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私と小隊長殿の魔族討伐  作者: 銀月
6.私と小隊長殿の魔族××
23/28

最終話

 フェリスがかわいくて毎日悶え死にそうです。

 帰宅してフェリスの顔を見ると仕事の疲れも吹っ飛びます。


 毎日語彙が増えていって、フェリスはどんどんいろいろなことを話すようになった。同じ年頃の子供と比べてもこれは格段に早い。親ばかだから言うわけではなく、どうやら、魔族というのは発達が早いようだ。

 2歳から3歳と言えば魔のイヤイヤ期真っ盛りで、嫁さんがキレたり子供が荒ぶったりでそれはそれは大変なのだと先輩魔法使いから聞いていたのだが、どうやらフェリスはそれにも当てはまらないらしい。もっとも、まだここの環境に慣れていないからおとなしいだけという可能性も高いけれど。


 そして休暇2日目にうちを訪ねてきた弟に、さっそく新たな家族ができたことがバレた。うるさくあーだこーだと言われたが、弟もすぐにフェリスのかわいさにやられてメロメロになっていたので問題なし。

 ちなみに、それ以来、弟は、うちを訪ねるときには必ずフェリスへの手土産を持参するようになった。

 近いうちに、実家の両親からも一度フェリスを連れてこいと連絡が来るかもしれないが、この分ならフェリスのかわいさにやられることは間違いないだろう。問題なしだ。私の結婚はもうありえないと両親に諦めてもらうことは確定だが、まだ弟もいるし、一足飛びに孫ができたのだから大人しく我慢してもらおう。


 計算外だったのは、小隊長殿の訪問が増えたことだ。まさか小隊長殿はロ……と考えて牽制したところ、全力で否定された。

 私としても、20以上も歳が離れた自分より上のおっさんにかわいい娘を嫁に出すとか、冗談じゃないので安心した。油断はできないが。

 あと、何か残念なもののように私を見ていたのは気のせいだと思う。


 ついでに言うと、エルネスティに「小隊長殿とお付き合い始めたのかしら?」なんて小首を傾げながら可愛く追求されたのだが、今度うちに招いてフェリスと同居人のユールを紹介するということで落ち着いた。

 時期を見て、エルネスティにはちゃんと本当のところを話したいとは思う。大切な友人である彼女には、どうか理解してほしい。


 ──ああ、少しずつでいいからきちんと知る人が増えていけば、魔族だからと無闇に恐れることも偏見もなくなるんじゃないだろうか。


 もうひとつ意外だったのは、ユールがあまり面倒臭がらずにフェリスの世話を焼くことだ。まさかユールもロ……と疑惑を抱いたら、魔族にとって10年程度の年齢は誤差の範囲らしい。

 さすが500歳越えは感覚が違うと感心しそうになったけれど、いや、ロ……であることには変わりないし、そもそも私より年上とか以前に500も歳が離れた男に嫁に出すのは以下略だ。

 言ってることがどこまで本気なのかわからないうちに、いつものにやにや笑いでごまかされてしまったが、本気だと言うなら私は全力で邪魔させてもらうつもりだ。相手が“王都の魔”と言われる魔族であっても断固として邪魔をするとも。


 というかフェリスは嫁に出さん!


 ……などとぶつぶつ言っていたら、今もたまに手伝いに来てくれる半妖精美少女のエル嬢に「まるでお父さんですね」と言われてしまった。

 ユールの友人にこんな美少女がいたというのも納得がいかない。ほかにも隠していないだろうな。


 そういえば、王都に戻ってすぐ、念のためにフェリスの父親の行方がわからないだろうかと遠見の魔法を試してみたのだが、水鏡に反応はまったくなく……やはり、父親は亡くなってしまったのだろうな。

 せめて名前や住んでいた場所くらいはわかるとよかったのだけど。


* * *


 そして、フェリスの将来のためにと目標を定めたものの、師団入団3年目のペーペーに毛が生えた程度の私にできることは相当限られている。

 だが、だからと言って何もしなければやっぱり変わらない。それに、これからも討伐任務に派遣されることは間違いないのに、魔族が関わるたびに後味の悪い思いをするのはもう嫌だ。


