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令嬢は長男と二人きりになる。


広い紅玉宮の廊下をゆっくりとふたりで進む。

コツコツと履いている靴の音が廊下に響く。


「ジョシュア、様?お話とはいったい何でしょうか。」


兄弟だから呼び捨てにすべきかと思ったが、彼は今世公爵位を望んでいないわたくしとハルモニアの影響もあり、半年後成人した際には公爵となることがほぼ確定している。

ここで失礼な態度をとれば命はないかもしれないと、敬称で呼ぶ。


「ジョシュア、で良いですよ。リリエンタ嬢。」


彼はそういうと歩みを止めこちらを向く。


「それならば、兄弟なのだからリリエンタ嬢、なんて他人行儀はやめてください。」


ずっと気になっていた。

前回の人生では名前を呼ばれたことがなかったのでわからなかったが、今回初めて話して感じていたことだ。

憎んでいるから当然だとは思うが、兄弟にしては距離を置かれている。

家族ではないというような。

わたくしがそういうとジョシュアは驚いたような顔をし、顎に手を当てる。


「わかりました。·········兄弟、ですからね。」


彼はそういうとわたくしから手を放し、廊下の壁に背を預ける。


「話と言うのは、後継者のことです。」


彼はそういうとこちらに冷たいまなざしを向ける。

わたくしは息をのむ。

まさか面と向かって聞かれるとは思っていなかった。

確かにわたくしとジョシュアは同じ19歳の年長者同士。

この国は多くはないが女が爵位を継いだ例もあるし、前公爵である父の寵愛を受けていた娘が爵位を継ごうと思っているのではと懸念が生まれるのも無理はない。


「単刀直入にいうと、あなたは爵位を継ごうと思っていますか?もしそうであるなら·······。」


彼は冷たいまなざしはそのままにこちらに近づく。

鼻先が触れるほど顔を寄せる。


「僕はあなたを殺さなくてはならない。もし、ハルモニアを爵位につかせようと考えていても同じです。」


わたくしは一歩下がり、震えをとめるように手首を握る。


「········そのような恐れ多いこと、考えたことは一度もありません。」


前回の人生ではハルモニアに継がせることに固執したけれど、今世では考えたことはない。

そんなわたくしに冷たい表情のままジョシュアはまた一歩こちらに距離を詰める。

わたくしも一歩下がり、また一歩と繰り返していると背が壁に当たる。

ジョシュアは壁に手をつき、わたくしの耳元まで口を寄せる。


「その言葉信じています。あなたがこの家に不利益をもたらさなかったら、僕も何もしません。身を守ります。」


彼はそういうと体を離し、上目遣いをしながらわたくしのくすんだ桃色のようなプラチナブロンドに口付ける。

その行動と色気にわたくしは目を白黒とさせる。

そんなわたくしにジョシュアはふっと笑うと髪を放し、再度エスコートをするよう手をとる。


歩みを進め、わたくしの部屋の前につくとジョシュアは口を開く。


「父、母亡き今、僕が後継者筆頭で本邸に住んでいるため、黒曜宮が空いています。」


「?はい。」


いきなりこの家の邸の話をし始めるジョシュアに首をかしげる。


「紅玉宮にはハルモニアがいるので、黒曜宮にはあなたが住み管理をしてほしいのです。」


「え·······。」


ジョシュアの思いがけない提案に戸惑う。

この家のしきたりでは、公爵以外の者が生まれて育った宮から出て生活することは許されない。

ほかの宮の子供が血のつながりのないほかの宮にいる公爵の妻に王恋慕するのを防ぐため、などいろいろ理由はある。

公爵亡き今、血のつながりのある兄弟しかいないからその心配はないが。

それを抜きにしても、本邸からすぐ近くの、正妻が住む黒曜宮に住むなんてとんでもないことだ。


「そこにわたくしが住み着いてしまえば、ジョシュアの婚約者が来た時に不快な思いをすると思います。兄弟とはいえ、ほかの女が住んだ後なんて。」


わたくしがそういうとジョシュアは今まで見せたことのない微笑みを見せる。


「それについては問題ありません。」


そういうと、これ以上いうことはないのか、良い夢をと去っていった。


(何が問題ないのかさっぱりわからないわ。問題しかないでしょう。)


公爵位を狙っていないとはいえ、敵になるかもしれない人間を自分のテリトリーである場所に、しかも本邸に近い場所に住ませるとはどういうことだ。

公爵家政治の中心から離れている紅玉宮においておけば良いものを。


「監視がしやすいからとか······?」


まだ懸念の残るものを目の届きやすい場所に置き、裏切らないよう、裏切られても即対応できるように傍に置くのかもしれない。


部屋に入りどっと疲れが出てきてベットに横たわる。

しかし、前回の人生と比較すれば、油断はできないがジョシュアとは良い関係を築けるのではないかと感じる。


命の危機は今のところ去り、あとはハルモニアがあの三人の執着を受けないようにするだけ。

わたくしはホッと息を吐き、うとうととまどろむ。


「ハルモニア·····には······、3人にあまり関わらない········ように、言わないと·····。」


まだやることはあるが、睡魔には勝てず目を閉じた。

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