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第4話 Born to Be Wild/04

【改訂版】(コード・フレームワーク) ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』

無印からの続き、第1章 point of no return - 白刃鼓動すべし 


お楽しみください。

◼︎ ◼︎

 悠はアクセルを戻した。

 γの速度が、わずかに落ちる。


 腰のウェッポンラックから、両手でサブマシンを引き抜く。


(来いよ……)


 静かに、息を吐く。

 次の瞬間。


 スヴァルトピレンの影が、再び視界の端に滑り込んできた。


 低く轟き、響く。

 

 |大型単一コード・ベース《ビックシングル》の音の一発、一発と連動するように、その影は爆発的に距離を詰める。


 まるで瞬間移動を繰り返すような動きで、γの左側面へと躍り出た。

 同時に左腕を後ろに引き絞る。


「やっとその気になったか、坊や(キッド)!」


 キングが嬉しそうに叫ぶ。

 

 悠も動きを変えたことには悟られているとわかっていた。

 ここまでの追撃で、こっちの手の内は、ことごとく見抜かれている。


(とっくにお見通しだろうさ!)

 

 スロットを緩めた時点で、気づいているはずだ。

 

 悠はγを左に向けた。

 スヴァルトピレンを正面にとらえ、横向きに滑走状態に入った。


 悠は集中する。

 相手の微かな動きも捉えようと、左右に眼球が動く。


「シッ!」


 キングの口から鋭く、息が吹き出された瞬間、引かれた左のガントレットが弧を描くように、抜き放たれる。


 γの進行方向に被せるように放たれた左拳。


 ズームで引き伸ばされたように、ガントレットの、鋼鉄の鈍い輝きを放つスパイクがγの半円球モニタに巨大に迫ってくる。


 だが悠の視線はその圧を放つ拳を向かない。

 この攻撃は誘いだ。


 進行を塞いで、ブレたところに本命が――。

 右拳が飛んでくる!


 悠の思考が加速する。


 後ろにのけ反る(スウェー)か?


 だめだ。

 クランクケース(コクピットブロック)がガラ空きだ。


 頭を下げるか?


 違う。

 斜め下から右のアッパーが来る。


 避けようとすれば、合わせてくる――。

 ならば。


「喰らえやぁ!」


 悠は一歩、γを前へと前進する。

 逃げは終わったのだ。

 

 前へ出ると同時に、右の肘をスヴァルトピレンの顎に向かって薙ぐように突き出す。


 ガントレットの圧に臆さず前に出る。

 その行動にキングは驚いた。


「このガキ――!」

 

 思わず身をのけ反らせ、ハンドルを引いた。

 フットペダルを踏み込む。

 

 スヴァルトピレンが後ろに飛び退くように離脱する。


 γの肘が宙を切った。

 瞬間、掠めるように空を切った空間に、弾けるような虹色の光の飛沫が舞った。


「引いたな、1%er(ワンパーセンター)!」


 γは両手のマシンガンを構え、スヴァルトピレンをさらに追う。

 壁に向かってロケットランチャーを使い切ったことを悠は少し後悔した。


 離脱する機体の鼻先で、空を切った肘の先から舞った干渉光。

 相手のコード・ユニットの出力は桁外れだ。


 |大型単一コード・ベース《ビックシングル》の敵を相手にするのは初めてだ。

 その力を―― 自分の反撃で、知ることになった。


 肘の先にある空間が、べっとりとまとわりつくように重い。

 まるでゴムの塊にでも突っ込んだような感触だった。


 怖いのは、一瞬の瞬発力(トルク)だけじゃない。

 CFを覆い、機体を駆動させる処理境界(プロセス・フィールド)


