第2話
二日後。昼休み。
獅賀君が転校してきてから、ようやくクラスに馴染み始めた。
最初の頃はクラスメート達から質問攻めの毎日であったけど、今はようやく落ち着き始めた。
だが、見た目が見た目だからか、女子達は仲良くしようと毎日声を掛けていた。
その声を掛けられている本人は、あまり話すのは得意ではない様で、端的かつ短く返事をするだけであった。
傍から見ていると、本人は自覚しているのか分からないが、壁を作っている様に見えてしまった。
しかし、女子達からしたら、その反応がミステリアスで素敵で好感触をしめしていた。
男子の方は、その態度がすかして気に食わないとばかりに、仲良くなろうとする者が居なかった。
わたしとしては、折角クラスメートになったのだから仲良くして欲しいと思うのだけど、其処は仕方がないと思い、何も言わなかった。
わたしの方は、今日もいつものようにクラスメートの質問に囲まれていた。
「青淵さん、ここの数式、これでいいのかな?」
「うん、それで合ってるよ」
「分かった。ありがとう」
そう言ってクラスメートが離れていくと、ふと視線を感じて顔を上げると―― 獅賀くんが、静かにこちらを見ていた。
「獅賀くん。どうかした?」
「いや、毎日ご苦労なことだなと思っていただけだ」
そう答える彼の声には、わたしへの気遣いが込められていた。
「ふふ、ありがとう。でも、頼ってくれているのに、無下にするのも悪いしね」
わたしが笑いながら言うと、獅賀くんは首を横に振った。
「毎日、先生やクラスメート達に頼られていたら、疲れない方がおかしいだろう。少し、断ろうと思わないのか?」
そう言われて、わたしは言葉を詰まらせた。
何を言えば良いのか分からず、黙ってこんでしまった。
同時に、こんな風に気遣われる事が無かったので、衝撃を受けていた。
そして、心臓が高鳴りだした。
何でなのか分からずにいると、そのとき、教室の扉が開いた。
「あの、すいません。此処に獅賀春斗という人がいますか?」
そう躊躇いがちに、教室に入って来たのは隣のクラスの乙穂花梨だった。
隣のクラスでも人気のある、金髪で社交的な子で有名だった。
「……乙穂、か。懐かしいな」
「久しぶり! 覚えてる? 小学校のとき、よく一緒に遊んだじゃん!」
彼女は笑顔で春斗くんに駆け寄った。 春斗くんは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。
「もう、反応が薄いな~。北海道に暮らしていた時から、もう数年は経っているんだよ。もっと喜ぼうよ~」
「そうだな。もうそんなに経つんだな」
わたしは、二人のやり取りを黙って見ていた。 獅賀くんの表情が、わずかに柔らかくなっているのが分かった。
――そんな顔、初めて見た。
乙穂さんは、獅賀くんの隣に昔話を楽しそうに語っていた。
その話を聞いていると胸の奥が、少しだけ、きゅっと締めつけられた。
その帰り道、蝉の声が遠くに響いていた。
わたしは、空を見上げながら思った。
――獅賀くんの“過去”を知っている人がいる。 ――わたしは、“今”しか知らない。
その差が、なぜかとても遠く感じた。




