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3.事件

 数日経っても、電話は来なかった。

 そりゃそうだ。いきなり擦り寄ってきて、携帯の番号を渡して去る男。どこからどう見ても立派な不審者だ。

 俺はまた、間違ったのだ。


 鳴った電話を、0.5コールで取った。

 ただの仕事の依頼だった。夫の浮気を調べて欲しい、と。どいつもこいつも。

 住所を聞くと、あの住宅街のはずれだった。


※※※


 すっかり暗くなった。

 ポツンと建ってる依頼人の家は、灯りこそついてるが、玄関前の雪かき跡が新しすぎる。建物の横に停まってるのは、妻を信じられないあの依頼人の車だ。

 少し遠くに車を停めて正解だった。帰ろう。イヤな予感しかしない。

 と。

 玄関から、女が出てきて、男に引っ張られて、消えた。女に覚えはないが、男は、そこの車の持ち主の会社で見た顔だ。演技、にも見える。だが。

「……あ〜〜〜‼︎ ちくしょう!」

 観念して車を降りる。家に向かって走りかけると、クソ依頼人の車が急発進して、コッチに突っ込んでくる。


 路肩の雪山に駆けあがろうとした、が。


※※※


 目が覚めたら病院だった。信じられない。生きてる。体中痛いが、生きてる。前回を上回る衝撃に、これは終わった…と思ったのに。


「なあんで、こんなクソ忙しい年の瀬に事故にあうかねえ」

 顧問税理士が立っていた。保証人として呼ばれたんだろう、最高に機嫌が悪い。逃げたい。

「勝手に事務所入らせてもらうよ、所持品は代わりに受け取ったから」

「…お好きなように…」

「私が聞いた限りじゃ、相手の支払い能力は期待できない。使える制度は全部使う、いいね?」

「……合法なやつで頼む…」

「あのクソジジイと違って、ほんと肝っ玉の小さい坊やだね…にしても、面白い助かり方したもんだ」

 税理士は、椅子を引き寄せて座り、声をひそめた。

「匿名で通報があったんだってね。男と車が雪に埋まっている、って」

「⁈」

「車に至っては、車種、ナンバー、乗ってる奴の名前まで教えてくれたって。おかげで、逃げた車もスピード逮捕さ」

「…へえ…」

「そしてコレ」

 税理士は、枕元に俺のスマホを置いた。持ち主ほど壊れてない。

「坊が掘り出されるまで、ずっと鳴ってたって。誰だか知らないけど、かけ続けてくれたお礼、言ってやんな」

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