 強烈に高い瞬発力(トルク)が、処理境界(プロセス・フィールド)をまるで、バリアのように強力な障壁にまで高めている。


 γのサブマシンガンでアレにダメージを与えるなら、接近するしかない……。

 それは、あの1%er(ワンパーセンター)間合い(フィールド)――。

 そこに飛びこむことを意味していた。


 γは迷いなく突っ込んでる。


「あんなCFでよくやる……」


 キングは呆れ半分で言った。


 シージン・マーチの時と変わらない。

 あいかわらず、青臭い動きだ。

 

 まったく、やってることと、機体のやれることがチグハグだ。

 

 あからさまに無理矢理だ。

 デタラメと言い換えてもいい。

 

 それは、かつて嫌というほど味わった、殲滅明王の圧倒的な暴力性――。

 それでいて洗練されていた、あの動きとはほど遠い。

 

 だが、なぜか被る。

 

 デタラメでがむしゃらなその動きの端々に垣間見える。

 シージン・マーチで見た時も、感じた。

 

 体に叩き込んだ型や流儀――。

 そういう類のものだ。

 

 キングは二つのガントレットを揃えるようスヴァルトピレンの顔の前で、構える。

 ピーカブースタイル――。


 正面から相手を打ちのめすための態勢をとった。

 

《テメェが乗れなくなって、未練でも残したか?

 テメェの何かをこの世に残したくなりやがったか?

 

 他人なんぞ、壊すだけの貴様が何を血迷って、ガキにモノを教えている?

 

 お前の痕跡など残してやるものか》

 

 そんな思いと同時にモヤモヤツした不安が沸く。

 もし、こいつが、もっと強力なCFに乗ったら、と――。


 「叩き潰してやる」

 

 かつて、潰されたメンツへの暗い報復の炎を灯した呟きを、ジェリー・ザ・キングは漏らした。


◼︎ ◼︎


「あー!? なんだぁってぇ!?」


 ライノはエリミネーターの腕を薙ぎ払う。

 分厚いアーマーカウル(装甲)の腕が、敵CFの顔面を叩き潰す。


 ぐるんと不自然に空中で一回転した相手に、とどめにガトリングを叩き込んだ。


「だからぁ! 悠を1%er(ワンパーセンター)が追いかけていって――」


 ケイトが看板(カラーズ)通信で怒鳴ってくる。

 とはいえ、正直、かまってやれるような状況ではない。


 やや上空のジクサーから、対空弾幕の赤い光が瞬いている。


「だぁー! 無理!」 


 モニタに斜め下から二つの接近の警告。

 ガトリングでは取り回せない。

 

 とっさに、右手で腰のホルダーからレバーアクションのショットガンを抜き放ち、近づいてきた一機にズドンッ! と一撃。

 

 ついで振り向き様にトリガーガードのレバーに指を引っ掛け、くるりと素早く回転させリロードする。


 背後の接近してきていた敵にも一撃。


 ショットガンをホルダーに戻しながらもう一度、ジクサーを見る。

 まだ数機のCFにたかられている。


 雑多な装備から見るに、今、攻撃をしかけているのは幸か不幸か、連盟(フェデレーション)だ。

 さっさと蹴散らして、アーミーのライナーとハマーが出てくる前に身を潜めないと危ない。

 

 「ママかリーダーに言え! 今、俺は無理!」


 ライノはエリミネーターの両手でガトリングを掴むと、ジクサーにまとわりつくCFを駆逐すべく、スロットルを開けた。


◼︎ ◼︎


 目を固く閉じて、細かく小さく、浅い呼吸をする。

 悠が「つかまれ」と言った声――。

 チセは急に怖くなった。


 これまで、何度もγに、悠の後ろに乗ったが戦闘に立ち会ったのは初めてのことだ。


 悠が戦う姿、戦闘をするγの姿はこれまでも映像を通しては、何度も見た。

 

 でも、こんなに間近で、直に戦闘に臨むなんて――。

 

