幕間 『仮想地理学入門 キューボイド01 グレート・フラット』より抜粋
本作は『電界駆動 ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』を一部固有名詞の変更と話数の並びを変更、改訂を行なったものです。
少しでも読みやすくなってれば幸いです。
キューボイド01は、インター・ヴァーチュアにおいて最初期に定義・拡張が行われた直方体空間のひとつである。
仮想世界全体が現在のような体系的区分を持つ以前、メサイア社は他勢力に先んじる形で広大な空間を確保し、その結果として成立したのが本キューボイドであった。
重要なのは、キューボイド01が「中心」を前提とした空間ではないという点である。
直方体空間として切り出されたこの領域は、あくまで原初的な確保単位であり、後に成立する行政区分や支配構造とは独立して定義されている。
現在「中央部」と呼ばれる地域も、このキューボイド01の一部分にすぎない。
中央部とは、メサイア社の本拠地である仮想都市ゼロ・ホライズンを中心に、ネクサス・リンク網が放射状に拡張された結果として形成された機能的区分である。
物流、行政、資本の集積点として後天的に成立した概念であり、インター・ヴァーチュア創成期から自明のものとして存在していたわけではない。
グレート・フラットは、この中央部を構成する要素のひとつである。
キューボイド01内部に広がる大平原地帯であり、地表は草とも苔とも判別しがたい緑色のテクスチャに覆われ、ほぼ完全な平坦性を保っている。
その均質さと人工性から、本来「平原」と呼ばれるべき地形でありながら、「フラット」という名称が定着した。
本地域には昼夜および季節の概念が存在するが、その運用は極めて機械的である。
昼夜の遷移は正確な周期で管理され、擬似太陽や夜空は実体ではなく、空間全体の調光処理によるテクスチャ演出でしかない。
実際は空が地平から頂点に向かって左右から光っていき、調光される。
そして時間に従い、頂点から左右に消灯して夜へと変化していく。
グレート・フラットの戦略的重要性は、その位置関係に由来する。
中央部の東側外苑に近接するこの平原には、メサイア・パシフィック・ゲートが存在し、ゼロ・ホライズンと中間テリトリーを結ぶネクサス・リンク東エリアの終端として機能している。
同時に、八咫の門および霊峰公司のネクサス・ラインが乗り入れる交通の要所でもあり、複数企業勢力の境界が重なる結節点となっている。
一方で、グレート・フラットを含むキューボイド01全域の地図化率は、未だ四割程度に留まっている。
これは管理の怠慢というより、領域確保を優先した初期メサイアの拡張戦略に起因する。
すなわち、本キューボイドは「把握のための空間」ではなく、「占有を宣言するための余白」として確保されたのである。
その結果、グレート・フラットには未開発区域や半放棄セクションが点在し、現在もなお索敵、密貿易、非公式活動の温床となっている。
視界を遮る地形がほぼ存在しないこの平原は、有視界行動を原則とするインター・ヴァーチュアにおいて、人間の感覚と判断が依然として重要であることを示す象徴的な空間でもある。
総じてグレート・フラットは、キューボイド01という原初的確保空間の内部に残された余白であり、ゼロ・ホライズンを中心とする秩序から半歩外れた場所に存在する。
そこには、メサイア社の野心と設計の限界、そして仮想世界が抱え込んだ未整理の過去が、今なお静かに横たわっている。
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『仮想地理学入門 キューボイド01 グレート・フラット』より抜粋
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