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第4話 Born to Be Wild/03

【改訂版】(コード・フレームワーク) ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』

無印からの続き、第1章 point of no return - 白刃鼓動すべし 


お楽しみください。

◼︎ ◼︎


 銃口下部から伸びたヒートシンクパイルの刃に引っかかっていた、CFのコクピットブロックの残骸。

 ケイトのホークはライフルを振り払って、それを床へ叩き落とした。


 もはや原型を留めていないそれは、重い鉄の音を響かせ、転がっていく。

 ケイトはゆっくりと息を吐いた。


 そして、背後。

 壁に横向きにめり込むように寄りかかる、もう一機の残骸へ視線を向ける。


 形が残っていると、気になってしまう。

 それがケイトの悪い癖だ。


 まるで救いを求めるように両腕を天へ伸ばし、右に傾いで壁に身を預ける機体。

 その胸部下―― 腹部へと視線を落とす。


 クランクケースの部分。

 コクピットブロックが詰まっていた場所だ。


 そこは大きく潰れ、へこみ、形を失っていた。


 さらに――。

 潰れた外郭には、銃弾の丸い貫通孔。

 反対側の壁に押し付けられた部分は、内側から何かが飛び出したかのように裂け、外へ爆ぜている。


 ケイトはわずかに目を細めて、もう一度、確認する。


「……よし。 トドメってるわな」


 ライフルのマガジンを交換しながら、巨大な通路の先へ視線を向ける。


 二つの穿たれた穴から、筋のように光が差し込んでいる。

 その先は、闇だ。


 悠は――。

 あの闇の奥へ突っ込んでいった。


 あの1%er(ワンパーセンター)と一緒に。


 ……まあ、作戦通りだ。


 戦闘は避けて逃げる。

 チセが乗ってる時点で、それしかない。


 あのへん、柳橋(リーダー)はよくわかってる。

 

 問題は――。

 あの化け物相手に、それが通用するかだ。

 

 ケイトは眉間に皺を寄せ、鼻の頭に軽く力を入れた。


(あいつ)…… 反応しやがったな」


 吐き捨てるように呟く。


「アレ、うちに来てたらヤラれてたわ――」


 アサルトライフルの残弾を確認する。

 数字を見て、わずかに顔をしかめた。


(……冗談じゃねーわ)


 あんなのがうろついてる場所に、好き好んで突っ込むとか――。


(まるで虎の穴じゃねーか)


 ケイトは十数分前の、会敵の瞬間を思い出す。


 あの黒い穴。

 あれは、ただの通路じゃない。


 得体の知れないバケモノの腹の奥へ続いているようにしか見えなかった。


   【Flashback】


「ケイト!」


 悠の声。


 その一言で、うちは我に返った。


 何が起きたのか、理解できていなかった。


 γが隣に降ってきて。

 怒鳴られて。

 その直後、地面から土煙が吹き上がる。


 ようやく、それが敵の攻撃だと認識した。


 遅い。

 クソ遅い。


 慌てて左ハンドルレバーのウェッポンセレクターを叩く。

 ホークが銃口を跳ね上げるように、アサルトライフルを構えた。


 悠も、うちも、動かない。

 ――相手も、出てこない。


 パラパラと、土塊が機体に当たる。

 音だけが、やけに響く。


 探り合いだ。

 間合いの外で、様子見。


 完全に、主導権を握られている。


(まったく…… なんなんだよ)


 うちは小さく舌打ちした。


 うち――。

 ケイト・マーガレット・マレーのモットーは、最適なコスパ、タイパ、ウェルパだ。


 痛いのも、痒いのも、ツライのもお断り。

 嫌なことは最低限。

 楽しいことだけしていたい。


 ――そのはずだ。

 ……そのはずなんだけどな。


(なんだよ、この様は)