 ましてや、コクピットの中でそれを見ることになるなんて思ってもいなかった。


 このミッションでγに乗ることになって、戦闘はあるかもしれないとは思っていた。

 でも、実際にはこれっぽちも覚悟なんて、出来ていなかったと、思い知った。


 悠の声は普段から想像もできないくらいに、硬く、冷たかった。

 有無を言わせぬその言葉――。


 それは、着慣れない、ベリックのスーツの感触を通してアジエがなぜ、こんなものを着せたのかも理解させた。


 急に目の前に突き付けられた、消滅する(死ぬ)かもしれない現実は、チセにエクス・ルクス(故郷)を失ったあの時を思い起こさせた。

 

 チセは何もすることが出来ず、ただ、目の前の背中にすがるように、しがみつくしかなかった。


 そんな、グリグリとチセが額を背中に押し付けているのに、悠はその存在を一瞬忘れるほどに焦っていた。


 敵の後退に追撃するように、突っ込んだγに対して、スヴァルトピレンもまた接近で答えた。


 体の全面にガントレットを揃えて構えた、スヴァルトピレンは左右に体を振るように踏み込んできた。

 逃すかと、サブマシンガンを突き出した直後に、ドンッ! と駆動音が轟く。


(消えた?)


 悠にはそう見えた。

 半円球モニタの正面に捉えたはずの敵が、一瞬で消えたように見えた。


 実際には大きく振子のように、γの右側へ、大きく体を揺らして機体の姿勢を低く潜り込ませたていた。

 そして、今度は大きく、左側へと跳ね上がるように上体を跳ね上げる。


 突然、再びモニタに戻った敵の姿――。

 体の前には左腕のガントレットがかかげられている。


 右がいない――。

 悠の首筋が瞬時に粟立つ。


 ゾワリとした感覚。

 悠は右脚に重心を集中させ、サスペンションを沈ませた。

 一気に反動をかけ、右肩から捻るようにしてγを宙に舞わせた。

 

 ぐるりとγの体が高く空中を回転すると同時に、スヴァルトピレンの鋭い駆動音と右のガントレットの切り裂くようなフックが飛び、それまで、γのコクピットのあった辺りの空間を大きく薙いだ。


「ふざけんなぁ! このぉ!」


 天地が逆になった状態で悠が吠える。

 左のサブマシンガンのトリガーに指をかける。


 ばら撒かれる弾丸を、スヴァルトピレンはピーカブーの姿勢で、体を左右に小刻みに揺らし、鋭角にステップするよに回避する。


 空中から身を捻って、着地するとそのまま、左右のマシンガンが撃ちながら、敵へとアクセルを開けた。


 その迷いのない無い動きにキングは鼻を鳴らした。

 

「こりゃ、俺も、ナッシュとホークをバカにできねぇな……」


 キングが苦々しく言った。

 

 あの二人がシージン・マーチの後、ビックに「想定外」と申し開きをしていた。


 あの時は、言い訳と一蹴していたが――。

 なるほど、これは確かに想定外だ。


 古い、たいした取り柄もないCFだ。


 それを使って、こんな大道芸まがいのアクロバットで必殺の一撃をかわされたのだ。

 認めざるを得ない。


 キングはスヴァルトピレンを、さらにジグザクの起動で後退させる。

 ばら撒かれるようなマシンガンの弾丸も、適切な距離さえとれば、処理境界(プロセス・フィールド)を突き破るようなことはない。


 今も、目の前のモニタには空中に水滴が落ちるような鮮やかな虹のような光の波紋が光り、ボトボトと弾丸が床に転がっていく。


「あのフックを見てもまだ、接近戦ねらいか――」


 嵐のような、マシンガンの掃射が止まる。

 弾切れだ――。

 

 マガジンを交換しながらも、それでも向かってくるγを見て、キングはため息をつく。


「いい度胸(ガッツ)だ――。 実にもったいない」


 まったく、殲滅明王(せんめつみょうおう)にかかわってなければ、是が非でも手元におきたいところだ。


「だが、随分と無理させてるな。 そんな、動きを続けて、そのCFがいつまでもつかな? アルマナックの坊主(キッド)


