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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

私は天使の生まれ変わりらしい

掲載日:2025/12/12

初めての作品であり、初投稿のため、文章や内容が稚拙で目も当てられないかもしれませんが、ご了承ください。

 私の名前は南瀬ハル。

 両親は日本人。

 これといった特徴のない平凡な家庭で育った。


 だが私は生まれた時から、どことなく自分が自分ではない違和感を感じることがあった。

 この妙な感覚は、心に引っかかる楔になっている。

 

 こんなことを周囲に相談なんてしても、意味は無いだろうし、誰にも私の気持ちなんて分かるはずがないと思った。

 けど確かに、私の中で何かが深く渦巻いているのだ。

 それは楔の如く根強く、私を壊しかねないほど。

 

 だからこそ、私は私だって大きな声を出して証明したいし、私が私としてあるために構成されている周囲の環境も大切にしたい。

 心の底から私にとっての安寧を願っているから——……。

 

 

 

 

 いつものように学校に登校する。

 春はまだ始まったばかり。

 中学の時と違い、高校は始業の時間が少し遅いから、10分ほど長く睡眠できる。

 この10分は、地味だけどありがたい。

 けどだんだんとこの貴重な10分の時間も、ありがたみが薄くなってきている。

 

 これは単に、慣れてきてしまったということだろう。

 慣れとは恐ろしいもので、中学頃の起床時間+10分=高校の起床時間で、すっかり馴染んでしまい今ではもう少し睡眠時間が欲しいくらい。

 

 そうこう考えるうちに、教室にたどり着いた。

 1年A組……私にとっての居場所だ。

 

 「——おはよ〜、ハルちゃん」

 

 教室に入るなり、私に挨拶をしたのは、クラスメイトで友達の柊桜子だ。

 

 「おはよう、桜子」

 

 私も挨拶を返す。

 桜子は明るくて、前向きな子。

 私の日常を彩る大切な友達。

 

 私はそのまま、自分の席に腰を下ろす。

 窓際の一番後ろの席だ。

 日差しが心地よく、よく授業中にうたた寝をしてしまう。

 

 そして私の前には、桜子が座っている。

 私が座ると、桜子が椅子ごと私の方に体を向けた。

 

 「ハルちゃんは、今日もチャイムギリギリだね〜」

 「遅刻じゃないからいーの。 それより来週の中間テストの方がヤバいかも。 全然勉強に手をつけてないし」

 「えっ! 大変だね……。わたしで良かったら勉強教えようか?」

 「本当!? 凄い助かる!」

 

 助け舟に感激する。

 桜子は入学時テストの成績が上位だった。

 桜子は優しくて、努力家でもあるのだ。

 ちなみに私は半分以下の順位。

 

 「それじゃあ、ハルちゃん、今日の放課後とかって大丈夫? 帰りに駅前のカフェで勉強しない?」

 「うん、空いてる。 本当にありがとう」

 

 桜子は『じゃあ、あとでね!』と言うと前を向いた。

 放課後に勉強か、勉強は嫌だけど、桜子と一緒なら悪くないかな。

 そう思いホームールームの開始を待つ。

 

 

 ————この時の私は、このなんの変哲もない日常が、きっと少なくとも卒業までは続くのだろうと思っていた。

 だけどそれは私が人生と言うものをあまりに楽観視していただけ。

 人生とは何が起きるか分からないもので、今までの人生経験のどの出来事にも当てはめることのできない、ことがいつ起きてもおかしくなかったのだ。

 

 今日この日、私の人生は一変する。

 

 

 

 *

 

 

 

 ホームルームが始まると、すぐに教室はざわめき出した。

 これは驚愕による喧騒。

 クラスメイトたちの視線は一点に集中する。

 

 「全員、静かに」

 

 すぐ担任の相川先生が場を沈める。

 

 「今日は転校生を紹介します。自己紹介をどうぞ」

 「はい」

 

