第4話 Born to Be Wild/05
【改訂版】(コード・フレームワーク) ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』
無印からの続き、第1章 point of no return - 白刃鼓動すべし
お楽しみください。
悠の心は猛っていた。
連盟のコード・ライダーとは最近、嫌になるほど闘ってきた。
まるで付きまとうように、とっかえ、ひっかえアルマナックの行く先々に現れるようになった。
行きがかり状とはいえ、シージン・マーチでレイザー・ホールとボンバー・ナッシュの二人――。
連盟の始末屋であるクラッシュのメンバーを倒したのだから、そうもなるだろうとは理解できる。
以来、どいつもこいつも『俺は連盟の某だ』と名乗りを上げては突っかかってきた。
それぞれが、どこかで聞いたことがある、名の知れたコード・ライダーばかりだ。
悠も、相手を舐めてかかったことなど一度もない。
一人として、油断できるような連中ではなかった。
純粋に上手い。
姑息で卑怯。
強烈なパワー。
予測不能でトリッキーな技。
見たこともない、武器。
それぞれがまったく異なる戦い方を見せてきた。
苦戦の連続――。
正直、勝ちを拾ってきたのが自分でも不思議だった。
それなのに―― そんな際どい勝負に、悠はなぜかノレなかった。
どうしても、罪の男と比べてしまう。
あの一騎打ちに比べると、熱くなれない自分がいた。
最近はもう、ウンザリとさえしていた。
しかし、今、目の前で対峙するこの相手は違った。
南部の帝王を率いる、ジェリー・ザ・キング。
今なお、逸脱者の称号を掲げる、1%er。
剛腕と呼ばれる、男の両腕のガントレットから繰り出されるコンビネーションに、悠は翻弄されていた。
「くそっ・・・」
突然の背後からの衝撃に、γが吹き飛び、前方へとつんのめった。
慌てて、機体を踏ん張る。
そのまま、リンボーダンスでもするかのように、機体を反り返らせた。
咄嗟の動きだ。
ほとんど、勘に頼った本能的な行動だった。
のけ反ったγの上を不細工なパイプ状の鉄塊が唸りを上げて、横殴りで通過する。
(まだ来る!)
フットペダルを一気に踏み込んでから、アクセルを一気に開け放つ。
γのコードベースが鋭い金切り音をあげると、悠はペダルを離した。
矢が飛ぶように水平にγが離脱する。
γのいた場所に、鉄槌のように拳が振り下ろされ、地面が砕け、爆発した。
衝撃と瓦礫が機体に叩きつけられ、大きく振れる機体をシートを前に押し込むようにして姿勢を立て直す。
姿勢を低く、ヒールのスパイクを立て、急制動をかけた。
ガツガツと激しくドン突きしながら、γが停止した時、モニタにスヴァルトピレンの姿はなかった。
悠の血の気が一気に引いた。
「……どこだ!?」
左の視界の隅に影のように塊が微かに動くのを感じた。
息を呑みながら、サブマシンガンを影の方へ向ける。
敵のシルエットを銃身が捉えた――。
そう思った瞬間に、影が揺れる。
視界の下を、左に何かがよぎる。
「こっちか!」
慌てて、今度は左へと向きを変える――。
悠は目を見開いた。
心臓が口から飛び出そうなほど、鼓動が跳ね上がった。
半円球モニタの正面一杯の至近距離――。
まるで自分を覗き込むようにスヴァルトピレンの顔が、そこにあった。
恐怖で、後に飛び退く。
「しまった」と舌打ちする。
誘いこまれた。
このままでは自ら的になったようなものだ。
機体を右に捻って、少しでも相手に見せる面積を極小にしようとする。
スヴァルトピレンが踏み込み、左のストレートが追いかけてくる。
ガントレットのスパイクが、γの肩に接触すると弾けるような衝撃が突き抜ける。
肩のアーマーカウルが砕け、γは斜めに回転しながら吹き飛ぶ。
悠はそれでも、アクセルは戻さず、パワーバンドをキープする。
力場と抵抗を作り、ブレる機体を安定させる。
ここまでまったく、緩めることなく、γはアクセルを開けっ放しの状態だ。
機体を安定させた瞬間に、次の一撃が迫っていた。
「速ぇ――」
一拍も休ませず、スヴァルトピレンは、あの一気に間合いを詰める動きで接近し、右を放たんとする姿に、悠は思わず苦笑いした。
『ああ、そうさ、これだ』という感慨だ。
子供の頃に焦がれてた、人型の戦闘ロボット――。
手に届かない非現実な存在だったそれが、急に目の前に現れた。
仮想現実世界の世界だけで成立する、コード・フレームワークという存在。
そして、手に入れ、のめりこんだ。
悠の世代にとっては、話にしか聞いたことがないアナーキー・トレインの時代。
無法の荒野で、『我こそがコード・ライダー』と鎬を削った時代だ。
それを生き抜いた伝説、1%er。
ジェリー・ザ・キングという男の説得力。
罪の男の強さとも違う。
憧れた存在の力を悠は、全身で感じとり、そしてまた焦がれていた。
『どうして、こんなに強いんだと』。
「やられてたまるか!」
迫り来るスヴァルトピレンになぜか、柳橋の姿が被ったように見えた。
『さあ、どうするよ?』と言われたような気がした。
悠は、自分のやれることをぶつけるしか活路は無いと、考えるよりも体が動いた。