 ニヤリと1%er(ワンパーセンター)は笑みを浮かべる。


 後退から、前進に。

 さらに鋭く、駆動音に合わせるように、リズミカルに体を揺らしながら爆発するような移動でγに近づいていく。


「やってやるよ!  さあ、来い!」


 接触するような位置まできた時、悠が叫ぶ。


 途中で弾切れするのは想定内だ。

 どうせ、接近戦(インファイト)で勝負するしかない。


 間合いに入ったスヴァルトピレンが再び、モニタから消えた。

 

 悠は手をつくように、一気に機体を低く、捻じ込み、スヴァルトピレンに対して、左から回るような軌道をとった。

 

 そのまま、スケートのように機体を走らせる。


 その頭上を巨大な鉄の右拳が掠めた。

 

 パンチを掻い潜ったγはスヴァルトピレンの背後に回ろうとするが、 キングは左に機体の体を振り込ませ、回転させ、叩きつけるようにガントレットをγめがけ振り下ろした。


(コツは、手首だ……)


 悠は、シージン・マーチでの柳橋(リーダー)の言葉を反芻する。

 

 覆い被さってくるような、左のガントレットにγの右腕を合わせるように添えると、外側へと手首を回転させた。

 一瞬、合わさった装甲同士が火花を散らす。


 ベクトルをそらされたガントレットが外側へと弾かれる。

 γはトリガー引きながら、スヴァルトピレンの顔面に右のマシンガンを突き出した。


 スヴァルトピレンが射線をくぐるように、左右に再び頭部と体を揺らした。

 斜め下から脇腹へとショートレンジで打ち据える。


 今度は右のガントレットのスパイクが風切り音を鳴らす。


 悠はγの身を引いた。

 今度はギリギリの距離でスパイクは届かない。


「シッ!」


 キングの口からまた鋭く、息が吹き出される。

 右拳が再び引かれ、さらに押し込むように放たれる。


 右のショートレンジパンチの二連撃。


「!!」


 回避は間に合わない。

 悠は右腕をまたガントレットに合わせ、外側へと誘導する。


 γの背中側へと、スヴァルトピレンは腕ごと逸らされる。

 その瞬間をキングは狙っていた。


「甘いんだよ、坊や(キッド)


 キングはスヴァルトピレンの右手首をガントレットの中で引いた。

 

 γの背後。

 かわしたはずのガントレットの圧搾スパイクの突起の一つが、赤い閃光を放ち、爆発した。


 これが、キングのガントレットの仕込みだ。

 

 CF打撃用のガントレットの圧搾式スパイクに、炸裂式のナックルボム。

 

 本来は相手に打撃を叩きつけた上で、密着したまま爆発させるものだが、こういった使い方もある。


「くそっ・・・」


 至近距離での衝撃にγがバランスを崩し、前へとつんのめった。

 悠は、機体を立て直す。

 

 だが、この相手が、こんな隙を見過ごすわけがない。


――


 チセはその戦いの中で、衝撃と爆発に怯えていた。


 何が起こってるのか、わからない。

 理解したくない。

 

 悠がたまに、叫んだりするが、その度にビクッと体がこわばる。


 耳を塞ぎたいけど、手を離したらどこかに飛ばされそうだ。


 でも、グッと額を背中に押し付けながら塞げない耳に、一瞬のノイズが飛び込んだ。


 リズムの中の異音。

 本来は軽快なγの甲高い駆動音の中に、微かにバララッ!という不整脈が混じっている。


 その音にチセは本能的に反応した。

 悠を掴んだ、手の指にさらにギュと力を込め、押し付けていた額を離した。

 そして、コクピットの真上――。


 二つのコード・ベースのある場所を見上げた。


「ダメ!」

 

 γの異常を察知した瞬間、恐怖は吹き飛んでいた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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