 教壇にたった少女は一言で表すなら白銀。

 雪のように白い肌と、光を反射するプラチナブロンドのロングヘアがクラス中の視線を吸い寄せる。

 私でさえ、彼女のその容姿に思わず息を飲んでしまった。

 全員が美しさに目を奪われ畏怖しているのだ。

 背が高く、まるで成人女性のような雰囲気を纏わせている。


 「どこかのお嬢様かな?」

 「きれい……モデルさんみたい……」

 

 クラスの誰かがそう呟いた。

 誰しもその言葉に共感しているだろう。

 

 そしてその当の本人の転校生は、ニコニコと微笑み、口を開いた。

 

 「皆様、ごきげんよう。 わたくしの名前はミリア・ハーラルアと申します。 この外見から分かるように、わたくしはこの国の人間ではなく、アイスランドで生まれ育ちました」

 

 意外な地名にクラスメイトたちはさらにざわめく。

 

 「そうそうアイスランドと言えば、オーロラが有名ですよね。 知っていますか? アイスランドでは温泉に入りながらオーロラを見ることができるんですよ。 わたくしも何度が経験したのですが、絶景を楽しみながら浸かる温泉ほど、贅沢なものはありませんね。 ふふ、そういえば最近わたくしは日本料理の漬物がとてもお気に入りなんです。 特にキュウリという野菜を漬けたものが本当に美味しくて……——」

 

 「……コホンっ。ハーラルアさん。 もう少し長くなりそうなら、休み時間にお願いしてもらえますか?」

 

 相川先生が制止する。

 自己紹介を止められた本人は、『わたくしったらまた……』と少し恥かしそうにしていたが、その表情もどこか余裕があるように見えた。

 

 自己紹介中、クラスメイトたちも、転校生の大人びた白銀のイメージから遠く離れた自己紹介に呆気を取られた人も多かった。

 私も大人びた雰囲気から、繰り出されるユーモアを交えたお喋りな自己紹介に驚いてしまった。

 

 「とりあえずハーラルアさんは、そこの空いている席に座ってください。 分からないことは、周りの人に聞いてください」

 

 先生はそう告げると、ハーラルアさんは指し示された席に向かった。

 ってハーラルアさんの席、私の隣じゃん!

 

 ちょっと緊張する。

 モデルみたいに美しい人が隣に座るので、私も一応身だしなみに気をつけるため、前髪を触り調整する。

 

 「隣、失礼しますね」

 

 ハーラルアさんは微笑みながら、私に声をかけて座った。

 反対側にも人がいるのに、どうして私にだけ声をかけたの?

 そんな疑問が思い浮かんだが、何故か席に座ったハーラルアさんがずっと私の方を向いてくる。

 えっ、もしかして私の顔に何か付いてる!?

 

 私はサッと自然に自分の顔を触るが、何もついてはいなかった。

 それじゃあどうしてだ?

 

 ずっとハーラルアさんは頬杖をつきながら、こちらをジーッと見続けてくる。

 口元は緩んでおり、頬は若干、桜色に色づいていた。

 ニヤニヤしながら、時折「んふふっ」と声も聞こえてくる。

 幸せそうにこちらを見るのはなぜだ?

 

 「……あの、ハーラルアさん。 私の顔に何かついてます?」

 

 思い切って聞いてみた。

 

 「ふふっ、そんな他人みたいな呼び方ではなく、わたくしのことはミリアと呼んでくださいな、ハル」

 「は、はぁ……」

 

 他人みたいって私たち出会ったばかりの他人じゃないですか。

 って、え!? どうして私の名前を?

 

 「……ミリア」

 「はい、どうされましたか?」

 

 私が話しかけても、ミリアは笑みを絶やさない。

 まるで慈愛にみちた聖女みたいだ。

 

 「どうしてさっきから私の方を見てくるんですか、それに私の名前もどうして知ってるんですか?」

 「あー、それはですねぇ。 ふふっ、どうしましょうか、今伝えてしまってもいいんですが、ここだと人目も多いですしねぇ」

 

 ミリアさんは楽しそうにしている。

 全くわけが分からない。

 

 「普通に今、教えてくださいよ」

 

 痺れを切らした私は尋ねる。

 

 「——仕方ありませんね。 いずれ話すことになるのなら、早いに越したことはありませんからね」

 「……」

 「次の休み時間——そうですねぇ……この学校の屋上なんてどうでしょうか? そこで二人きりでお話をしましょう」

 「そんな勝手に……!」

 「これはあなたにとって重要なことなのですよ。  生まれながらに感じていたのではないのですか?