軽くγをジャンプさせた。
踏み込んでくるキングは、それを好機と見たか右のパンチを放つ。
そのパワーを乗せるために踏み込まれたスヴァルトピレンの膝に向かって、γは空中で蹴り込んだ。
それを踏み台として、後ろへと飛ぶ。
その攻撃にスヴァルトピレンは一瞬、その勢いを削がれ、動きが止まった。
γは敵に二丁のサブマシンガンを突きつける。
「――――!?」
違和感――。
γの腕が重く感じる。
ギュっと、脇腹のあたりに強く掴まれる感触。
「ダメ!」
背後からの声に悠は、緊張と高揚の間から引き戻された。
ついで、コクピットの天井からバララッ!という嫌な音が響く。
ジェリー・ザ・キングという強敵との勝負にすっかり、チセの存在を忘れていた。
そのチセの声で、ようやくアクセルを戻した。
危なかった――。
あの音は知っている。
チセと出会った事件の時にも聞いた。
そのあと、γのコードヘッドのブロックを内圧が突き破ったのだ。
あのままスロットルを戻さなければ、きっと、勝負どころか、またγの胸に大穴を空けるところだ。
「チセ…… 悪い」
後ろめたさに、思わず背後を振り返った。
「わぁぁああ! バカぁ! まえ見ろ! まえ!」
さらに脇腹に指を食い込ませ、チセは目を見開き、叫ぶ。
アバラ骨と腹の境目に激痛を感じつつ、慌てて体を正面に戻した。
「だぁぁぁぁあああ!」
絶好のカウンターのチャンスを失った、γに巨大な鉄拳がモニタ一杯に迫ってきていた。
ハンドルに齧りつき、再び、アクセルを捻る。
しかし、ボッ!ボッ! 詰まるような音が、頭上から響く。
その音にチセの罵声が飛んでくる。
「急に回すな! 吹き飛ぶ!」
「イヤイヤ! どうしろってんだ?」
悠も言い返す。
「なんとかしろぉ!」
まったく、勝手なことをと、背後の少女の無茶振りに顔をしかめるが、実際、わずかにアクセルを戻すと異音が消えた。
その事実には、悠は素直に関心した。
「キャアアアア!」
チセは悲鳴を上げて、また、背中に額を押し付けた。
「おおぉ! やべぇ!」
さらに、ガントレットがγに真っ直ぐと向かってくる。
悠はジワリ、ジワリとアクセルを捻る。
焦ったい。
いつものはキビキビと動くγが、まるで風船がふわふわと浮いてるように感じる。
首筋にヒヤリと汗が流れるのを感じた。
だが、スヴァルトピレンの拳と距離が開くのを見て、悠は安堵した。
パンチが伸び切る―― だが。
ゴンッ! と目の前の拳――。
ガントレットのスパイクが打ち出されるように伸びてきた。
「ヒッ!」と悠の喉の奥から細く、息が漏れた。
バシンッ! 巨大なバネ仕掛けが伸び切るような音が響いた。
γの顔の直前でイカつい突起が威圧的な鉄板が止まっていた。
なんとか直撃は避けたか……。
悠がほんの少し、安堵した直後。
視界が閃光に包まれる。
ガンドレットのスパイクが爆発し、γのマスクをさらに砕く。
「――!」
爆発に吹き飛ばされ、γは床に投げ出された。
叩きつけられ、機体がバウンドして転げた。
悠は歯を食いしばって、衝撃に耐える。
モニタに機体のあちこちの破損が、警告として表示される。
背中に頭を押し付けたチセがキューと、小さな動物が締め上げられたような声をか細く上げた。
「このヤロウ! やりやがったな!」
牽制の射撃を行い、悠はγを引き起こした。
スヴァルトピレンは両腕をクロスして防御していた。
サブマシンガンの弾は虹色に光る、処理境界に阻まれる。
吹き飛んだγを追撃はしてこない。
おそらく、悠がカウンターを仕掛けたことに、警戒している。
相手の躊躇を感じて、負けていないと確信した。
(まだ、イケる!)
「……逃げて!」
背後からのチセに声に、再びその存在を忘れかけたことに気づいて踏みとどまった。
「そう簡単に逃げれる相手じゃない――」
「今の状態じゃ無理。 勝つとか、負けるとかの前に、γが死んじゃうよ」
チセの淡々とした声。
γが死ぬという言葉が妙にリアルに悠の胸に刺さった。
「逃げろなんて言わない―― 少しでいいから一旦、あいつから離れて」
チセが肩越しに腕を伸ばした。
真っ直ぐと指を伸ばす。
牽制の射撃を続けながら、悠はその指の先を見る。
1%er―― ジェリー・ザ・キングのスヴァルトピレンの頭上。
(崩れてかけてる……)
ちょっとしたビルが、一つ入るかという、遥か頭上。
亀裂から、巨大な柱が顔を覗かせている。
距離はあるが、それでも90ミリの弾なら十分に破壊できる。
「……少し時間を頂戴」
さっきまでの怯えた声から想像もつかないほど、チセの声は冷静で力強い。
「大丈夫、勝たせてあげるから」
悠はチラリとだけ振り向いた。
チセの顔を見た―― 少し震えているのがわかる。
明らかに、痩せ我慢をしている。
それなのに、自分を勝たせるとチセは言っている。
シージン・マーチの時と同じ、その言葉を信じることにした。
悠は正面を向くと、警告だらけのモニタの残弾表示を確認する。
そして、左手の銃口はスヴァルトピレンを向け、トリガーを引きながら、右の銃口を、その頭上へと向けた。
――引き金を絞る。
読んでいただき、ありがとうございました。




