ダークエルフの煩悶
ダークエルフの煩悶~迷宮遺失物係~
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「これ、拾ったんですけど」
見つけた革袋をわざわざ届けに来た殊勝な冒険者にお礼を言ってダークエルフが引き取った。拾った物はそのまま使ってしまおうという人たちが多いのに、なんてできた人だ。拾った物どころか他人の家の引き出しの物を探って「薬草を見つけた!」というヤツもよくいる。名前を聞くとだいたい「ああああ」とかそんなヤツなので同一犯かと思えば、模倣犯というかこういう人はよくいるらしい。世の中終わっている。
拾った人が現れたら見つけた人の名前を伝えていいだろうか。一割もらえるかもしれませんよ、と言いながら革袋の中に身元がわかるものがないか調べた。たくさん入っていた毒消し、迷宮は過酷な生存競争をしているくせに毒を使うヤツがだいたい遅効性なので刺されるとツラい上にハラハラする。一回刺されて死んだ人ほど次行くときはたくさん毒消しを持つようになり、道具屋と教会がグルになっているのだろうかと思うことがよくある。教会の人って物々しく生き返らせるのに止めてはくれないんだよね、とこぼすと届けた人は「そうですよねー」と言っていた。ダークエルフは冒険者をパッと見て「4階は無理だな」と思ったらそれとなく別の階を進めていて、死亡率が少ないので評判がいい。その代わり教会には目の敵にされている。なんで死ぬ人が少ないと怒られるのかは未だに知らない。
薬草(20)×3、毒消し×9、薬草(40)×2、気付け薬×6……。たぶんサソリアリの巣を踏むとかで死んだ人が落としたのだろう、常連さんだったら後で届けられるから一度こちらで預かっておきますと引き取った。拾った人が「大丈夫ですか?」って聞いてきて何かと思ったらなんとなく手に取っていた瓶に「聖水」と書いてあった。大丈夫に決まってるわ、ボ……!ヴォイドバットじゃないんだから、とすんでの所で飲み込んだ。お客さんだし向こうには悪気がない。「本当に悪気がないのか」を考え始めると話がこじれるのであえて考えない。今日は酒が進みそうだ。
「ええとねえ、状態異常で死んだ人はぁ、今月はぁ……4人いるよぉ」
受付のエルフがだいたい調べてくれたので今度来たら教えてもらう。状態異常で死ぬとか初心者ならよくやるが慣れた人ならどれくらい放置できるかちゃんと知っているので死ぬことは少ない。それでもたまにいることはいるのでその中の人のはずだ。どうせ攻撃しか考えずに戦士と魔導師で固めたのだろう、僧侶がいないといざというとき回復できない。知り合いに僧侶がいるなら、頼んででも来てもらった方がいいですよ!とみんなに言っているダークエルフだが、そのせいで教会がよけいに怒っているらしいという話も聞く。死ぬ人が減るからいいことだと思うが、なぜか怒られる。落とし物の革袋は、中身と特徴を記録して宝箱に入れておく。はい、これですね、と出すと驚かれる事があるのでモンスターが化けるタイプの宝箱はやめた方がいいと言っているのに、これしかない。これが原因で死んだ人のことを考えなさい、もう一度見たらびっくりするでしょ!そんな現場の都合はだいたい通らない。
宝箱を倉庫に置いて、たまにチェックしないとモンスターが紛れて噛みつかれるから並べてあるのを一通り叩く。今日は一つ混じっていたのでどけておいた。どこかに穴でも空いてるのかな。こんなにあると区別のつかない職員もいるから早く直さないと。数日後に落とし主が現れた。またですかぁ?ってエルフが言ってるからどうやらいつも落とすらしい。アイテムどころか命まで落として受付で話がしたいのか、ダークエルフが倉庫に行くとここぞとばかりにしゃべり始めた。そんなにたくさんしゃべるとエルフの処理能力が追いつかないからもっと少ない言葉でポイントだけ伝えないと。そんなことができるのはダークエルフくらいなので、何度言い寄られてもエルフは「あれ~?」で済ませている。だから数はいるのにこっちはこっちで男がいない。今回もニコニコ笑ってたぶん聞いていなかったエルフはダークエルフが帰ってくるとすぐさま話を切り上げた。
中身を言ってください、と聞くと薬草がたくさんとしか覚えていなかったらしい。まあ覚えないか、という量が入っていたので他の身元確認をしようと思ったら「逆鱗が入ってます」と言っていた。逆鱗と言えば結構珍しくてドラゴン騎士くらいしか持ってないはず。確かに一個混じっていて、じゃあ問題ないかと思ったら後からもう一人来た。長身の男、甲冑。紋章があるので身分がいい。逆鱗をなくして見つからないのですが、と聞いて革袋を渡す手が止まった。あれ?逆鱗ってそんなにたくさんないよね?逆鱗に刻まれた紋章が男のものと同じなのでなんかおかしい。ちょっと待ってくださいね、って言ったら慌て始めた。あ、これは。その後一悶着、捕り物になった。盗品を取り合って仲間割れして全滅して今取りに来たらしい。向こうがヤケになってちょっと危なかったけど持ち主のドラゴン騎士が助けてくれて、すぐに収まった。ありがとうございます、ぜひお礼を……!と言うドラゴン騎士は人間側の血が濃くてイケメンの類い。どうせ美人の人気者を見て鼻の下を伸ばしているのだろうと思い、いいけどこの子ハードル高いわよ?とエルフをあてがおうとしたらドラゴン騎士は肩を落として帰っていった。フラれたみたいに落ち込んでいる。「あれ?ふった?」と気がついて大慌てでもう一度探したけど、落とし主の名前を控えていない。逃がした竜はでかかった。