 自分の中に渦巻く『違和感』を——」

 「どうしてそれを!?」

 

 私の中に時折、渦巻く『楔』。

 それを言い当てられたことに困惑する。

 というより初対面の私に、二人きりでしか話せない重要なことって何かあるのだろうか?

 というか本当になんで私?

 

 そんな疑問を持ちながらも、休み時間に突入した。

 

 

 

 *

 

 

 

 「あれ? ハルちゃんどこに行くの?」

 「ああ、うん。 これからちょっとミリアに学校の案内してくる。 授業までにはしっかり戻るから」

 「……そうだったんだ。 頑張ってね! ハルちゃん」

 

 桜子とは、軽く桜子と会話をした後、ミリアと共に屋上に向かった。

 2人きりで廊下を歩いていると、周りからの視線が凄く刺さった。

 主にミリアの華麗な容姿に全員が目を惹かれるのだろう。

 正直ミリアの隣に立つ事によって、比べられてそうで少し嫌だ。

 

 そうこうしてるうちに、屋上についた。

 屋上は幸い人は誰もいなかった。

 いつもなら数人は屋上でたむろしているはずなんだけど、誰もいないのは珍しい。

 

 それはそうと、私はミリアと二人きりの状況で少し身構えてしまう。

 私の名前も知ってるし、私の中に妙な『違和感』も知っているのだ

 

 「で、話って何? 2人きりでしかはな——っ!」

 

 突如、私はミリアに抱きつかれた。

 

 「——ずっと……、ずっと会いたかった」

 「ちょ、はな、離れて……」

 

 熱い抱擁を引き剥がそうとするが、離れない。

 ミリアは、私より背が高くスタイルもいいが、見た目に反して力が強い。

 

 「……ミリア、一回離れて!」

 

 私は必死の抵抗をすると、嫌がる私を見てか、ミリアは身を引いた。

 

 「あら、ごめんなさい。 わたくしったらつい気持ちが昂ってしまって……」

 

 ミリアは反省の色を見せる。

 

 「もう! 一体なんなの? 急に抱きついたと思ったら、『ずっと会いたかった』ってなに?私はあなたを知らないし、初対面のはずだけど?」

 「ふふっ、私はあなたのことをずっと前から知っていますよ。 それもハルが生まれる一万年以上前から……」

 「……は?」

 

 突拍子のないことを言い出すミリアに対して、言葉を失う。

 本当に何を言ってるんだ?

 

 「意味分からないし……。

 妄想癖を押し付けるのやめて。

 教室の場所は覚えてるでしょ。 私先に教室戻ってるから」

 

 そう言うと私は踵を返した。

 付き合いきれない。

 私が屋上から屋内の階段に足を踏み入れようとした時、後ろからの声に引き止められた。


 「——わたくし、実は天使なのですよ」

 「はぁ?」

 

 また新たな話題が振り込まれた。

 だが私は何故かその響きに強い興味を引かれ、会話に食いついてしまう。

  

 天使?

 確かに見た目が、天使級に美しいというのならその通りだけど、それは一体なんの冗談?

