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第4話 Born to Be Wild/02

【改訂版】(コード・フレームワーク) ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』

無印からの続き、第1章 point of no return - 白刃鼓動すべし 


お楽しみください。

 頭上から叩きつけられた、「ドンッ!」という轟音。

 悠の肉体は、ほぼ反射的にその音に反応した。


 正面の視界は、不気味な壁に覆われている。

 その状態で、背後の頭上から迫ったのは――。

 大型単一コードベース(ビック・シングル)の発する重低音だけでなく、背筋に叩きつけられるような殺気だった。


 尋常ではない気配に、悠は即座に右へ振り返る。

 そのまま右腕でチセを引き寄せ、小脇に抱えたまま前を向いた。


「ちょっ! なっ!」


 突然のことに、チセは――。

 小脇に抱えられた瞬間、驚いた猫のように身体がピーンと硬直した。


 悠は両膝と腿でシートを締め上げた。


 右腕はチセを離さない。

 足りない手は一本。


 だから――。

 左手で右側のアクセルを掴み、そのまま強引に開け放つ。


 同時に、体を左へ叩きつけるように振り込んだ。

 その無理な動きに応えるように、γは金属を擦り合わせたような悲鳴を上げる。


 左脚を軸に、身を後方へよじる。

 悶えるように、空中へと飛び出した。


 直後――。


 γが立っていた地点で、爆発じみた衝撃が弾ける。

 続いて、噴煙が巻き上がった。


 空中で回転するγが、衝撃波に揺さぶられる。


 チセを抱えたまま機体を抑え込み、悠はなんとか姿勢を立て直すと、ケイトのホークの隣へと着地させた。


「ケイト!」


 瞬間の出来事に固まっていた隣機のライダーへ、悠が叫ぶ。

 

 ホークが弾かれたように動き、噴煙の立ち込める方向へアサルトライフルの銃口を構えた。

 

 悠は、半円球モニタに映る煙の奥から視線を外さないまま――。

 小脇に抱えていたチセを、そっと背後の簡易シートへ戻した。

 

 チセは目を丸くしたまま、バンザイしたような姿勢で固まっている。


「チセ……」


 悠は静かに名を呼んだ。


「しっかり掴まれ」


 両手をハンドルへ戻す。

 内側に絞られたハンドルに身体を預けると、自然と前傾姿勢になる。


 チセはまだ硬直している。


「急げ」


 静かな声だった。

 だが、その奥にある緊張と、有無を言わせない圧が、はっきりと伝わる。


 我に返ったチセは、ぴたりと身体を寄せると、ぎゅっと悠の腰へ腕を回した。

 そして、そのまま額を背中に押しつける。


 ――怖かった。

 悠の声の奥にあるものと、その視線の先にいる存在が。


 柔らかい感触が、背中に触れる。

 普段なら、くだらないことを考えているところだが――。

 

 悠の助平心など、目の前に降りそそいだ存在が吹き飛ばしていた。


 ドッ!ドッ!ドッ! と土煙の中から太く、規則的な駆動音が響く。

 その音の響きにうなじの毛が逆立つような感覚を感じていた。


 (この音…… ツインじゃない、シングルだ)


 危なかった。


 あの衝撃と、土煙。

 かすっただけでも、どんな損傷を負ったことか――。


 姿を見る余裕などなかったが、コード・ユニットの駆動音ごと飛び込んできた。

 射撃じゃないことは明らかだ。


(近接武器―― でも()()じゃない)


 一瞬、巨大なハンマーが脳裏をよぎったが、違うと感じた。

 音も武器も全く別だ。


 やがてもうもうとした視界が落ち着いてきた。


「フハハハハッ! いい動きだ」


 オープンの回線で声が入ってくる。


 煙の中にシルエットが次第に浮かび上がる。

 ヌッと太い円筒のような不自然な腕が現れる。


 鋼鉄のグローブを嵌めたような左右の巨腕は交互に構えられ、まっすぐにγに向けられている。

 ホークのアサルトライフルなど全く意に介していない。


 煙が晴れると、黒とガンメタリックのCFの姿がはっきりと現れた。

 さらにその背後に二機――。


 コンバットライフルの銃口がこちらを向いていた。


 悠は軽く舌打ちをした。

 それは、背後の二機の牽制の銃口でも、γに向けたれたグローブのような武器に対してでもなかった。


 ガンメタリックのCFの首のあたりのロゴ――。

 (ワン)%er(パーセンター)のマークにだった。


「俺のことは知ってるとは思うがな、名乗っておこう。 一応礼儀ってやつだ」


 楽しげな声がそう言う。


(ああ、知ってるよ……)


 悠はギュとハンドルの手に力を込めた。

 

 知らないわけがない、黒地に金で縁取の(ワン)%er(パーセンター)マーク。

 目の前にいるのはまさにレジェンドなのだから。

 

 「南部の帝王(ザ・サザン・キング)で頭を張らせてもらっている―― 周りからはジェリー・ザ・キングで通ってる。 そう呼んでもらおう」


 わずかに間を置いて、悠は口を開いた。


「……アルマナック――。 九能(くのう)(ゆう)


 短く、名乗る。


(言わされた、か……)


 喉の奥に、嫌な感触が残る。


 名乗らされた。

 そう感じる程度には、主導権は完全に相手にあった。


「いいねぇ…… 若いのに礼儀がわかってるじゃねぇか」


 楽しげな声が、さらに近づく。


「なら話は早ぇ。 九能悠さんよ―― 俺とやれ」


 間髪入れずに放たれた言葉。


 命令に近い。


 悠は、即座に返した。


「嫌だね。 こっちにも都合がある」


 言い終わるより早く――。


 バラララララッ!!


