学園生活は波乱の予感です!
とはいえ、人生っていうのはそううまくはいかないもので。
「……」
入学式が無事終わり、新入生は各自クラスへ案内された。そして今に至るわけだけど。
「……」
(絶対見てる……っ)
私は、第三王子の隣の席になっていた。
それだけでも絶望的なのに、どうしてかチラチラ見られているのが分かって、ものすごく居心地が悪い。
(ううっ。原作ではエレニカは別のクラスだったから、攻略対象とは物理的に近付かないかぎり接点はなかったはずなのに……!)
この学園ではクラスや席を決める際には成績や家柄が関係してくるらしい。
つまり、同じクラスになったのなら、第三王子と公爵令嬢が隣の席なのは必然ともいえるわけで。
そうなれば、昔会ったことのある第三王子がこちらに興味を示すのも無理はないのかもしれない。私名乗れなかったし。
(もー……こっちにばっかり気を取られてたら、ヒロインとのイベントが発生しなくなるんだからね!)
そう。確か第三王子とヒロインの最初のイベントはこの日、この教室で発生するはずだ。
どんなだったか細かいことは忘れたけど。
(多分、自己紹介系だったはず。まぁそうよね、お互いに認識しないと始まるものも始まらないもんね)
そのためには、第三王子には他に目を向けてほしいものだけど。
(……休み時間になったら話しかけてきそうな感じじゃない?これ。関わりたくないんだから勘弁してほしいんだけどな〜)
と、思ってはいたけど。
「殿下、わたくしイライザ・ノーメントですわ」
「あ、ああ……」
「私は、フレア・ミーガンと申します。殿下と同じクラスになれて、とても光栄ですわ」
「……うん、」
流石王子様と言おうか。休み時間のたびに、第三王子はあっという間に女子生徒に囲まれて、身動きがとれなくなっていた。
(うわー……大変だなー、第三王子も)
休み時間のたびにこれなので、若干声が死んできたような気もする。可哀想に。
(私はものすごーく助かったけどね!)
こちらに話かけようにも、女子生徒がひっきりなしに話を振るからか第三王子は「ああ」か「うん」しか言えていない。私に話しかけるなんてもってのほかだ。だって、女子生徒で360°の壁が出来てるようなものだから。
(……というか、この状況でヒロインとはどうやってイベント起こすんだろ?)
ゲームではこの状況は存在しない、ということはないだろう。
なら、ヒロインはこの令嬢たちの壁を突破しないといけない。その上で自己紹介だ。え、無理ゲーでは……?
「あの……っ!」
(えっ!まさかの強行突破?!)
絞り出すように声を上げたのは、私とは反対側の、第三王子の隣の席の令嬢だった。
茶色の髪、薄い緑の瞳の令嬢は、おどおどとした態度を隠すことなく、第三王子と令嬢たちの視線を一斉に浴びながら、話を続ける。
「これ……っ、落としてませんか?」
そう言って令嬢が渡したのはペンだった。方向的に持ち主は第三王子だ。大方、群がられてるうちに、机の上のものが落ちてしまったんだろう。
「あ、あぁ。僕のだ。ありがとう」
「いえ……あの、わ、私……っ」
「うん……?」
「私、あの……アイリス・リンドールと申します……!」
「あぁ……」
おおー!ペンが落ちたのは多分偶然とはいえ、その機会を逃さず視線を向けてからの自己紹介!
これは普通だったら印象に残るけど、今の第三王子には逆効果じゃない?ほら、結局お前もか……みたいな顔してるし。
と、思ったら。
「申し訳ございません!」
「え?」
「無作法ゆえ、同じクラスに王族の方がいらっしゃったときは挨拶をしなければいけないということを知りませんでした……!隣に座っているというのに……!」
令嬢はそう言って、がばり、と潔く頭を下げたのだ。これは第三王子も周りの令嬢もぽかーん、である。
「挨拶が今になって、申し訳ございませんでした!」
辺りは途端に静かになった。かと思えば、第三王子がぷはっ、と吹き出して笑う。
「いや、そんな決まりはない」
「え……?」
今度は下げていた頭を少しだけ上げたその令嬢がぽかんと呆ける番だった。
「皆、気を遣って挨拶してくれたのかもしれないが、学園にいるからには僕も一生徒だ。過剰な敬意は不要。よって、わざわざ挨拶をしにくる必要もないよ。みんな、ありがとう」
(……うわー……)
これは謝った令嬢のファインプレーじゃない?こうやって宣言されたからには、周りの令嬢方は話を続けられなくなったし、他のご令嬢方だってこれ以上はおいそれと挨拶できなくなってしまった。
結果、第三王子の周りの令嬢たちは、口の端を引きつらせ笑いつつ、すごすごと自分の席に帰っていき、360°の壁は消えた。そして、これ以降は出来ることはないだろう。
「……ありがとう。えっと、リンドール嬢?」
「いえ……私はお詫びしただけですから。無作法でなくてよかったです」
う、わー。そこでにっこり微笑むとは。
さり気ない手助けに謙虚な姿。トドメは可愛らしい笑顔ときた。もうこれは確実に出会いイベントにほかならないだろう。第三王子は令嬢の名前を忘れないだろうし、最後の笑顔になんか絶対に釘付けになっているだろう。
(まぁ私の席からじゃ、第三王子が令嬢の方を向いている以上、どんな顔をしてるか見えないけど……)
それにしても、危惧していた出会いイベントが無事行われたようでなによりである。
(あれ?でもリンドール家って伯爵家だったよね……?ヒロインは男爵家だったような……?)
その辺の記憶の齟齬は仕方ないんだろうか。そもそもがそんなにやり込んだゲームではないので、記憶自体もあやふやな訳だし。
(なんせ、ヒロインの名前もよく覚えてないくらいだもんなー)
とかなんとか考えていたら、いつの間にか授業が始まって終わっていたらしい。次はとうとうお昼休みだ。私が、一番、待ちに待っていた。
「エレニカ!」
「……お兄さま……!」
そう。学年の違うセオドアと過ごせる、唯一の学校時間。それが、お昼休みである。
「お昼までの時間がこんなに待ち遠しかったことはないよ」
「私もです」
抱き着きたいのを必死に堪えて、セオドアを見上げてにこにこ笑う。こうするとセオドアもとろけるように笑ってくれるから、この瞬間が好きだった。
なのに。
「やあ」
「……」
「……第三王子殿下……」
「久しぶりだね、アーレント卿」
さっきまでヒロインと出会いイベントしてたくせに!なんで話しかけてくるのよ!