 

 「ふふっ、その顔だとどうやら信じていないんですね。 確かにこの姿だと天使と言われても、ただの人間にしか見えません。 なのでわたくしのアトリビュートをお見せしましょう」

 

 そう言うとミリアさんは、両手を広げ飛び上がった。 そしてくるりと数回転回る。

 

 その姿は、フィギュアスケートを彷彿とさせるような動きだった。

 いくらかの回転のあと地面に着地した時、私は目を疑った。

 

 「え、翼……?」

 

 ミリアさんは一連の動作を終えた時

 ——なんと背中には大きな純白の両翼が生えていたのだ。

 その翼は彫刻のように精巧で、羽の一本一本が神聖な光を放っており、この世のものとは思えないほど美しかった。

 そして何より、神聖な光に対して、私の中の奥深くで眠っている冷たい楔が、今確かに共鳴するかのごとく軋んでいるのを感じた。

 

 「嘘……それ、なんかのトリック? それにしてもどうやって……」

 「ハル、これはトリックではないですよ。 これこそがわたくしの本当の姿……、

 ——わたくしは、天使ミリアモル・アイテルヌスと申します。 以後お見知りおきください」

 

 ミリアはスカートの両端を摘み、綺麗なお辞儀をしていた。

 まるでその姿は絵画から飛び出たような……。

 

 「本当に……天使?」

 

 冷静に考えればありえない。

 しかし、なんだこの気持ち、まるで私はそれが嘘偽りがないと知っているような……。

 

 「そしてハル……——あなたはこのわたくしと同じ天使なのですよ」

 「どういうこと……?」

 

 私が天使?

 頭がこんがらがる。

 

 「わたくしが、この学園に来た目的はただ一つ。 ハル……いえ、天使マグナフュリアの転生体。 わたくしは貴方を手に入れ、番となるためにこの下界に降りてきました」

 「……天使マグナフュリアの転生体? 番?」

 

 まだミリアが自分を天使だと名乗ることに混乱しているのに、私まで天使と言われてしまった。

 

 信じられない。

 ——と思ったものの彼女の言葉で、私が生まれてから感じてきたこの、私の中にある『自分が自分ではないかのような楔』の正体であると、私は本能的に理解してしまった。

 

 「覚えていなくて当然です。 マグナフュリアは一万年前の天界の大戦の英雄……、彼女は大戦で力尽き、アトリビュートを消失するに至りました。 それから一万年が経過した今、天使マグナフュリアは長年の時間を得て、人間の南瀬ハルに転生したのです」

 「……」

 

 信じられないけど、私は何故かすんなりと頭の中に入ってそれを受け入れていってしまう。

 

 「じゃあ、もしそれがほんとうだと本当だとして、番になるってどういう意味?」

 「ふふっ、番とは愛し合う二人が生涯を永遠に共にするパートナーになるという意味」

 

『ふふっ』と微笑む彼女の瞳が、私の瞳を覗き込む。

 

「一万年……一万年間、ずっとこの日を待ってたんです。 あなたと再開するこの日を……。 あなたと結ばれるこの聖日を……」

 

 私は頭を抱える。

 

 「……結ばれるって、恋人みたいにってこと?」

 「そうですよ。 と言うよりも生涯を共にするという意味では、恋人よりもさらに上かもしれませんね」

 

 彼女は、なんら含みもなく、ずっと笑みを浮かべ続けながら私に語りかける。

 

 「実を言うと、天使マグナフュリアとは、旧知の仲でしてね。 それはもう最愛の親友と言ったところ。……一万年前、わたくしはそんなマグナフュリアに対して熱烈な恋心を抱いていました。 ですが天界では天使が恋をするなど御法度。 この恋情を伝えることを躊躇っていました」

 

 今のミリアの表情は、先程とは打って変わってとても辛そうで、哀しげな、悲壮に満ちた表情をしていた

 

 「ああ……、今思えばあの時、この恋情を伝えることができれば、どれほど良かったでしょう。 わたくしの気持ちを伝える前に、マグナフュリアは、大戦で戦死。 その後、わたくしは一万年に渡って後悔をし、今に至ります」

 

 そんな顔、しないで欲しい。

 彼女の悲しげな表情を見ると、私も悲しくなってくる。

 何故こんな気持ちになるのか——私にも分からない。

 まだ信じきれていないが、もしかしたら彼女の言う、転生前の心というものなのかもしれない。

 

 「——ですが、ハル」

 「な、何?」

 

