第1話
「であるからして、現在の世界では魔素を用いた技術や術式によって、エネルギー問題は解決された。環境破壊を伴わないクリーンなエネルギーにより、我々の社会はここまで発展したのだ」
社会科の先生が、黒板にチョークで今日の授業内容を書きながら語る。
それが書き終えると同時に、チャイムの音が響いた。
「今日は此処までとする。今度のテストにも出るから予習していくように。日直」
「はい。起立」
日直の同級生の声に合わせて、私達が立ちあがり、礼する。
そして、先生が教室を出て行くと、一気に騒がしくなった。
一気に騒々しくなった教室の中、わたしは椅子にぼんやりと座っていると、周りに居たクラスメート達が近づいてきた。
「青淵さん。授業で分からない所があるのだけど、教えてくれる」
「ああ、いいよ」
クラスメートはそう言ってわたしの机に問題集を開いて置いた。
それを皮切りに、他のクラスメート達も声を掛けて来た。
「青淵さん。実はここが分からないのだけど」
「青淵さん。此処はどうやって解くか教えてくれない?」
「ちょっと、今はあたしの問題を見て貰っているのっ。後にして」
「良いだろう。別に」
クラスメート達の空気が悪くなるのを感じたわたしは、宥めた。
「まぁ、皆落ち着いて。ちゃんと全員見るから」
わたしが言うと、皆落ち着いたのか大人しくなった。
その後、一人一人問題集を見ながら分からない所を教えた。
それがわたしこと蒼淵珊瑚が通っている星ヶ丘高校で毎日起こる事であった。
クラスメート達も頼ってくれるのは嬉しいのだけど、正直毎日はしんどかった。
両親もわたしを信頼してか頼りにしており、先生達もわたしの成績と素行が良い為か、何かと頼りにしていた。
誰にでも頼られるからか、誰かに愚痴を零す事が出来なかった。
このまま学校を卒業するまで、誰かに頼られるのかと思っていた。
そんな時に、出会った。ある人に。
高校に入学してから数カ月が経ったある日。
後もう少しで、夏休みに入るという時期に、担任から転校生が来ると聞いた。
微妙な時期になったのは、家庭の事情という事であった。
そして、朝のホームルームで、その転校生が紹介された。
「転校生を紹介するぞ」
担任がそう言って、チョークで黒板に転校生の名前を書いていった。
書き終えると、わたし達を見た。
「獅賀春斗だ。皆、仲良くする様に。獅賀君。挨拶を」
「はい」
担任に促され、獅賀と言われた男性が頷いた。
わたしは其処で、獅賀君を見た。
細身のモデルの様に高い身長を持っていた。
制服を着ているので分かりづらいが、長い脚に引き締まった腕を持っていた。
日本人にしては珍しく、彫りの深い引き締まった顔立ちをしていた。
鼻先が上を向いている獅子鼻に、林檎の様に赤い唇。
どれを取っても、綺麗に整っていた。
目に至っては、刃の様に鋭い鳶色の瞳を持っていた。
「獅賀春斗です。家の事情で転入が遅れましたが、よろしくお願いします」
そう言って、獅賀君は頭を下げた。
「皆仲良くする様に。ああ、獅賀君はまだ教科書は揃っていないから・・・・・・青淵」
「・・・あ、はい」
獅賀君を見ていて、担任への返事が少し遅れてしまった。
「学級委員のお前が少しの間、面倒を見てくれ。獅賀君、何か分からない事があったら、彼女に訊く様に」
「分かりました」
担任にそう言われた獅賀君は頷いた後、わたしの隣の席まで歩いてきた。
「獅賀春斗だ。よろしく」
「こちらこそ、蒼淵珊瑚だよ」
挨拶をしてきたので、わたしも挨拶を返した。
その後、直ぐに担任の授業が始まったので、わたしは自分の机を彼の机に寄せて、教科書を見せた。
ただ、それだけなの、何故か心臓がいつもより、激しく音を立てていた。
何故だろう?




