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5.一歩

 一通り、ケガの処置とお叱りが済んでから。


 ノックと同時に税理士が飛んできた。

「坊! 暗証番号変えたなぁ⁈」

「え…あ、そういや…なんか変えたな…」

「ったく、私は忙しいって言っ…失礼、どちらさま?」

「…命の恩人」

 敬介は頭を下げて自己紹介をし、ふと俺の方を向いた。

「八桁の…それとも、十二桁?」

「ん?」

「暗証番号」

「ん?」

「埋まってる間に見えた」

「え」

 敬介は、スマホに入力した数字を、俺に見せた。警備システムの、パソコンの、その他いろいろ。

「…こういう情報も見えんの?」

「埋まってる時間が、長かったから」

「…マジか…」

「そろそろこっちの話に戻していいかい? 忙しいんだよ私」

「悪い、お局様……ちょーっとお願い、あるんだけど」

「追加料金払うなら、言いな」


 敬介をウチの「臨時職員」にして、顧問税理士監修の元、事務仕事をしてもらうことにした。実際、敬介には事務所の住所も、散らかした領収書の場所も、書類やデータの分類も、酒の隠し場所も、何から何まで全部バレていた。酒とタバコはババアに没収された。チクショウ。

 だが、ここまでの個人情報ダダ漏れに、腹は立たなかった。普通に暮らしていたら突然、見たくもない人の秘密を延々と見せられる拷問を、それでも誰かを救うために使えるだろうか。俺なら速攻でハワイに逃げるだろう。

 お局税理士は、ご丁寧に雇用契約書を作って、時給や待遇も決めてくれた。今回ばかりは、素直に感謝した。

「一項目、加えてくれ。『生き埋めの際は、ウチの仕事は放り出してもいい』」

「意味わかんないけど、それっぽい文入れとくよ」

 敬介は、震える手で書類を受け取った。


 敬介の冬は、忙しくなった。

 午前は町中を歩き、午後から事務仕事。面会時間ギリギリに、俺への報連相。

「心一くんが、就職を喜んでくれた」

「誰だい」

「前に助けた小学生だ。時々、埋まったアクセサリーとかを掘り出すのを、手伝ってくれる。去年は、勉強も教えてくれた」

 敬介は今年、やっと通信制の高校を卒業したそうだ。不登校だった小中の基礎が分からなくて、時々リアル小学生からも教えを受けていたという。頭が下がる。

「雇用契約書を見せたら、最低賃金だから、値上げ交渉した方がいい、とアドバイスもくれた」

「…賢い子だ」

「ただ働きはよくないって、前から言っていた。色々教えてくれて、感謝しかない」

 なんてこった。そのガキ、俺がやりたかったこと全部やってるじゃねえか。

 俺の出番なんて、とっくになかったのだ。

「今も、町での落とし物はわかる…糞尿が多い」

「……そりゃきっついな。冬の間はそうなのか?」

「サングラスをかければ、情報量はだいぶ少なくなる。だが、いま病院なので…」

「かけろ」

「え」

「看護師が許さなくても俺が許す。そんなん眼鏡と同じだ、かけろ」

 サングラスをかけると、敬介の顔から緊張がとけた。かなり我慢させてたらしい。

 看護師には適当に説明して、敬介は、病院内でもサングラスをかけられるようになった。やれやれ。

「冬は、つらい。でも今は、このチカラと共に働く方法もある、と、わかってきた」

 敬介は少し考えた。

「初めてお給金を頂いて……ただ働きや、君が言った『食い物にされる生き方』がなぜダメか、も、少しわかった気がする。君のおかげだ。感謝している」

「…そりゃ、なにより」

「でも君は、ダメだと言う生き方をしている」

「……だから、こうなるなよ、ってこった」

「なら僕は」

 声に少し、力がこもった。

「君がこれ以上損をしないように、働ける人間になろうと思う」

 年度が変われば、事務所でやることも一段落する。働いて自信がついた勢いで、敬介は二年、別の街へ学びに出ることを決めた。

「ウチ以上にいい職場なんて、山ほどある。世の中みて、進路じっくり考えな」

「君は、体を大事に」

「二度も事故ったんだ、そんなの今更」

「きっとそれが、君の第一歩だ」

「……言うようになったじゃねえの」

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