 彼女は一歩踏み込み、私の目と鼻の先まで接近した。

 そして私の両手は、彼女の両手に優しく包み込む。

 その手には温もりを感じ、安らぎを覚えるほど。

 彼女の顔が近く、私は少しドキドキしてしまう。

 相変わらず、とても綺麗だ。

 

 「こうして一万年の歳月を得て、こうしてわたくしの秘めた恋情を伝えることができました。 なのでこれからわたくしとあなたの失われた一万年分を取り戻すために、思う存分に愛し合いましょう!」

 「ちょっと待って!」

 

 彼女の言うことは、ギリギリ理解できるし、理解してあげたい。

 こんなに真剣に話しているのだから。

 それに私も彼女に同情してしまっている。

 一万年なんて想像ができないけど、そんな長年マグナフュリアという存在を思い続けていた彼女は、とても一途で、私が言うのは偉そうだけど、立派だと思う。

 でも——。

 

 「……ミリアの言う通り、私がマグナフュリアさんっていう天使が生まれ変わった存在だとしても、今の私はただの一人の人間。 この日本で、日本人の両親の元に生まれて、普通の人間として育った南瀬ハルなんだよ」

 

 そうだ、私は私で、マグナフュリアはマグナフュリア。

 

「天使の記憶なんてもちろんないし、実感も湧いてない。 たとえ、私が過去の想い人だとしても、私はミリアさんの要求を飲むことができない。 だから、ごめんなさい。だって私は今を生きる人間の南瀬ハルだから」

 

 言い切った……。

 私の言葉を聞いたミリアは俯いており、髪で顔が隠れて感情が読み取れない。

 どんな表情をしているのだろう。

 落胆か失望か、愛の告白を拒絶した私に何を思うのだろうか。

 私自身も胸が苦しく思う。

 だけど半端な気持ちでこれは受け答えしてはいけない気がした。

 相手は本気なのだ。

 それに対して無責任にOKとでも、答えてもいずれそれは瓦解し、より深く傷つけてしまうかもしれない。

 

 「——ふふっ」

 「え?」

 

 笑った?

 

 「ふふっ——あははは!」

 「……ミリア?」

 

 彼女は高らかに笑っていた。

 それも屈託のない笑顔で。

 何がそれほど面白かったんだ?

 ミリアの目元には、笑い涙が浮かんでいた。

 

 「……ふぅ——失礼、はしたないところをお見せしてしまいましたね」

 

 彼女は、目元の涙を手で拭うと、ひと呼吸ついた。

 

 「あの、大丈夫? ミリア」

 「ええ、平気です。 いえ、平気では無いかもしれないですね。 まさかわたくしがここまで心を高揚させてしまうなんて。 ——やはりわたくしの想い人は変わりませんね」

 

 ミリアは振られたのに、当の本人はとても落ち込んだ様子はなかった。

 それどころかとてもテンションが上がっていて、不気味だ。

 

 「どういうことですか?」 

 「思い出したのですよ。 一万年振りに。

 わたくしに全く靡かない彼女のことを。

 あの時は直接的な恋情を伝えることができませんでしたが、良い雰囲気にはなったんですよ。 ですが、綺麗に躱されてしまいました。 まるでわたくしの胸中に気づいてるかのように」

 

 ミリアは、昔を懐かしむように楽しそうに話す。

 私はそれを黙って聞いていた。

 

 「……本当に罪な女。 わたくしは一万年あなたのことを思ったのに、さらにわたくしのことを焦らすのですね」

 

 それは私に向けての言葉なのか?

 それともマグナフュリアに向けての言葉なのか?

