令嬢は人生を繰り返す
首を切られる瞬間に目を閉じ、いつまでたっても来ない痛みに疑問を感じ、目を開けると自分の部屋だった。
正しくはかつてお母様が死ぬまで、お母様と弟と共に暮らしていた紅玉宮の自室であった。
わたくしはベットから下り、ふらふらと覚束ない足取りで鏡の前に行く。
鏡に映っていたのは、血で血を洗う後継者争いをする前のわたくし、リリエンタ・エリス・キキであった。
「お嬢様、本日は公爵様とお嬢様の母君であるエリス様の葬儀でございます。」
呆然と鏡の前にいたわたくしは、いつの間にか部屋に入ってきていたメイドに見た目を整えさせられていた。
鏡を見て思ったのは、死ぬ直前の自分ではないこと。髪の毛はきれいに整えられ、争いに疲弊したやつれた顔をしていない、おかしくなってしまった自分ではなかった。
そして先ほどのメイドの言葉から、わたくしは死ぬ1年前、お父様とお母様が亡くなった19歳の自分に戻っていたことに気づいた。
メイドはわたくしの母譲りのピンクに近いプラチナブロンドをシニヨンにし、父譲りの夜空を閉じ込めたような色の瞳を映えさせるように化粧を施していく。
(こうやって人の手で髪を整え、化粧をするなんて本当に久しぶりね。)
父と母が亡くなり後継者争いをするようになってから、自分の身の回りの世話をするものを信じることができなくなり、自分の身の回りは自分でやるようになった。
どこにあの3人の手下が紛れ込み、わたくしとかわいいハルモニアの命を狙うともわからないからだ。
そのおかげで満足に顔や髪を整えることができなくなった。
そのことに、自分がどれだけ恵まれた環境で育っていたのか、痛感した。
準備が終わり、メイドが出ていくとわたくしはこの状況を整理する。
「わたくしは一体どうして、1年前に戻ってしまったのかしら。」
目を覚ました際は混乱していたし、時が巻き戻ったと信じることができなかった。
しかし、メイドを見て確信した。
わたくしの身を整えていたメイドは皆、以前信用することができずわたくしが処刑した。
いるはずがないのだ、この世に。
そして、母と父の葬儀と言う言葉。
わたくしは死ぬ1年前に戻ったと理解した。
わたくしが悶々と考えてるとバンっと大きな音を立てて扉が開かれる。
「姉さん!!」
その声にわたくしはゆっくりと入口の方に顔を向ける。
「ハルモニア・・・。」
入口にいたのはわたくしの同腹の弟、ハルモニアだった。
わたくしはハルモニアを視認すると椅子から勢いよく立ち上がりハルモニアを胸に抱きしめる。
「ああ、ハルモニア・・・。わたくしの愛しい弟。」
胸元にある母譲りの明るい桃色の髪にわたくしは顔をうずめる。
無事に生きている。あの執着心の強い3人にとらえられず、明るく可愛い弟が生きている。
するとハルモニアは私を押し返し顔を真っ赤にして怒る。
「なにすんだよ!!もう!葬儀に送れるんだから早く来てよ!!」
そういうと走ってわたくしの部屋を出ていった。
「あの子のあんな表情のある顔をみるのも本当に久しぶりね。」
焦ったように走っていくかわいい姿にわたくしは思わず笑みがこぼれる。
昔と変わらず生意気な姿。
面倒みが良く愛らしい弟。
あの愛しい弟は必ずわたくしが守らなければいけない。