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第2話 狼少女と転校の理由

 昼休み。生徒は皆仲のいいグループで集まって、お昼を取っている。

 対してアタシは、クラスでの印象が最悪になってしまったため、声を掛けてくる人なんているはずもない。

 仕方なく昼食の入ったバスケットを片手に、食べる場所を探して校内をうろついていた。


 教室で食べてもいいけどさ。人狼が珍しいのか遠巻きにジロジロ見てくる奴が、結構いるんだよな。

 昼飯くらいゆっくり食べたいから、こうして出て来たわけだけど。

 よく考えたら転校してきたばかりの学校なんだもの。どこに何があるかなんて分からずに、あちこちさ迷うばかり。

 校舎は4階建てで庭も広いのだから、一人になれる場所くらいあるだろうけど、そう簡単には見つからない。

 そしてさ迷っている間にも。


「うわっ、人狼がいる」


 すれ違った生徒に、そんなリアクションをされる。

 だーかーらー、見せ物じゃねーって!


 だけど歩き続けて、ようやく人気の無い場所を発見した。

 そこは校舎の外。正門とは逆の位置にある、裏庭だった。

 誰もいないけど芝生は手入れされていて、ここなら落ち着けそう。森の学校にいた頃は外で食べることも多かったし、もってこいだ。


 ようやく昼飯にありつける。

 校舎の壁を背に座り、持っていたバスケットから取り出したのは、ライスを三角に固めた東の国の料理、『おにぎり』。マイナーな料理だけど、アタシの大好物だ。

 だけど、かぶりつこうと大口を開けたその時。


 ガサッ。


 ん、何やら物音が。

 目を向けるとそこには、紙袋を持った黒髪の男子生徒の姿があった。


「先客がいたか」


 アタシを見て、ポツリと漏らす男子生徒。

 って、ちょっと待て。コイツには見覚えがある。さっき教室でアタシとエミリィのケンカを止めてくれた、あの男じゃないか。


「お前、えーと……そうだハイジだ!」

「誰がハイジだ。ハイネ・マスカルだ」


 あ、ハイネだったっけ。

 それに名字があるってことは、コイツも貴族なのだろう。


「悪い、ハイネだな。それよりひょっとしてここって、お前の縄張りだったのか?」

「縄張り? いや、そういうわけじゃない。いつもここで、昼を食べてるだけだ」


 いや、それって立派な縄張りじゃん。てっきり誰も来ないって思ってたのに勝手に場所取っちゃって、悪い事しちゃったか?


「ごめん、すぐに移動すから」

「いいよ。先に来てたのはそっちだろ」

「そういうわけにはいかねーって。他人の縄張りは荒らさないってのが、狼の掟なんだから」


 ハイネは行こうとしたけど、アタシにだって譲れないものはある。

 するとハイネは、面倒くさそうにため息をついた。


「だったら、二人ともここで食べるじゃダメか?」

「え、いいのか?」

「当たり前だろ。さっきも言った通り、別に俺の縄張りってわけじゃないんだから」


 ハイネは少し離れた所に腰を下ろすと、紙袋からパンを取り出す。

 なんか一緒に食うみたいになっちまったけど、いいのかな?


「あ、そうだ。さっきはありがとな、ケンカ止めてくれて」

「別にいいさ。けどお前、喋る時はもっと考えた方がいいぞ。思ったことをそのまま口にすると、余計な敵を作るからな」

「それくらい分かってるよ。けどアレは、どうしても言っとかなきゃいけなかったんだよ。キツイ香水の匂いプンプンさせてるやつと一緒にいるのは、マジで無理なんだから」


 アタシも、きつい言い方になったとは思うけどさ。変にオブラートに包むよりも、ハッキリ言った方が良いって思ったわけよ。

 まあそのせいで、ケンカになっちまったわけだけど。


「香水ねえ。人狼は鼻が効くって聞いたことあるけど、よすぎるのも考えものだな」

「つーか、あのエミリィってやつ以外にも、香水つけてる奴多すぎ。森ではいてもせいぜい、ちょっと花の香りをさせるくらいだったのにー! 町の学校の女子って、香水つけまくっているのかよ?」

「たぶん、そうなんじゃないのか。つーかお前、そんなに匂いが苦手なら、どうしてうちの学校に来たんだ?」


 不思議そうに言われて、アタシは返事に困る。

 それを聞くか。


「……会いたい奴がいたからだよ」

「会いたい奴?」

「ああ、そうだ。スゲー会いたい奴が、この学校にいるんだよ」


 ただ会いたいだけじゃない。ずっと側にいたいって思う、大好きな奴が。

 正直、人間の学校に通うのには抵抗がなかったわけじゃないけど、それでもここに来れば、アイツに会うことができる。そう思ったからこそ、わざわざ転校までしてきたんだ。


 まあ傍から見れば、そんな理由でって思われるかもしれないけど。


「なるほど、会いたい奴ね」

「なんだ? そんなアホな理由で入ってくるなんて、おかしな奴だって思ったか?」

「いや。まあおかしな奴とは思ったけど」


 おいっ、おかしいは否定しないのか!


「けど、別にいいんじゃないか。何をどうしようが、お前の自由なんだし」

「お、おう」


 まさかこんな風に言われるとは思ってなかったから、返事に困ってしまう。

 なんだ。今朝からずっと好奇の目で見られていたからついピリピリしてたけど、話せる奴いるじゃん。


「……さすが先輩だな」


 ん、ハイネが何かつぶやいたような? 

 けど話はもう終わったと言わんばかりに、こっちを見ずにパンをかじっている。

 まあいいか。アタシもさっさと、昼飯をすませてしまおう。


 さっきよりも少しだけいい気持ちで、おにぎりにかぶりつくのだった。

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