 彼女がどちらを捉えているか分からない。

 

 「いいですか、ハル。 わたくしはマグナフュリアのことを大切に思っています。 そして、それと同じくらいに南瀬ハルという人間のことも堪らなく大好きなのです。 それはあなたがマグナフュリアの転生体であることも理由として含まれますが、けれどあなたのその人間性だけを見ても、わたくしの今の気持ちは変わらないのです」

 「つまり、どういうこと……?」

 

 ミリアは、はにかんだ笑顔を見せる。

 

 「何度だって言います——ハル、お互いに最上の愛を思う存分に交わませましょう!」

 「待って……まだ心の整理がついてない。

 ミリアの気持ちは嬉しいけど、誰かを愛するとかも、私全然分からない、想像もできてない。 だからごめんなさい……」

 

 私のこれは拒絶なのだろう。

 自分にも本当はどうか分からない。

 しかしそれに反して、ミリアはとても楽しそうだった。

 

 「ふふっ、欲しいものは簡単には手に入らないから美しい。 ——わたくしは、あなたに愛してもらうため、どんな手段を使ってでも、その心を手に入れてさしあげます」

 

 え——っ、そういうことになっちゃうの?

 私は思わぬ方向に進んでしまう話に困惑していた。

 それに冷静に考えれば、もうひとつおかしな点があった。

 

 「——今更言うのはなんだけど、女同士の恋って、私……どうかと思うんだよね? いや、私はそういうの全く気にしない……こともない? のだけど、世間体とか、ね?」

 

 世間では、まだ同性愛は、まだ受け入れられていない。

 同性婚が認められている国もあるそうだが、現状この日本では、未だに同性婚は認められていないのだ。

 そう考えると、この恋は、とても険しいものになりそうで……。

 

 「何を言っているのですか、ハル。 わたくし達の愛は人間社会の物差しで測れる程、安いものではないのですよ。 これは言わば誓約の契り。 わたくしたちの愛は、誰にも侵犯することのできない永久不変の絶対領域なんですよ。 なので周囲の有象無象など、愛の前では関係ありません」

 「……そうなんだ」

 

 ミリアの言うことは難しい。

 しかし今の彼女が、愛の前に盲目と化しているのだけは分かる。

 一万年間溜め込んだ愛の暴走。

 一万年の月日をどうやって耐え忍んだか、この気持ちを真に理解できるような存在は、この世界中を探してもいないだろう。

 なら、誰かが彼女の理解者になってあげるべきだ。

 彼女の気持ちは報われて欲しいと思う。

 でも私の心は、彼女に踏み切ることができない。

 半端な気持ちで受け入れると、それはいつか後悔することになる。

 けど何もせずに、ただ拒絶するのは、後悔するかどうかも分からない。可能性すら生まれていない未知の領域。

 それなら私は、やらずに後悔するより、やって後悔するべきなのだ。

 

 「ミリア、私はまだ自分の気持ちが分からない。  私がマグナフュリアさんのことを知らないように、まだミリアのことも全然知らないからね。 これから友達になって、いっぱいミリアさんのことを知ったら、私ももしかしたら、ミリアと同じ気持ちになるかもしれない。  だから伝えます——私、この南瀬ハルの友達から始めてください」

 

 私は頭を下げた。

 これは誠心誠意のお願いなのだ。

 

 私の言葉の前に、ミリアは大きく目を見開いたかと思うと、慌てて両手を口元に当てた。

 それは喉から溢れそうになる喜びを抑えているかのようだった。

 

 「ハル……っ、嬉しいです。

 あなたからそんなことを言われるなんて……」

 「ミリア……」

 「ええ、そうですね。 ハルの心が靡くかどうか……わたくしの手腕に掛かってくるということですね。 ——ならば、ここに誓いましょう。

  ハルの友達として、いずれハルの心をわたくしのものにします!」

 「あ……うん。 ほどほどにね」 

 

 きっとこれがお互いが、譲れる最善の契約。

 私は、ミリアのことを好きになるか分からない。

 もしかしたらずっと友達もままかもしれない。

 けどもしも私がミリアのことを心の底から好きになって、恋人になる未来があるなら、そんな先の未来も、悪くないのかもしれない。

 これは私と彼女の恋の物語。

 きっとそれは誰も想像のできない、未知の結末になるだろう。

 

 


 

もし機会があれば、続きを投稿します。

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