 煙が薄らぎ、だんだんシルエットが見えてきた。


 真ん中に一機――。

 さっきからどデカく重い、音を響かせている。


 そいつの後方に、控えるようにショートのコンバットライフルを持ったのが二機――。


「フハハハハッ! いい動きだ」


 野太い男の声がオープン回線で入ってきた。

 多分、真ん中のドンッ!、ドンッ!と鳴らしてるCFからだ。


 煙が晴れて、そいつの姿がはっきりした。

 地面の泥が、わずかに波打っている。

 あいつの一歩一歩で、押されてるみたいに。


「うえっ…… 洒落になんねぇ……」


 腕に、異様な鉄塊。

 固定具――いや、あれは武器だ。


 でも問題はそこじゃない。

 そのCFの首元に二つ―― 黒地に金で縁取の菱形のマーク。

 その菱形の中に、同じ縁取りの(ワン)%er(パーセンター)の文字。


 偽物――? 愚問だ、本物に決まっている。

 誰が好きこのんで、こんなヤバいマークを掲げるものか。

 

 こんな代物をこれ見よがしに飾るなんて、死にたがりの物好きか――。

 ――とてつもなく強いかのどちらかだ。


「俺のことは知ってるとは思うがな、名乗っておこう。 一応礼儀ってやつだ」


 聞きたくねーよ、バカ。


南部の帝王(ザ・サザン・キング)で頭を張らせてもらっている―― 周りからはジェリー・ザ・キングで通ってる。 そう呼んでもらおう」


 やっぱり、そうかい。

 これなら、まだあの銀ピカの鳥ヤロウ(シナーマン)の方がマシだ。

 なんだって、趣味丸出しの弱小ギルド相手にこんな大物さんが出てくるわけよ。


「……アルマナック――。 九能(くのう)(ゆう)


 悠のやつが名乗りを返す。

 そうそう―― 大物さん、話してんのはうちじゃねーし。

 たのむから勝手にやってくれ。


 シージン・マーチからこっち、連盟(フェデレーション)の檄ヤバの(ヤカラ)が悠に寄ってくる。

 

 まったく、九能(この)(バカ)はまるで、ゴキブリホイホイだ。

 しかも、デカブツしか来ねぇやつ。


「いいねぇ…… 若いのに礼儀がわかってるじゃねぇか」


 うちは、完全に無視ですか。

 あー、そうですか。


「なら話は早ぇ。 九能悠さんよ―― 俺とやれ」


 オス臭せぇ……。

 ゲップが出そうな、セリフに思わず鼻の頭に小皺がよる。


 まったく、男ってのは……。

 なんだ、こういうテメェに酔ったセリフを言いたがるんだ?

 

 まじ、巻き込まんで欲しいわ。

 

 というか、悠のやつ、チセを乗せてることを忘れて突っ込むんじゃないかと、こっちはヒヤヒヤだ。


 ライフルの銃口は真ん中の(ワン)%er(パーセンター)から逸らさない。

 

 背後の二機を牽制するためだが、さすが、連盟(フェデレーション)幹部の部下だ――。

 コンバットライフルの二つの銃口は、うちのホークを狙っている。

 

 ふと視界の端っこのモニタにγの右手が引っかかった。

 正面の三機に見えないように少し後に引いた手の指を、馬鹿でかい壁に向かって、クィっと動かしていた。


 γの背中のウェッポンレールに装備された見慣れない武器をチラリと見た。

 2本の単発式ロケットランチャーだ……。


「へぇー。 チセはバトルより優先か…… エライ、エライ」


 γが手を握る。


「嫌だね。 こっちにも都合がある」


 悠のセリフと共に手が開かれる。

 それが合図だ。


 うちはそれまで真っ直ぐ、(ワン)%er(パーセンター)に向けていたライフルの銃身を地面に向けて引き金を引いた。


 110ミリのフルオートだ。


 土が爆ぜる。

 黒い煙が、一瞬で視界を呑み込んだ。


 γが2本のロケットランチャーを引っ掴み、壁に向かって撃ち放つのが見えた。

 炸裂音のすぐ後、壁に一瞬の爆発の閃光の後、今度は横殴りの振動と爆風がさらなる粉塵を巻き上げた。


 煙の筋を引いた壁に空いた黒い口に、γが飛びこむ。

 うちも、ホークをバックで爆発で開いた(あな)に機体をねじ込んだ。

 (あな)の外に銃口を向け、警戒する。


 そんな、うちの耳にズドンという鈍い衝撃は響いた。


「――!?」


 予想外だ――。

 爆発孔を警戒していたが、γと、うちのホークとの間にある壁が吹き飛んだ。


「ヨー! キッド(坊や)! |You ain'tどこにも| going nowhere.《行かせねぇ》」


 ガンメタリックの(ワン)%er(パーセンター)のCFが入ってくる。


(舐めやがって!)