 けれど、今自分にできることって何だろう。


 魔法使いに……というか、師団に魔族を組み込めれば、師団所属の魔法使いは魔族の魔法を学べるし師団の戦力も上がる。魔族にしても王国付の魔法使いとなれば追われることも無いし、魔法使いでない人々も王国のために働いてる者を無暗に恐れることはないんじゃないか。

 ユールは、そんなにうまくはいかないよと言うけれど。

 ……まあ、そのためには師団所属魔法使いの無駄なプライドの高さをどうにかする必要はあるし、魔族がどう考えるかも問題か。ああそうだ、教会の連中も黙らせなければならないな。魔族討伐を一番うるさく言うのは教会だし。


 うまくないな。やっぱり出世しないとだめかな。

 騎士カーライル殿くらいの実績と権力があればなあ。


 師団は、幸い、騎士団のように出世に身分はそれほど関係ない。もちろん、身分はあるに越したことはないが、どちらかというとまずは上位の魔法使いになれるかどうかにかかっている。そこに政治力……上に気に入られることか。何かわかりやすい実績が積めればさらにいいんだが、戦争もない今あげられる功績なんて、討伐しかないじゃないか。


* * *


「小隊長殿が上位の貴族様だったらよかったのに」

「何の話だ」


 相も変わらず、週に最低2回はフェリスの顔を見に来ている小隊長殿を相手に、言っても仕方のないことを言ってみる。


「出世したいなと思ったんですよ。フェリスの明るい未来のために」

「お前の言うことは唐突すぎて時々わからん」

「……魔族が師団に加わると、いろいろ都合がいいんじゃないかなと考えたんです。私に強権があればまずは手近なところでユールあたりを引きこむんですが」

「……あれが素直に働くと思うか?」

「そこも問題ですよね……まあ、無いものをうだうだ考えても仕方ないので、まずは魔法使いの間に魔族についての情報を流すところからかなと考えてます」

「情報?」

「ええ。魔法使いであっても、魔族について知ってることなんて、初めて小隊長殿と会ったときの私程度のことしかないんですよ。上位の魔法使いの方々はどうだか知らないですけど、中位以下の魔法使いの持ってる魔族の知識なんて、誰もが似たり寄ったりの迷信レベルです。

 とはいえ、そこは腐っても魔法使いなので、正確で納得いくものなら知識は知識としてきちんと吸収しますし、わりと筋道立てて考えてくれます。そもそもそれができなきゃ師団に入れるレベルの魔法使いにはなれませんし。

 だからまずは正しい知識の浸透を、身近なところからやっていこうかなと。きちんと知ることができれば、無駄に恐れなくていいと考えられるようになりますから。

 幸い、小隊長殿に呼んでいただいてるので、私の魔族関連の経験は師団の中でもかなり多いほうですし、師団の中では上位の探知魔法の使い手だとも知れてます。おかげで知識の出所とか根拠とか、ほかの魔法使いが納得する程度にはいろいろ説得力のある話ができるんです。

 なので、小隊長殿にもいろいろ頼むかもしれません。さすがに情報源がユールだけでは偏ってしまうんですよね。

 もっと魔族の知り合いができればいいんですけど」


 ここのところ悶々と考えていたことを一息に話すと、「なるほど」と小隊長殿は頷いた。

 もちろん、魔法使いの間ですら、魔族に対する偏見が根深いと感じることは多い。だけど、やっぱり何かをしなければ何も変わらないし、私は同じ魔法使いとして、師団の仲間たちが知り得た知識をもとにフェアに考え、納得いく答えを出してくれることを信じたい。


「……なら、俺の実家に行くか?」

「小隊長殿の実家ですか」

「母も一応混血だ。それに、あそこには生粋の魔族だった祖父の蔵書も多い。何か参考になるものがあるかもしれない」

「なるほど、いいですね。行きます。あ、フェリスも一緒でいいですか? あの子の事情を知ってる知己は多いほどいいと思うんですよね」

「もちろんだ」

「ディア様に会うのは久しぶりですね。楽しみです」

「……お前、本当に女の子が好きだな」

「美男なんて騎士団に腐ってますからね。美少女は宝なんですよ。眼福なんです」


 まだまだ本当にささやかなことしかできないが、私にできることから始めよう。

 そしていつかフェリスが……フェリス以外の者たちも皆、素の姿のまま、この王都で暮らせるような世界になってほしいと願う。



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