前編 嘘っぱちの「年金制度100年安心」
筆者:
本日は当エッセイを選んでいただき誠に光栄です。
今回は5年に1回行われる社会保障の財政検討について考察し、
「厚生年金の元を取ることが大変」であることや「今後の展望」について見ていこうと思います。
◇社会保障の財政検討は「増税の前触れ」
質問者:
この社会保障の財政検討とやらはどれぐらい大事なことなんですか?
筆者:
若い方からしてみれば社会保障は病院に行く回数も少なく、年金を貰えるのも縁遠いことのように思えるかもしれませんが、
国家予算規模で見て見れば予算の方で35兆円、特別会計の社会保障給付金で78兆円と今国の中で使われている予算でもっとも使われているものと言っても過言ではありません。
そう言う状況でありながら、現役世代は少子高齢化によって増え続け、
高齢者は当面の間横ばいが予測されています。
この赤字分の補填のために増税やら社会保険料ステルス増税などがなされていることを考えますと、 社会保険についての財政検討ということは「将来の増税」を示すものなのです。
具体的には前回の2019年財政検討の直後には消費税が10%に上がりましたし、前々回の2014年の前には8%に上がりました。
この前後に「大増税がやってくる予兆」と言ってもいいわけです。
しかも今回の案は2004年の「100年安心プラン」が示していた20年を丁度経過したタイミングで出されるものです。
今後の日本の「増税プラン」「年金削減プラン」を如実に示していると言えるわけです。
質問者:
そんなに重大な会議とは知りませんでした……。
◇ベースにある2004年案で提示された「偽社会保障100年安心」
筆者:
今回の改定案の前に、ベースとして今の制度に存在している2004年の年金改革の内容について見ていこうと思います。
1
2004年から2022年の間に、厚生年金の保険料率を13.9%から18.3% まで31.7%の金額分引き上げる。
国民年金の保険料を1万3580円から1万6980円まで25%引き上げる。
2
給付を徐々に切り下げる。そのための手段として「マクロ経済スライド」が導入された。これは、既裁定年金を、毎年0.9%程度減額する。
3
以上の措置を20年間続けて、2023年に終了する。
1と2を20年行う事でその後は保険料引き上げやマクロ経済スライドを行わなくても、所得代替率が50%を下回らない年金を100年以上にわたって継続できることになっていた。
と、簡単に言うとこの3つが書かれていました。
まぁ、2004年当時においての「実質増税案」ということですね(笑)。
質問者:
かなり厳しい内容のような気がしますが「100年続くなら……」という事で日本国民の皆さんは納得したという事でしょうか?
筆者:
この改革についての世間の反応は、まだ僕は政治に関心がある年齢になっていなかったので記憶になく、大人の人たちの体感は分かりませんがそういう事だと思います。
この内容でも酷いものだと思うのですが、いよいよ2004年時点から20年が経過し、「これでも足りなかった」という事を如実に意味しているわけです。
何せ、2012年の消費増税10%に増税することが決まったのも「社会保障のため」と銘打って行われたわけですから、10年もしない時点でこのプランは崩壊していたわけです。
100年からしてみれば期間は10分の1で破綻しましたね(笑)。
この「100年安心」の「試算」が全くの嘘八百だったことを示しているわけです。
その上でさらに新たなる「増税プラン」を打ち出そうとしているわけです。
質問者:
この20年で平均寿命かなり伸びたから計算が狂ったとかそういうことは無いんですか?