 悠狙いで、他は眼中無しかい。


 うちは、アサルトライフルの銃身をその背中に向けた。

 瞬間、2機のCFが割り込むよう飛び込んできた。

 

 腰ダメ撃ちの構えだ。

 ショートのコンバットライフルの銃口が二つ、こっちに向いている。


 「その青いのはお前達でやれ。 俺の邪魔をさせるな」


 思わず舌打ちが出た。

 

 お邪魔虫の雑魚扱いされたことに対してムカついた――。

 それに(ワン)%er(パーセンター)の手下の二機が…… 存外、隙がねぇ。

 

 舐めたら、こっちがやられる。


「さっさと行け!」


 飛び込んだこの通路は十分にデカイ。

 うちは、悠にそう叫ぶと、牽制の銃撃をしながら、ホークを後退させつつ、空中へと逃げる。


 またデカイ衝撃音が一発。

 一瞬、ドキリとした。

 

 でも、すぐに、γのあの耳障りな蜂が群れで飛んでるような音が遠ざっていくのが聞こえた。

 とりあえずは、悠とチセは逃げてくれたらしい。


 と、言ってもだ。

 完全に分断されちまった!


 その上、うちにも余裕なんかない!


 距離を取ろうとするうちと、ホークに南部の帝王(ザ・サザン・キング)の 二機は、アサルトライフルのオートを身を捩りながら、かわして追ってくる。


 狙いを絞らせないよう、お互いに交互にきりもみするようにロールしながらの追撃だ。


「テメェら! ねちっこいんだよ!」


 魂胆は丸見えだ、アサルトライフル(長物)のうちに対して、接近して、二機で袋叩きにするつもりだ。


 バチンという音と共に、ホークのライフルは沈黙した。

 弾切れだ――。


 新しい弾倉(マガジン)を取り出す。

 空の弾倉をプッシュボタンで排出するが、交換は間に合わない。


 二機はあっという間に、挟み込むように――。

 まとわりつようにホークに肉薄してきた。

 

 ほぼ、接触するかのような近距離。

 前後に挟み込まれる。

 

 勝利を確信したのか――。

 

 確実に仕留めに来てる。

 連中はゆっくりとうちにコンバットライフルの狙いを定めてきた。

 

 こいつら、うまいし――、連携もすごい――。

 さすがは連盟(フェデレーション)でも中核の南部の帝王(ザ・サザン・キング)だ――。


 そんじょそこらの、コード・ライダーとは違う……。


「は〜い。 でも残念賞」


 うちはホークにアサルトライフルを体の前に斜めに構えさせた。

 その動きに一瞬だけ、二機は戸惑ってくれた。


 密着するように近づけられた二つのコンバットライフの銃口――。

 まずは前方―― そこめがけて、床尾をホークの右手が横に押して、跳ね上げた。


 左手を軸に回転したライフルの床尾がコンバットライフを払い上げる。

 上に弾かれた敵の銃口が天井に向かって火を吹く。


 振り向きながら、一回転したライフルを床尾の下に右手を添え、銃身を直角に構える。

 今度は左手を添えたまま、床尾を突き出して、背後にいた機体の肩口に突き出した。


 うちに向けられた銃口が逸れて、明後日の方向にコンバットライフルが弾を打ち出す。

 

