変身 1
小林邦子は大学を今年卒業して
入社した新人である。
身長165cm、細身で
度のキツイメガネをしている
図書館にいそうな雰囲気だ。
中学生、高校生、大学生と
親友と呼べる友人もおらず
目立たないタイプ
1人ボッチでいる事が多く
自分から声をかけたり
輪の中に積極的に
入っていくタイプではなかった。
別に1人でいても困らないし
ムリに他人に合わせる必要もない
そう思って学生生活を
送ってきたが
就職するとなると話は別だ。
人と話さないで働ける会社
そう思ってIT系の会社に
就職活動をしたが全滅
事務職で入れる資格も
持っていない。
人と毎日、顔を合わせる
接客業などはムリで
営業は絶対に出来ないので
残っている選択肢は
機械の保守点検がメインの
SE職だが
受ける会社、受ける会社
ことごとく面接で敗退
唯一、内定が出たのが
コピーとプリンターの
複合機をメンテナンスする
立花が働いている会社だけだった。
他社の面接担当者の採用試験の
判断は正しくて
小林邦子は同期入社の中で
ぶっちぎりのダメ社員だった。
新人が1人立ち、するまでは
先輩社員がインストラクターになり
指導教育を担当するのだが
小林の担当だった先輩社員が
入院してしまい
彼女が原因だという噂が
社内で広がっている。
実際は彼女が原因ではなく
ヘルニアの手術を受ける為だったが
そんな噂をみんな
信じるほど
小林のダメさは
有名だった。
その噂に拍車をかけたのが
先日、起こした
お客様企業のハ-ドディスクを
消してしまった事件。
これが決定的となり
本来の指導担当者が
入院してしまい
代理のインストラクターを
決めないと、いけないのだが
誰も引き受けてくれる
人物が現れず
『悪いが立花に面倒を
見てもらおうと思った
次第なんだ』と
藤波係長が言ってきた。
『別に良いですよ』
立花は、すんなりと
引き受けてくれたのである。
『良かったよ、立花に断られたら
誰も指導担当者がつかない』
『最悪な事も考えていたんだよ』と
藤波係長が安堵の表情を
浮かべた。
『指導担当者はいつからですか?』
立花が、そう質問すると
『今からだ』と
係長が答えてきた。
『早くないですか?』
『普通、引き継ぎ期間とか
あるんじゃないですか?』
立花がそう言うが
藤波係長は
『そういうのは今回はナシで』
『立花の仕事を見せて
仕事の雰囲気を覚えて貰う』
『それが重要だから』
『指導方法や行動計画も
立花に任せるから』
そう言って
立花の肩を軽く叩いて
あとは、ヨロシク的に
会議室から
出て行ってしまった。
藤波係長はたまに
がさつな時がある。
しょうがないな。
そう思ってフロアに戻って
小林の机に向かい
彼女に声を掛ける。
『小林、今日から俺が
指導員だからヨロシクな?』
そう話し掛けたが
『はぁ』と
小林は元気なく答えてきた。
『どうした?』
『何処か調子でも悪いか?』
そう立花が確認すると
『本当に、ご迷惑をお掛けして
すいません』
『私なんかの指導員を
本当は立花さんもしたく
ありませんよね?』
そう伏目がちに
彼女が言ってきた
ここで話す雰囲気じゃないな
そう感じた立花は
彼女を会社の外に連れ出す。
『立花さん、ご自分の仕事は
宜しいんですか?』
彼女が心配そうに聞いてきたが
『お前の教育方針は
俺に一任されたから
気にするな』と
笑顔で答える。
会社近くのドトールに入って
コ-ヒ-を彼女の分も買って
2人して席に着いた。
そして立花は
『さっきは、なんで
自分の指導員を俺が嫌がって
いると思ったんだ?』
そう小林に質問すると
『この前、立花さんが私の
失敗を助けて下さった後』
『会社に戻った後に係長が
誰もヘルプに行きたがらなかった』
『でも、立花さんだけは
立候補してくれた』
『そう聞いた時に
ここにも私の居場所は無いんだな』
『そう思ったんです』
深刻な雰囲気な小林に
『良かったら詳しく教えてくれる?』と
立花が聞くと
最初は戸惑っていた彼女も
『立花さんなら』と言って
ディ-プな学生生活を
吐露し始めた。
『修学旅行の班決めなんて
公開処刑でした』
『みんな仲良しグループになるけど
私は友達がいなかったから』
『最後まで1人ボッチで
人数が足りなかった人達の班に
入る事になったんですけど』
『そうしたら、その班の子が
泣き出したんです』
『せっかくの修学旅行なのに
なんで自分達が
私を引き取らないと
いけないんだ、って』
『担任の先生も、ひどいんです』
『我慢してくれ、って』
『私の存在って我慢なんだ』
『だから中学、高校と
修学旅行は休みました』
『大学の時はゼミで1人で
気楽でしたよ』
『だから会社に入った時に
自分がお荷物だって分かってから』
『みなさんが離れていくのは
肌で感じて分かっていました』
その話を聞いた立花は
『さっき事情を聞いた時に
最初は迷っていたけど』
『俺ならって、喋ってくれたのは
何故なんだ?』
そう聞かれた小林は
『この会社にも居場所がないと
思っていたら』
『先輩社員に人と関わりを
一切持たない』
『ロボットみたいな人がいるって
噂を聞いていて』
『入社して、すぐに立花さんは
認識していました』
そう説明してきた。
『最近の立花さんは陰キャから
陽キャに変わった感じですよね?』
『最初は本当に人と関わり合いを
持たない雰囲気だったですけど』
『私のトラブルに助けに
来てくれたり』
『指導員も引き受けてくれたり
イメージが変わったんですけど』
『何か心境の変化でも
合ったんですか?』と
質問をしてくる。
『陽気キャラになったつもりは
ないけど』
『一番影響を受けたのは
彼女の存在かな?』と
立花が言うと
『出た、バ-バラさんですか?』と
小林が突っ込んできた。
困ったもんだ。
女神が聞いたら激怒しそうだ。
『バ-バラじゃないよ』
『まぁ名前は秘密だけどね』
そう立花が言うと
『写真を見せて下さいよ』と
立花にお願いしてくる。
あれ?
