幕間 『仮想現実史 人類の新たなフロンティア』 ブラックアウト 暗黒期の到来 より抜粋
本作は『電界駆動 ブレード ― データの少女は仮想世界で夢を見るか?』を一部固有名詞の変更と話数の並びを変更、改訂を行なったものです。
少しでも読みやすくなってれば幸いです。
ブラックアウトと呼ばれる、一連の人類の暗黒期を語る前に、どのように人類が移民に近い形でデジタル世界であるインター・ヴァーチュアに依存していったのかを知る必要がある。
ビリー・オズニアックにより発見されたデジタル空間であるインター・ヴァーチュアと、その世界への意識投影技術により、爆発的な普及を果たした。
だが、それでも最初の十年あまりは現在のような人類総依存とも言える状態とはほど遠く、インター・ヴァーチュアへの依存は段階的に進んだと言える。
最初にインター・ヴァーチュアへの進出を開始したのは企業であり、彼らは規制のない手付かずのデジタル空間に橋頭堡を築くべく資本の許す限り、お互いに権利を主張した。
時を同じくして、現実世界では化石資源の枯渇の懸念が表面化し始めていてた。
これにより、内燃機関は規制され、車、オートバイは一部の公共交通機関などの最低限に留められ順次規制された。
さらにはインター・ヴァーチュアの時差と規制のないシュミレーションを用いた開発は仮想現実から現実世界へと脅威的なスピードでの技術革新をフィードバックした。
技術の恩恵で現実の様々な分野でのオートマチック化が進み、特に物流と製造は多くの失業者を生み出すこととなる。
そして各企業は仮想現実という新たなフロンティアでのさらなる領土獲得のため、労働力を必要としていた。
インター・ヴァーチュアは仮想現実ではあるが、厳密な物理シュミレーションルールに支配されており、資源や素材をデータとして増殖は可能でも複雑な開拓や開発、建築は現実同様の工程が必要であり、インフラの敷設からの対応が必要とされていた。
そのため失業者を企業は安価な労働力として確保するための囲い込みを開始する。
これが第一次シビリアンマイグレーションと呼ばれる時代である。
この無作為な流入は、哀れな失業者に混じり、新たに仮想現実の利権を求める集団も呼び込んだ。
すなわち、反政府主義者や過激な思想の原理主義者、そして反社会的勢力などだ。
この状況を受け、各国政府は自国企業と、その従業員に対する安全と治安の確保という名目の元にインター・ヴァーチュアへの介入を開始する。
しかし、遅すぎた国家の介入は、さらに自体を複雑化させる。
すでに企業のテリトリー化は進んでおり、シビリアンマイグレーションで流入した労働層は規制なき世界で様々な主義と宗教、そして民族が国境など関係なく、己が利益と欲望に従って企業の支配地域に根を下ろしていた。
そんな状況にもかかわらず、軍の介入は基本、派兵という手段が取らた。
各国の軍は便宜上、自国の企業のテリトリー地域に駐留したのだ。
事実上、軍が自国企業のボディガード化する状況が生まれた。
この時期、軍は企業の要請に基づく警察活動と他国の軍への牽制に終始する。
特に、企業の属する国の法律に基づく警察活動によって、不満を募らせる層を作り、対立の火種を蒔くことになる。
この後も、企業の支配するテリトリーの拡大に比例してインター・ヴァーチュアへの人々の依存度は増すが、これに拍車をかける事態が発生する。
パンデミックの発生と拡大である。
最初に報告されたのは、熱帯地域で発生した小規模なウイルス感染だった。
当初、それは単なる流行性感冒の一種と考えられていた。しかし、数週間後、世界各地で異常な感染拡大が確認される。
ウイルスは空気感染し、致死率は初期推定で十五〜二十パーセントに達していた。
ワクチンの開発は遅れ、各国政府は封じ込めに失敗。都市封鎖が行われ、現実世界は沈黙していった。
だが、人類はパンデミックによって物理世界の機能を失ったが、致命的な混乱には陥らなかった。
なぜなら、社会はすでに企業主導で仮想世界へとシフトの土壌が確立していたからだ。
現実と変わりない生活が可能な意識投影技術。
テリトリーという名の企業支配地域にインフラの整備された都市が形成されていた。
教育・医療すらインター・ヴァーチュア内で提供される。
疫病感染の封じ込めのための現実でのロックダウン政策をきっかけに、第二次シビリアンマイグレーションが始まり、人類の依存は加速する。
人々は、現実の世界が機能不全に陥っても、仮想世界で生き続けることができた。
むしろその方が便利で快適だった。
パンデミックは人類の完全なデジタルシフトを決定的なものとした。
そしてその依存が絶頂に達した時、最悪の事態が発生する。
後に現実世界で発生から三年余りの暗黒時代を生み出した仮想現実の同時多発テロ――。
ブラックアウト事件である。
当時、様々なテロ組織の犯行声明が行われた。
また、一部の駐留軍の不可解な動きから暴走による報復の応酬なども疑われた。
様々な憶測が存在し、今なお調査、研究がなされているが、そろ発生の真相は謎のままである。
ただ、その日、各国企業のテリトリーに存在する、世界のあらゆるデジタルインフラを標的とした攻撃が行われたことだけは事実だ。
これによりインター・ヴァーチュアから、現実の世界への制御の切断が行われた。
この事件の最も特筆すべきことは、これがこれは単なるハッキングではなく、初のデジタル空間での戦争であったことだ。
コード・フレームワークの兵器化はすでに進んでいた。
この事件はまさにコード・フレームワークを使った一斉蜂起によるテロ攻撃であり、その混乱に乗じてコード・フレームワークを使用した暴動も多数発生した。
そして、鎮圧のために企業は最新機を軍に無償供与したという。
ブラックアウト事件の鎮圧宣言は発生から五日のちであった。
だが、世界は、一夜にして崩れ落ちた。
電力が消え、仮想世界で生きる人々は、突然、切断され、情報を失った。
現実の世界はその制御を失い、何千万人の死者を出すに至る。
その半数は強制排出時の反動や負荷による死亡者とされ、人類は仮想現実が楽園ではなく暗い側面を持つ、リスクある仮想の現実であることを広く認識することとなる。
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『仮想現実史 人類の新たなフロンティア』 ブラックアウト 暗黒期の到来 より抜粋
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