 控え銃(ひかえつつ)からのライフル・スピン――。

 それに、捧げ銃(ささげつつ)からの床尾打ち――。


「舐めんな! うちの爺ちゃん、アイルランド近衛連隊(アイリッシュガーズ)だ!」


 こちとら、ガキん頃から爺ちゃんに叩き込まれたんだ。

 爺ちゃん、すっかり()けちゃったけど、今でも鉄砲持たせりゃ、そりゃ、くるくると手慣れたもんさ。


 こんなハンマーみたいな床尾のついた銃把(ストック)のアサルトライフル、伊達に持っちゃいねぇんだよ。


 相手が怯んだ隙に、新しい弾倉をセット。

 

 くるりと横にライフルを回転させると、そのまま床尾を横殴りにCFの腹部――。

 クランクケースに叩きつけた。


 そのまま、アクセルを開けてもう一機から距離をとりつつ、横殴りに壁に叩きつける。

 コンバットライフルが床におち、CFは奇妙に両腕を空に突き出すように壁にめり込んだ。


 床尾を引き剥がすと、クランクケースがひしゃげて潰れ、コクピットハッチが裂けていた。

 

 うちは、ライフルを構えるとその裂け目に向かって二発、撃ちこんだ。


 打ち込んだ反対側が弾けるように吹き飛ぶ。


 背後頭上から、CFのエギゾーストが響いてくる。

 仲間がやられて頭に血が昇ったか?


 腰ダメのまま、コンバットライフルを乱射してくる。


 うちは、ホークをターン気味に回避させながら、ウェッポンセレクターからヒートシンクパイルを選択する。


 アサルトライフルの銃身の下部からガチャリと、長い針のようなものが跳ね上がる。

 針は赤熱化して鈍い光を放った。


 うちは、ターンの回転を利用してアサルトライフルを接近してきた南部の帝王(ザ・サザン・キング)の片割れに突き出した。


 ブスリとヒート・シンクパイルは抵抗もなく、コクピットブロックを貫く。

 アサルトライフルの銃口が、コツリとクランクケースに当たった。


 うちは、ライフルのトリガーを引いた。

 フルオートの110ミリを密着して喰らうCFは、ビクビクと踊るように震えながら、バラバラになっていった。


 やがて、弾が切れる頃には、ヒートシンクパイルにクランクケースの名残だったものが引っかかっていた。


 うち――。

 ケイト・マーガレット・マレーのモットーは、最適なコスパ、タイパ、ウェルパだ。


 痛いのも、痒いのも、ツライのもお断り。

 嫌なことは最低限。

 楽しいことだけしていたい。


 だから、うちのモットーを邪魔しそうなやつは、確実に動かないようにしないと心配で仕方ない。


 爺ちゃんも言ってた――。

 形が残っていないくらいやっておけば安心だって。


 だから、まだ形を保っている壁にめり込んだもう一機が気になって、そちらへ目を向けた。


 コクピットは―― うん、跡形もなく吹き飛んでる。


「……よし。 トドメってるわな」


 うちは、ようやく、安心した。


   【Present Day】


 とりあえずは、こっちは片付いたと安堵したのも束の間、γの消えていった黒いトンネルの先を見ながら、ケイトは逡巡していた。


 南部の帝王(ザ・サザン・キング)の二機は、手だれだった。

 こんなの引き連れて、口上垂れた(ワン)%er(パーセンター)がどれほどの実力か。


 調子がイマイチのγだ。

 あれはそう簡単に撒けるような相手じゃない。


 ケイトはジクサーに逃げ帰りたかった。

 でもふと、チセの顔がよぎった。


「あー。 もう、調子狂うわ!」


 ケイト・マーガレット・マレーのモットーは、最適なコスパ、タイパ、ウェルパだ。


 痛いのも、痒いのも、ツライのもお断り。

 嫌なことは最低限。

 楽しいことだけしていたい。


 悠だけだったらさっさと見捨てていたかもしれない。


 でも、あの明るい緑色の瞳の持ち主は存外、ケイトにとって腐れ縁ぐらいの関係にはなっていたらしい。


 ホークは特徴的な『BABOO!』という並列2気筒のコア・ヘッドの駆動音を響かせ、γの消えた方向へと吸い込まれるように飛んでいった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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