6.未来(終)
二年後。
駅に着くと、また雪が降ってきた。北の春は遅い。
相変わらずな、アイボリーの外套とサングラスの姿に、手を振る。
「や、久しぶり」
「久しぶり。普通に歩けているようで、何より」
「おかげさまで。少し足は遅くなったが、借金取りくらいは余裕で捲けるぞ」
「借金?」
「そこは冗談として流してくれ」
「だが」
「ああもう、いいから乗れ」
「待て」
敬介は、道を歩くレディに「ピアスがひとつ落ちた」と伝え、道端の雪を指さした。
「壁が綺麗だ」
「他の感想はないのか?」
新しい事務所は、前より狭いが、少し綺麗で丈夫になった。少しくらい蹴ろうが灰皿を投げようが、壁が凹まない。まあ、引っ越して多少客層が良くなったので、しばらく穴だらけにはならないだろう。
「俺でも、その気になりゃここまで変われるんだ。お前は、きっともっと出来る」
タバコ代わりになめてたノド飴を、粉々に噛み砕く。さあ、覚悟しろ。きっと、これが最後だ。
「で……どうするか、決めたか?」
「決めた。すまないが」
敬介は頭を下げた。
息が止まる。だが、これでいい。面と向かってサヨナラが言えるだけ、マシだ。
「ワガママを言わせてもらう。僕は、ここで働きたい。働かせてほしい」
「なっ……⁈」
真っ白になりかけた頭をふる。落ち着け。ここでまた間違えたら、不幸になるのは敬介だ。
「待て待て。今までなに見てきたんだよ、他にもっといい仕事先、いくらでもあったろ?」
「あった」
「だろ? ならなんで」
「確かに色々あったが、君に損をさせない職場は限られる」
「俺なんかどうでもいいだろ、お前の人生だぞ」
「僕にとって君は『なんか』じゃないし、どうでもよくない。それに」
敬介から封筒を受け取る。履歴書。
「特技の欄に『雪に埋まったものがわかる』と正直に書けるのは、ここだけだ」
思わず、笑ってしまった。泣くほど笑った。
ほんと、言うようになったじゃねえの。
(了)




