初夜 1
『どちら様ですか?』
立花の部屋のドアを開けて
若い女性がいきなり入ってきた。
驚きつつも冷静に
相手に確認する女神に
『立花さんと同じ会社で
働いてる蝶野と申します』と
一礼をして彼女は自己紹介をする。
一瞬で蝶野はわかった。
この子が立花さんの彼女だ。
以前、街で見たス-パ-モデルに
なれそうな美人女性と
同レベルと言っていたのは
ウソでも冗談でもなかった。
可愛い女の子と呼ぶには
レベルが違いすぎる。
クラスで1番や
学年で1番可愛いレベルではなく
その地区の学校全ての中で
1番可愛い女の子になるだろう。
存在感や透明感が違いすぎて
オ-ラが出ている感じすらする。
『いつも立花が、お世話に
なっています』
『絵色と申します』と
女神も一礼した後に
『すいません、後輩さんの
仕事の手伝いで残業していて』
『まだ帰って来ていないんです』
そう説明を受けた蝶野は
彼女に、ちゃんと報告して
家で週末に待っているなんて
絶対に別れる気なんて無いじゃん
もうすぐ別れると勝手に
思い込んでいた
自分が恥ずかしくなっていた。
放心状態に近かった蝶野だが
『私も、その件で心配だったんで
偶然近くに来たから』
『寄ってみたんです』と
かろうじて説明をする。
『もうすぐ帰ってくると
思いますから良かったら
上がって待ってられますか?』
女神に、そう言われた蝶野だが
『結構です』
『私は失礼します』と言って
玄関のドアを閉めようとすると
『いつでも、いらして下さいね』と
言って
それ以上、女神も引き止めなかった。
蝶野は気付いていなかったが
彼女の顔面は蒼白だった。
それに気付いた女神は
彼女が先日、立花と
ご飯を食べに行った
女性だと思った。
だから、あえて
蝶野を威圧するような
言い回しをして
追い返したのである。
立花のアパートを出た蝶野は
フラフラだった。
藤波係長に怒られた事が
ショックだったので
立花に慰めてもらおうと
アパートに来てみたが
正妻である彼女と鉢合わせを
してしまった上に
女神の美しさを知って
完敗を実感してしまった。
女としての賞味期限切れを
半分心配していたが
年齢でも、容姿でも
太刀打ちが出来ない。
20歳くらい?
それで、あの可愛いさ?
何処で知り合ったの?
その時に先週会った
ス-パ-美人が言っていた
言葉が頭に思い出された。
『副社長』
冴えない会社員だと
最初は思っていた
立花だが少しずつ
見えてきた秘密の部分
取得困難な国家資格を持っていて
彼女はス-パ-美少女
副社長の肩書きを持つ男
その辺りを日曜日に
全て確認してから
立花を諦めるか、を決める。
そう誓って自宅へと帰る
蝶野であった。
蝶野正子を追い払った直後
女神の元に
『今、残業が終わりました』
『自由が丘には何時に着くかな?』と
立花からのLINEが入ったので
『もう立花さんの部屋にいます』と
女神が返すと
『ゴメン、急いで帰ります』と
立花から返信が入る。
『お家で待ってますから
急がないでも大丈夫ですよ』と
女神が返すが
30分もしない内に立花は
汗だくでアパートに到着した。
『ゴメン待たせて』
そう言った立花に
『おかえりなさい』と言って
女神が抱きついてくる。
『汗クサイぞ』
駅からダッシュで帰って来た立花は
額からも汗が流れていたので
そう言ったが
『全然クサくないです』
『8日間も会えなかったんだから
もっと甘えさせてください』と
言って
立花の胸に自分の顔を
押し付けて鼻をクンクンさせていた。
『とりあえず上がって良いか?』
そう言った立花の言葉に
『ごめんなさい』と言って
女神が離れて
立花も家に上がる事が出来た。
『晩御飯は食べた?』
立花に聞かれた女神は
『スタジオから急いで来たから
まだ何も食べてません』と
言った後に
『そうだ、聞いて下さいよ』と言って
このアパートに来るまでの事を
身振り手振りを交えて
女神が説明をし始めた。
マネージャーさんに駅まで
送って貰って地下鉄に乗ったら
変装していたのに
社内の人に気付かれたようで
ジロジロ見られたり
ヒソヒソ、コッチを見て
話したりされた後に
『絵色女神さんですよね?』って
聞かれて
握手を求められたり、
サインを頼まれたり
写真を一緒に撮らせて欲しいと
お願いされたりして
大変だった、との事だ。
野球キャップに大きなマスクで
いつもの変装だったが
コロナが流行した後は
友人と会う時もマスクありきで
世間は動いていたので
目元だけで判別がつくようで
いつもの変装も通用せずに
すぐに身元バレをしてしまった。
結果、自由が丘駅に到着しても
女子高生に取り囲まれて
歩いて、このアパートに来る事も
出来ずに
タクシーで、ココまで
来たとの事だった。
『タクシー代、持っていたのか?』
立花にそう聞かれた女神は
『お給料日が昨日だったんで
大丈夫だったんです』と
笑顔で答えてくる。
『でも、まだ CM代とか
入ってないから大変だろ?』
『タクシー代は俺が出す』と言って
財布から5000円札を出して
女神に渡そうとするが
『こんなに、かかってないし
タクシー代位、自分で払います』と
女神は受け取りを固辞する。
すると立花が
『この先、今日みたいな事が
起きた時にタクシーに乗る金が、無くて』
『トラブルに巻き込まれたら
イヤだから持っていてくれ』
『使わなくても良いから
財布の中にお守りとして
入れといてくれ』と言われ
その言葉が嬉しかった女神は
『はい』と返事をして
立花からのお金を受け取り
財布にしまった。
『そうだ、晩御飯だ』
立花が思い出して女神に
何を食べたいか?聞くと
『カレーモントレ-でも
良いですか?』と
尋ねてきた。
笑顔で快諾した立花は
すぐにピザ-ラに電話をする。
そして女神がまた思い出したように
『そう言えば、ここで立花さんを
待っていた時に』
『女の人が立花さんを訪ねてきました』
『確か蝶野さんって言ってました』
そう言われて立花はドキリとした。
蝶野がこの部屋で立花とキスを
した事を
女神に喋ったのでは?と
心配したのであった。
『何しに来たんだ?』
心の動揺を隠して立花が聞くと
『近くに用事があって寄って』
『後輩さんの仕事の心配を
していたみたいです』と
女神が説明をしたので
キスの事を話してないと思い
『あいつが後輩のヘルプを
頼まれたんだけど』
『断ったから俺が代わりに
助けに行ったんだ』
『一回、断った後に
やっぱり行くって言い出した時に』
『係長に怒られたから、
気になっていたのかもな?』と
説明して女神も納得をしている。
自由が丘のボロアパートでは
蝶野の話は、ここで終わった。
だが敗戦気分の蝶野が家に帰り
テレビを点けた時に
運命の歯車が狂い始めた。
『立花さんの彼女だ』
全時間帯にスポットを打った
女神が出演している
オリファルコン社の CMが
流れていたのである。
『何で?』
すぐに蝶野はスマホで検索を始めた。
絵色女神
権太坂36の新メンバー
蝶野正子は驚いた。
『17歳』
立花さんの家に泊まったら
犯罪じゃない?
蝶野正子に女神の正体がバレた
その事を知らず、立花と女神は
仲良くピザを食べていたのである。




