術を破る魔法を詠唱する。なかなかによくできた幻術で、魔法を使わない限りこれを見破るのは困難だろう。魔力を込めて集中してようやく解除すると、出てきたのは……扉?


「……隠された地下室ですか」

 騎士オットーが呟く。

「扉を開けて、まずは探知魔法で探りましょうか。スードという薬師は魔法使いでしたっけ?」

「探知魔法を頼む。薬師が魔法使いかどうかは報告になかったな……村長、どうだ? 薬師は魔法使いだったのか?」

「いえ、彼が魔法を使ってた覚えはないんですが……」


 小隊長殿が考え込んでいる。魔法を使っていた様子はないのに、ここにしっかり魔法がかかっているのはどういうことなんだろう。魔法使いであることを隠していた? 何故?

 扉を開いて、改めて探知魔法を詠唱し、地下にかかっている魔法を細かく調べていく。

 ……驚いたことに、地下にはかなりいろいろな魔法の物品があるようだ。


「魔法だらけですね。でも、罠のような危険な魔法はありません。場にかかっているのではなく、魔法の物品が安置されているようです」

「では、魔道具で床に幻術を掛けた可能性は?」

「……道具だけでここまでしっかりした幻術は無理だと思います。少なくとも、本人に幻術の素養があって魔法の訓練を受けてないと、たいした幻術は使えませんし」

「村長、逃げてる女は魔法使いだったな。彼女は幻術は使えたか?」

「よくわからないです。知ってるのは、道具なんかを魔法で補強するのを生業にしてたということくらいで……」

「強化魔法の使い手か……幻術が使えないかどうかは、それだけではわからないですね」


 下位の魔法使いに使える魔法の系統は、大抵1種類、多くて2種類がいいところだけど、彼女が本当に下位の魔法使いだったのかどうかもわからない。


「ええと、まずは地下室の中を確認しますか? 私と……この中で魔法の素養があるのは小隊長殿だけですね。確認するなら、小隊長殿、お願いします」

「わかった」


 魔法の物品がある以上、ある程度魔力を感知できるものが調査に当たったほうがいい。魔力を帯びたものに気づかず無防備に触ってしまうと、事故になりかねない。

 その点、小隊長殿なら魔力感知ができるから安心だ。


 地下に降りて魔法の灯りを灯すと、そこはどう見ても魔法使いの作業場だった。

 壁際の棚には魔法に必要な道具や魔道書がきっちりと並べられ、前には大きな作業台が置かれている。魔道具の中には私が見たことがないようなものもあったが、これらの道具はここの主が結構な魔法の使い手であることを示していた。

 これが、薬師だというスードひとりのための作業部屋だとしたら……スードはかなりの使い手だったということだ。王都の魔術師団にも、これらを全て、ひとりで使いこなせるような魔法使いはいないだろう。いるとしたら、師団長クラスの高位魔法使いだ。


「これはすごいですね……彼は相当な高位の魔法使いだったのでしょうか。なんでこんなところで薬師なんてやっていたんでしょう」


 私は思わず感嘆してしまった。これらを使いこなせるほどの魔法使いが無名だとは、とても信じ難い。それに、これほどの魔法使いが呪いなんぞを受けるというのも信じ難い。


「ええと、ざっと見た限りですが、危険な物品はありません。どれも魔法の補助具として使われるものばかりです。いくつか私も見たことないものがありますが……おそらく、それも魔法のための道具だと思います」


 小隊長殿は、作業台の上に置かれたものを確認しているようだった。


「覚書か……」

「何か書いてありますか?」

「魔法使いエディト、ここでお前の知らない魔道具ってのはどれだ?」

「ええと、このあたりのものですね」


 小隊長殿が、そこにある魔道具を見て考え込んでいる。知っているのだろうか。


「小隊長殿?」

「……魔族かもしれない」

「は?」

「ここの主が、魔族かもしれない」

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