結構フランクに話してるじゃないか?
立花は彼女をコミュ症気味と
思っていたが
そうでもないんじゃ、ないか?と
思い始めている。
『写真は見せられないよ』と
立花が笑って誤魔化そうとするが
『見せて下さいよ』と
ネバってきた。
そのやり取りで
『今、俺と話をしている感じで
会社で話せば』
『みんなと上手く付き合って
いけるんじゃないか?』と
立花が言うが
『絶対ムリです』と
秒で却下してくる。
『何でだよ?』
立花が困った感じで小林に
文句を言うと
『会社の人は、みんな敵って感じです』と
訳の分からない事を言ってきた。
『敵?』
そう聞かれた小林は
『最初に話した時に、この人は
自分に友好的か否かって
分かるじゃないですか?』と
同意を求めてくるが
立花にはイマイチ分からない。
『じゃあ俺は味方か?』
立花が、そう聞くと
『そうです』
『あの会社で味方と認められるのは
立花さん位です』と
会社の他の人には
聞かせられない事を彼女は
平然と言ってくる。
彼女自身のバックボーンと
問題点は少しずつ理解出来た。
もう少し様子を見ながら
色々と考えてみようと
立花は考えて
彼女を自分の仕事現場に
連れ出す事にする。
現場での彼女は
立花の仕事を横で見ながら
しっかりとメモをして
真面目に見学をしていた。
やる気はある。
空回りをして
パニックになるだけで
不真面目ではないと思った
立花は
昼休みに食堂で
ランチを食べながら
更に小林に質問をしてみた。
趣味は何か?
休日は何をしているのか?
家族構成や自宅の場所
通勤時間や普段聞く音楽の趣味
すると全てペラペラと
喋ってきて
嬉しそうに
全ての質問に答えて
笑顔をすら見せていた。
中学生の頃から1人だったので
ライトノベルを読み漁って
自称恋愛マスターだと言っており
頭の中では2人の彼氏がいて
悪い事をする小林を
たしなめたり
慰めてくれている、と言った
多少、痛い話も披露する。
『小林って、コッチから質問して
話し掛けると』
『饒舌に喋るんだな?』
立花に、そう言われた彼女は
『小説を、たくさん読んできたので
会話のキャッチボールは得意です』
『自分から、話し掛けるのが
少し怖いだけです』
そう自信なさげに説明をする。
『大丈夫だよ、さっきの俺みたいに
好きな音楽は何?とか聞けば
良いんじゃない?』
立花がそう言ったが
『私も学生時代に何度か
話し掛ける事に挑戦したんです』
『でも、チラッと私を見た後
何事もなかったように
会話を再開したり
無視された事が続いて』
『怖くなって
自分から話し掛けるのを
ヤメたんです』と
過去の苦い経験を告白してくる。
話し掛けて貰えるキャラに
変われば
小林も自信に繋がり
仕事をしている時にも
余裕が出来るのでは?と
小林の改造計画のシナリオが
ぼんやりと見えてきた。
午後からも立花に同行して
企業回りをしていた時に
『次の訪問先では
小林がメンテナンスを
やってみるか?』と
立花に言われて
『ダメです、ダメです』
『この前みたいに、私がやったら
何か壊しちゃうかもしれないし』
『私、壊した時に弁償する
お金なんて、ありません』と
慌てふためいている。
『今回は、俺が最初から
横にいるから安心して良いよ』
『それに何かを壊しても
お前が弁償する事はなく』
『会社が相手企業に補償なりを
するから』と説明すると
信じられない、と言った顔をして
『弁償出来ないなら
遠洋漁業のマグロ船に
無理矢理乗せられる、とか』
『自分の内臓を売って
弁償するとか?
そういうのは無いんですか?』と
間違った認識を立花に
ぶつけてきた。
すると立花は笑いながら
『小説の読み過ぎだよ』と
言った後に
『会社に所属している社員が
業務中に損害を発生させたら』
『会社が責任を取ってくれるから
安心しろよ』と
説明をする。
『怖い社長が出てきて
身体で払って貰おうか?的な
やつも無いですか?』と
小説でも最近は聞かない
事も質問してきた。
『そんな事を言ったら
セクハラで訴えられるだろ?』と
立花が笑って答えた時に
『良かった、私処女だから』
『そんな初体験イヤだな、と
ず-っと思っていて』と
とんでもない事をポロッと
言っている。
そこは突っ込む所か?
立花は迷っていたが
聞こえないフリをして
愛想笑いをして
訪問先の企業へと向かったのであった。