 地面を抉るようなフルオートの銃撃が炸裂した。


 ケイトだ。


 ホークのアサルトライフルが地面を舐め、土と砂と破片を巻き上げる。

 視界が一瞬で、黒い泥と粉塵が弾けた煙に覆われた。


「行くぞ!」


 短い叫び。

 悠はすでに動いている。


 ハンドルを握り込み、γの姿勢を低く落とす。


「チセ!」


 背中越しに声を投げる。


 返事はない。

 だが、腰に回された腕がぎゅっと強く締まった。


 ――十分だ。

 悠は左手で一気にトリガーを引いた。

 腰にマウントされた二基の単発式ロケットランチャーが火を噴く。


 ドンッ!! ドンッ!!


 重い炸裂音。

 眼前の湾曲した壁に直撃し、表層が爆ぜた。


 金属とも有機ともつかない外殻が、内側から抉じ開けられる。

 穴が、開いた。


 γが地面を蹴り、飛び込む。

 ホークもほぼ同時に突入する。


 煙と破片を引き裂きながら、二機はそのまま施設内部へ滑り込んだ。


 ――その直後。


 ドッ!!


 背後から、再びあの重い衝撃音。

 振り返る余裕などない。


 ケイトのホークとの間。

 壁を鉄の拳で突き破り、スヴァルトピレン飛び込んできた。


(しまった……!)


 ホークと分断された。

 すぐ背後の暗褐色のガンメタリックのCFの重圧(プレッシャー)の塊を再び感じた。


「ヨー! キッド(坊や)! You ain'tどこにも going (行かせ)nowhere.(ねぇ)


 背後から、笑い声。

 距離が、近い。


「その青いのはお前達でやれ。 俺の邪魔をさせるな」


 直後、銃声。

 ホークがいる方向。


「さっさと行け!」


 ケイトが叫ぶ。

 ケイトとホークを確認している余裕はない。

 

 悠は歯を食いしばった。


 スロットルを絞り、急加速をかける。

 キングは狙いをγに絞っている。


 それまでいた場所。

 背後で叩きつけられるような音と、ズドンと重い塊が炸裂する音と振動が響いた。


 次の攻撃の前に、一気に離すために、さらに加速する。

 通路の視界が一気に狭まった。


 左右の壁。

 天井。

 湾曲したチューブ状の構造。


 逃げ場は―― 直線しかない。


 だが。


 その直線でさえ、安全じゃない。


 ガンッ!!


 背後で再び、衝撃。

 振動が通路を伝ってくる。


 壁面が抉られ、破片が弾けた。


(壁ごと……!)


 悠は即座にラインをずらす。


 その直後。


 ドンッ!!


 さっきまでいた位置の壁が、内側から吹き飛んだ。


「チッ……!」


 逃げ道を潰してくる。


 直線を許さない。

 ピタリと背後について、予測して殴ってくる。


(読まれてるんじゃない―― 見えてる……!)


 悠はさらにアクセルを開けた。

 γのパワーバンドに入ったコード・ベースが蜂の羽音のような駆動音を響かせる。


 振動。

 負荷。

 限界近い挙動。


 それでも――。

 離れない。


 ドッ……ドッ……ドッ……。


 背後の音が、一定のリズムで迫ってくる。

 獲物を追う狩りの音だ。


(来る……!)


 ドンッ!!


 衝撃に視界が揺れる。


 スヴァルトピレンが、横から突っ込んできた。

 ――並ばれている。


 回避。


 紙一重。


 だが――。


 続く。


 一発。


 二発。


 三発――。


 連続する打撃。


 空気が弾ける。


 圧力が、通路全体を叩く。


「ぐっ……!」


 γが振られる。

 制御が乱れる。


 それでも悠はラインを維持する。


(速いんじゃねぇ……!)


 違う。


(全部、合わせてきやがる……!)


 コーナー。

 姿勢変化。


 加速。

 減速。


 すべてに。

 ぴたりと。

 食いついてくる。


 ガンッ!! という衝撃。


 ついに、一撃がかすった。


 左肩部。

 装甲が弾ける。


 警告が走る。

 さらに――。


 ドォン!! と、炸裂の衝撃が、爆圧がγを押し潰す。

 

 フェイスガードの一部が砕け、視界にノイズが走る。


 胸部カウルにも亀裂。

 内部フレームに振動が伝わる。


(ヤバい……!)


 直撃じゃない。

 それでも、このダメージ。


 もし一発でもまともに食らえば――。

 終わる。


 背後で、装填音。

 金属のロックが噛み合う音。

 再装填。


 腰にしがみついたチセの腕の力が強くなるのを感じた。


(まだ来る……!)


 悠は一瞬だけ、アクセルを緩めた。

 わずかに。


 ほんの一瞬。

 距離が、詰まる。


 だが――。


 背中に押しつけられるチセの額が震えているのが伝わる。


(……逃げじゃ、ダメだ)


 理解した。

 これは追撃じゃない。

 逃走戦でもない。

 狩りだ。


 逃げ続ければ、削られて終わる。

 チセがいる。


 負けるわけにはいかない。

 だから――。


 悠は、アクセルを戻した。

 γの速度が、わずかに落ちる。


 腰のウェッポンラックから、両手でサブマシンを引き抜く。

 ――逃げは終わりだ。


 そのまま、姿勢を低く沈める。

 振り返らない。


 だが、背後の気配は、はっきりと捉えている。


(来いよ……)


 静かに、息を吐く。

 次の瞬間。


 スヴァルトピレンの影が、再び視界の端に滑り込んできた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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