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令嬢は長男と三男に会う。


次の日の夜、夕食会当日。


「姉様、とてもきれいだ。」


「ありがとう、ジュリアス。」


わたくしを迎えに紅玉宮まで来たジュリアスは、キキ公爵家の夕食会にふさわしいレースを基調とした夜空のようなドレスに身を包んだわたくしをほめる。

ジュリアスはわたくしが化粧をメイドに施している間もそ傍を離れず、ひな鳥のようにまとわりついていた。

ジュリアスはわたくしの腰に手を添える。


「俺がエスコートするから、本邸に行こう。」


「ええ、お願い。」


そんなわたくしをハルモニアは不安そうな顔で見つめる。

ジュリアスが危険だから、と言うのもあるだろうが、今までハルモニアにしかかかわらなかった姉に複雑な思いがあるのだろう。


「ハルモニアも一緒に行きましょう。」


「っ・・・。うんっ。」


わたくしがそう声をかけると、ハルモニアは顔を青ざめながらわたくしの傍による。

そんなおかしな様子のハルモニアに首をかしげたが、緊張しているのかもしれないと納得した。

そのせいで、ジュリアスがどんな表情でわたくしとハルモニアを見ていたのか気づかなかった。




紅玉宮から本邸までは馬車で10分ほど。

キキ公爵家は本邸を真ん中に北に黒曜宮、東に水晶宮、西に翠玉宮、南に紅玉宮とあり、それぞれに公爵の妻とその子供たちが過ごす。

一番くらいの低い妻が住む紅玉宮は一番本邸から離れている。

子爵家の娘であった母は売られるように公爵家に嫁いだが、その美貌で父の寵愛を受けた。


(この距離を毎日本邸から移動していたなんて、どれだけ母を愛していたとしてもできないわ。)


わたくしは馬車をおり、本邸を見上げる。

今この本邸では仮当主としてジョシュアが住み領地管理をしているらしい。

前回の人生では、この本邸はだれも住んでいなかった。

それというのも仮当主を立てる段階からジョシュアとわたくしたちは争っていたため立てられる状況ではなかった。

今世はその争いもないため、長男であるジョシュアが仮当主となっている。

半年後には成人である20歳になるジョシュアはそのまま公爵となるだろう。

それまでにハルモニアと共に家を出る手段を立てなくてはならない。

ジョシュアが20歳になるということは、同い年であるわたくしも20歳になる。

結婚できる年齢になるのだ。

良い人を見つけて結婚しハルモニアとともに家を出るのも悪くはない。

そのためにはジョシュアあの力が必要である。


(この夕食会で少しでも恨みが減れば良いのだけれど。)


