令嬢は状況整理をする。
父と母が亡くなってから、わたくしとハルモニアは今まで受けていた庇護を失い、自分たちで身を守らなければならなくなった。
すなわち、わたくしたちが公爵位を狙わなければ、他の兄弟に殺される可能性があったのだ。
父には母以外に3人の妻がいた。
3人の妻にはそれぞれ息子が一人ずついる。
というのも女は生まれると不要だという理由で、父に殺される。
父の寵愛はすべて母が得ていたため、男児が生まれると見向きもしなくなり、一人ずつしかいないのだ。
私の異母兄弟3人は
正妻腹の長男、ジョシュア・ノマ・キキ
次男のジュリアス・ミラエル・キキ
三男のジェラード・ローゼ・キキ
である。
それぞれ剣技や魔法に優れ、人を殺すことを厭わない恐ろしい3人である。
この3人は父の指示で自分の母をも殺しているのだ。
わたくしにとって父はとても優しい人であった。
しかし、自分の息子に妻を殺させ、自分の子どもにも手をかける残虐非道な人であった。
わたくしは寵愛を受けていた母に容貌が似ており、なおかつ母は美貌と愛らしさで父を虜にしていたため、虐待されることはなかった。
わたくしとハルモニアは血を知ることも、戦争を知ることもなく、あたたかい環境で育てられていたため、3人からは憎まれていたと思っていた。
しかし、前回の人生で3人はハルモニアに執着し、狂気的なまでに愛してしまっていたため、恨まれていたのはわたくしだけなのかもしれない。
「今後、わたくしが殺されず、ハルモニアも監禁されずに生きていくにはどうすれば良いのかしら。」
今日は父と母の葬儀。
前回、この日に初めてあの3人と顔を合わせたのだ。
キキ公爵家は広い。離宮も多いため顔を合わせたことがなく、一家の主が亡くなった葬儀で初めて顔を合わせたのだ。
初めて顔を合わせた際に、ジョシュアに憎々しげな目で葬儀の間ずっとにらまれたのだ。
(だからわたくしはひどく恨まれていると思ったのよね・・・。)
3人の中で、特にジョシュアは公爵家の見た目の特徴を強く引き継いでおり、後継者筆頭とされていた。
しかし、父からはひどい虐待を受けていた。
それも、キキ公爵家は帝国の暗部を一手に引き受けており戦争から暗殺、殺しに関してはすべて担っているため、幼いころからひどい環境で育てることで耐性をつけるのだ。
「まず初顔合わせでは、ハルモニアに目がいかないよう隠さなければいけない。そのあとのことは葬儀の後に考えましょう。」
わたくしはこの国の喪服である黒いドレスと黒いベールをつけ、前回の人生を繰り返さないよう決意をした。