筆者:
この試算をした
平成16年の平均寿命は男性が78.64歳、女性が85.59歳、
消費税を増税した
平成26年の平均寿命は男性80.50歳、女性が86.83歳、
昨年令和5年平均寿命は男性81.05歳、女性が87.09歳となっています。
正直なところ2歳前後の平均寿命の伸びの差で消費増税をやったり今回の見直しを大きく行うほど計算が大きく狂うとかセンスが無さすぎます。
東大などを出た高学歴の官僚が作った資料の筈ですからそこまで試算が狂う事は無いと思うんです。
つまり、20年前の「100年安心」の試算というのは当時の人々を無理やり納得させるための完全なる「嘘吐きだった」と言って良いと思います
質問者:
つまり、実質的な増税は今後も5年おきに行われてしまう可能性が高いという事ですか……。
筆者:
今回はしかも2004年から目標にしていた2024年なので、
いかにこの社会保険の財政検討が重要なモノであるか改めてご理解いただけたと思います。
◇今回の案の酷さ
質問者:
ここまでの時点で、凄く怖いんですけど。
今回は、具体的にはどういう内容が示されていたのでしょうか……。
筆者:
今回の会議で検討されたのは、
1 被用者の厚生年金保険の更なる適用拡大
2022年には、対象企業の規模を「従業員501人以上」から「101人以上」に拡大。今年10月からは「51人以上」にすることで加入者を100万人増やす。
2 基礎年金の拠出期間を5年延長、それに伴う給付増額
3 マクロ経済スライドの調整期間の一致
4 65歳以降の賃金に応じて厚生年金が減る「在職老齢年金制度」の見直し
5 高所得者の保険料の上限引き上げ―の改革項目の効果や影響
の5項目ですね。
1と2はちょっと単純には語りつくせないことから中編に回すとして、
ここでは3、4、5について解説していこうと思います。
簡単に言えば「複合的に見た場合、実質増税」と言ってもいい内容だと思います。
質問者:
まず、3の「マクロ経済スライド」ってよく分からないんですけど……。
筆者:
非常に簡単に言うのならば、
変化する社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び、物価高)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する(下げる)仕組みを難しく言ったに過ぎません。
しかしながら、想定したよりもマクロ経済スライドは発動しませんでした。
(20年で計4回のみ)
流石に高齢者に対して不満が溜まると票につながらないと考えたからでしょう。
2004年の財政検討の中では実行しきれなくて唯一良かったことです。
しかし、今回の見直しによって簡単に言えば、「本来の目標としていた支給額ライン」にするためにマクロ経済スライドを発動しやすくする又は1回あたりのスライド発動で大きく年金給付額を下げるという事です。
質問者:
なるほど、年金受給者としてはたまらないですね……。
筆者:
次に4の在職老齢年金とは何かと言いますと、65歳以上で働いている際に、
現状では年金と給与の金額が47万円未満の場合にはそこまで年金が減らないという制度でした(47万未満は支給割合8割、47万円以上は賃金の増加2に対し年金を1停止)。
しかし、今回の検討においては60歳台前半と同じように厚生年金受給額が大幅に減ってしまうという恐ろしい案なのです。
(現在60歳前半の支給割合は働くごとに8割支給から2割支給の7段階に設定)
エッセイの中編でも紹介しますが、厚生年金は労使折半で本来給料として貰える分を会社負担という事にして国に納めているわけで、厚生年金負担は実は思ったよりも大きいにもかかわらず、働けば削られるという有様なのです。
質問者:
年金の全体額すらもマクロ経済スライドで削られていき、働かざるを得ない中、さらに削られるという事ですか……。
筆者:
単純に言ってしまえばそうなります。
毎度高齢者福祉の削減の話になるたびに僕は全力で反対しています。
と言うのも、人は誰しも年を取っていずれは年金受給者になるのです。
現在の世代間格差の是正を容認することは将来自分が高齢者になった時に是正する(つまり年金が下げられる)ことを容認することを意味します。
そして将来の不安という事になれば、日本人は極めて真面目ですから子供を作るのを減らしてでも貯金をしようと言う発想になっていくと思います。
老後年金政策の向上は少子化対策にもなると僕は確信しています。
質問者:
現在より30年後や50年後はさらに生産年齢人口が減っているでしょうからまた年金削減、社会保障費増額と言う話になっているでしょうからね……。
筆者:
そもそも現在の全国共通の基礎年金制度が出来た1985年の時点で、出生率が1.76と人口自然増の2を割っており、将来の人口減は予測されていました。
この85年の時点でシステムは破綻しており、
世代間格差を無くすために年金額を下げるのではなく、
恒久的に物価高変動を加味して同額にしつつ、現役世代の負担もそのままと言う制度を構築する必要があると思います。
いっそのこと任意加入にして保険料を支払わない分、銀行に入れるか投資した方がマシでしょうね。
とにかくシステムを無意味に延命させる処置は取らずに根本からやり直すことを考えた方が良いでしょうね。
中編では会社の正社員と、最近は非正規雇用にも拡充されようとしている厚生年金加入が「実質的増税」であることについて述べていこうと思います。