2.再会
覚悟の一服をキメると、外套を着込む。
昨日、郊外の酒場で、おかしな噂を聞いた。まさか、こんな近くにいたとは。
冬の間だけ外に出てきて、雪に埋まったモノを見つけてくれる、若者の話。
※※※
「元気だしな、雪に埋まれば『敬介さん』が見つけてくれるよ」
女将が、スマホを無くして騒ぐ客に発した言葉に、俺の耳は手品師よろしくデッカくなった。
しかも、テーブルと壁の隙間に挟まっていたスマホを俺が見つけたので、自然に女将から話を聞くこともできた。こんだけツイてたら、仕事の収穫もないまま長引いたことくらい、許せるもんだ。
「敬介さん? 変な子さ。雪のどこに何が埋まったか、分かるってんだから。私も、指輪を見つけてもらって助かってねえ」
「へえ」
「でも、それ以外は仕事もしないで引きこもってるって話だけどね、親御さんも気の毒にさ…おや、大丈夫かい?」
「…ああ、ここのメシ美味くて、少し食い過ぎたわ。けどその…敬介さん? に、なんか探してほしいって時は、どうするんだい? 電話するのかい」
「いいやぁ、その辺歩いてるのを捕まえんのさ。まぁ、向こうから『埋まってた』って来る時もあってね、人が埋まった時はすぐ来るよ」
「……へえ」
「なんか探してほしいものでも、あるの?」
「ああ……まあ」
「お客さん、もう箸を止めな、顔が真っ白じゃないか…敬介さんは日中、アイボリーの帽子とコート、マフラーに、真っ黒いサングラスかけて、長い棒を持って歩いてるよ。探し物、見つかるといいね」
※※※
その町に着いた頃には、空も晴れて、少し暖かくなってきていた。とりあえず、コンビニでタバコを買い、建物傍の喫煙コーナーを拝借する。
この辺は住宅街だ。余所者がウロウロしていたら、途端に警戒されてしまう。どう探したものか。
そこで、ハタと気がついた。探してどうする? 今更、何も出来やしないのに。
ドンッ!
いきなり背中に何か、ぶつかった。振り返ると、アイボリーでかためた服装の人間が雪山に突っ込んでいる。ソイツは不器用に起き上がり、サングラスをかけた顔をこっちに向けた。
「失礼、ケガは!」
「…いや、何も」
「よかった、では急ぐので!」
アイボリーの男は、雪に刺さった棒っこを抜き、必死さだけは伝わる足取りで、走っていった。
考えるより先に、身体が動いた。
「おい!」
火をつけたばかりの煙草を灰皿スタンドに食わせて、久しぶりにダッシュした。秒で追いつく。
「誰かが雪に埋まったんだな? 場所は?」
※※※
「先に知らせに行ってくれて助かった。感謝する」
今どき、AIだってもう少し柔らかく話すだろうに。だが、昔よりはしゃべるようになった。当然か。
『敬介さん』は、キチッと俺に頭を下げた。
親が目を離した隙に、雪に埋もれた子ども。母親は救急車に乗ってからも頭を下げ続け、俺らは「礼はこっちに」と互いを指差した。
野次馬していたご近所さんが、俺らに熱々の肉まんをくれた。『敬介さん』は現物支給制らしい。
「礼はいい。こっちの都合でやったことだ」
昔の思い出に縋りつき、無計画にただ会いにきた、なんて、流石に言い出せない。
だが。
必死に走る後ろ姿。足は今も遅いようだ。
「おい」
メモを渡した。
「携帯の番号。やるよ。自由のきく仕事だ、いつでも駆けつけられる」
敬介の「失礼、名前は」という質問を無視して逃げた。事故って顔は変わったが、名前は覚えてるかもしれない。
覚えていたら、あの日のことを怒るだろうか。