「姉様、行こう。」


そう声をかけるジュリアスの腕に手を添えた。





目的地に着き席につく。

どうやらジョシュアとジェラードはまだ来ていないらしい。

無意識に詰めていた息をホッと吐きだす。

目の前の席にはジュリアス、ジュリアスの横にはハルモニアが座る。


「ハルモニアはわたくしの横ではないの?」


疑問に思い、席を指定したジュリアスに問いかける。


「今日は兄弟の親睦を深める夕食会だ。ずっと関わりのあったハルモニアくんとずっと一緒じゃあダメでしょ。」


「そう・・・。」


ジュリアスが言うことにも一理あると納得した。

しかしこれから、わたくしを殺した男が上座にきて近くに座ると思うと震えてしまう。

できればハルモニアに近くにいてほしかった。

それに上座に座るジョシュアからは見えにくいだろうが、ジェラードとジュリアスの目にはハルモニアがうつってしまう。


そう悶々と考えていると、視線を感じ横を見る。

夜空色の瞳に魔力の強いものに現れる特徴である瞳の中の星屑、ミルクティーブラウンの髪。

ジュリアスの愛らしい顔とは違うが、きれいで中性的な顔をした男が頬杖をつきわたくしを見つめて横に座っている。


「・・・っ!」


いつの間にか横にいた人物に息をのむ。

人が入ってきた気配はなかった。

いつの間に隣に座っていたのか。


「ジェラード、姉様を驚かせるな。いつも扉から入ってくるよう兄様に言われているだろ。」


ジェラード・ローゼ・キキ。齢16の魔法の天才である。

翠玉宮に住んでいる公爵家の三男。


「あなたが姉上?」


ジュリアスの声が聞こえていないのか、無視をしているのか、

ジェラードはわたくしの方を見つめてくる。

その瞳を見ていると吸い込まれそうな、そんな不思議な力がある。


「姉様に魅了の魔法を使うな!!」


そうジュリアスの声が聞こえたと同時に目の前をナイフが横切る。

わたくしは驚き悲鳴も上げられずに椅子から落ちる。

そんなわたくしの傍にハルモニアは駆け寄り、二人から見えないようにわたくしをかばう。


「姉様に魅了の魔法を使うなんてどういう了見だ、ジェラード。」


わたくしとハルモニアの姿が見えていないかのように、二人の間にはブリザードが吹き荒れている。


「・・・別に他意はないよジェラード。僕も姉上と仲良くなりたかっただけ。」


そういうとジェラードは何を考えているのかわからない表情でこちらを見、ごめんなさい姉上、と言う。

彼らの話から察するに、わたくしはこの魔法の天才であるジェラードに、かけられたものは術者を無条件に愛してしまう禁忌の魔法をかけられるところだったようだ。

前回の人生でハルモニアが急に3人と仲良くなったのも、この魅了の魔法のせいなのかしら・・・。


ナイフを投げるジュリアスといい、なんて恐ろしいのか。

震えが止まらないわたくしの肩をハルモニアが抱き寄せる。


「姉さんに、姉さんを危険な目に合わせる奴は、姉さんに近づかないでくれ。」


ハルモニアはおびえた顔をしながら、二人の兄からわたくしをかばうように言う。

その瞬間、あたりの空気が冷える。


「幼いころ庭園でみたときから思っていたんだけど・・・。」


ジュリアスの怒りの矛先がこちらへ向く。


「姉様から無条件に愛をもらい、一緒に遊ぶお前が邪魔で妬ましくて仕方ないな。」


そういうジュリアスはこちらに向かって、正しくはハルモニアに向かって落ちたナイフを投げる。

その瞬間わたくしはとっさにハルモニアに覆いかぶさった。

全てがゆっくりに見える。


(まだハルモニアを逃がせていないのに、ここでわたくしは終わるのね。)


わたくしはぎゅっと目をつぶり、痛みに備える。


・・・・


いつまでたっても痛みは来ない。

わたくしは恐る恐る目を開く。

目の前にこの国の黒い軍服が見える。

上を見上げると襟足だけ伸びている青みがかった黒髪。

男の手にはジュリアスが投げたナイフが握られている。


「兄様!!」


「兄上・・・。」


後ろ姿、そのオーラでわかる。

わたくしを殺した男。


「大丈夫ですか。」


男は彼を呼ぶ二人の声を無視し、こちらを振り向く。厳密にはハルモニアを見ている。

この家の血を最も濃く継いでいる証である黄昏色の瞳を細め、笑みを浮かべる。

葬儀の間わたくしをずっとにらんでいた者とは思えない優しい顔をした、根は極悪非道で狂気的な男。


ジョシュア・ノマ・キキ


この家の後継者筆頭。


「は、はい。俺は平気ですが、姉さんが・・・。」

彼の問いかけに答えられずうつむくわたくしの代わりに答えるハルモニア。

彼を見ると前回の最期が思い起こされる。

恐ろしくて震える。

彼はわたくしの目の前まで来ると目線を合わせるようにしゃがみ込む。

彼はわたくしの顔に手をあて、そっとこちらに目線持ってくる。


ばちり。


目が合わさる。

その瞬間体に電流が流れたような感覚がした。

混乱でまじまじと彼の顔を見る。


(初めてジョシュアの顔を見た気がするけれど、こんなに整っていたかしら。)


争いを始めてからどこか目が曇っていたのかもしれない。

彼はこちらを感情の読めない、けれど瞳の奥によくわからない熱がこもったまなざしで見つめ、口を開く。

すると


「兄様近すぎ!」


ジュリアスがジョシュアの肩を後ろに引っ張り、距離を取らせる。


「姉様はハルモニアくんと俺以外の男性と関わってきていないんだ。あまり近づかないで。」


あなたも初対面で顔を寄せてきたじゃない。しかも頬に口づけまでして!

とは声に出せないが、この場から逃げたく顔をそらし現実逃避をする。

狂気的な3人がそろってしまった。

わたくしの背中に冷や汗が流れる。


「それは申し訳ないことをしました、リリエンタ嬢。」


彼はそういうと立ち上がり、ジュリアスとジェラードを見る。


「二人とも、リリエンタ嬢とハルモニアは僕たちの兄弟だ。命を脅かすことも、魅了の魔法をかけることもいけないよ。」


ジョシュアがそういうと、ジュリアスは拗ねながらも、わかった、とつぶやく。

ジェラードは話を聞いていないのか、使い魔の大きな鳥と戯れている。


「リリエンタ嬢はおびえてしまっているし、夕食会は日を改めた方がよさそうだね。」


ジョシュアはそういうとわたくしに手を差し出す。


「リリエンタ嬢は僕が紅玉宮までお送りします。ハルモニアも一緒に戻ろう。」


わたくしはハルモニアに起こされながら、恐る恐るジョシュアの手を取り部屋を後にした。


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