ライバル2人
『ピンポ-ン』
ベッドに行こうとした2人を
邪魔するようにチャイムが鳴った。
『誰だ?』
立花も心当たりがないようで
不審がっている。
ダメ-ジが大きいのは蝶野正子である。
立花のアパートで、後一歩のところで
邪魔が入るのは2度目であった。
『ピンポ-ン』
ドアの向こうの人物は帰るつもりが
ないようなので
立花がドアの前まで近づき
『どちら様ですか?』と
尋ねると
『夜分にすいません、藤波です』と
名乗ってきた。
藤波係長?
立花と蝶野は顔を見合わせているが
2人ともビックリした顔である。
服は着ているし、問題は無いと考えた
立花がドアを開けると
『家まで押し掛けて、すまないね』と
藤波係長が玄関前に立っていた。
藤波係長は喋りながらだが目線は玄関の
靴にいき、女性のヒ-ルを見つけて
立花の後ろの部屋に視線を送ると
部下である蝶野正子がそこに
居るではないか
『何で蝶野がいる?』と
ビックリした藤波係長が質問すると
カバンから国家資格の本を取り出して
『立花さんに分からないトコロを
聞きたくて、お邪魔してました』と
やましい事など無いと
理路整然に説明をしてくる。
『そうなのか?』
立花に確認すると
『応用情報技術者とシステム監査技術者を
取りたいらしくて』
『最近、アドバイスを始めたところです』と
もっともらしい説明を聞いた藤波係長は
『そうか』と納得するしかない。
『それこそ、藤波係長こそ何で
俺の家を知っているんですか?』と
聞かれて
『それはだな』と動揺しながらも
『家に帰ったら、立花のシャツが
私のカバンに紛れていて』
『会社じゃ、渡せないから社員経歴書を
見て、調べて来たんだ』と
オドオドしながらも
理由があって訪問した事を説明したが
『何で、藤波係長のカバンに
立花さんのシャツが入っているんですか?』
『あ〜〜』
『同じ部屋に泊まったからですよね?』と
蝶野が騒ぎ出した。
すると藤波係長が
『喋ったのか?』と
同部屋宿泊は秘密と言う協定を
立花が破ったと思い確認すると
『何も喋っていません』と
立花が答えて
藤波係長が自滅した事を証明する。
立花に聞いた時と藤波係長に聞いた時で
2人のリアクションに大きな違いがあった。
立花には単刀直入に藤波係長と
エッチしたか?を聞いて
何も無いと答えてきた。
立花を最近よく見ているので分かるが
ウソではないだろう。
問題は藤波係長だ
食堂で質問した時に
『大丈夫だったんですか?』と
聞いた時も動揺していた。
同部屋で泊まった立花が寝ている間に
イタズラをしたんだな!と
彼女は予想する。
自分に経験があるから分かる事であった。
一方、藤波係長も昼間社内で
立花に馴れ馴れしく話している
蝶野を見て
軽くイラついていたが、家にまで
押し掛けて上がり込んでいる彼女に
怒りすら覚えている。
険悪な雰囲気を感じ取った立花が
『係長、わざわざ届けて頂き
ありがとうございました』と
シャツを受け取り、幕引きを
考えていると
『立花は、もうご飯は食べたのか?』と
問いかけてきた。
『もう牛丼弁当を食べました』と
蝶野が答えると
『毎日、そんな外食ばかりだと
カラダを壊すぞ』と
蝶野の言葉を否定するように
諭してくる。
『群馬県に行く時に話しをしていた
毎晩、外食弁当が本当なら心配で』
『私で良かったら何か栄養の
ある物を作ろうと思っていたが』
『蝶野が栄養バランスを考えた料理を
作ってくれるなら大丈夫だな?』と
言った言葉で蝶野は顔が
真っ青になっている。
蝶野はご飯も炊けない。
『係長、ありがとうございます』
『でも、冷蔵庫に何も入っていませんし
係長に食事を作って貰うのは悪いです』
『ですから大丈夫です』と
立花が辞退を申し出ると
『私が作りたいだけだから
迷惑とか思わないで貰いたい』と
切羽詰まった雰囲気で立花に
頼んできたのであった。
同じ空間に蝶野がいる。
蝶野に対しての戦線布告でもある。
すぐに蝶野が反応して
『それって職権濫用じゃないですか?』
『頼まれてもいないのに、退社後の
時間に部下の家に』
『親切の押し売りに来るのって
どうなんですか?』と
蝶野が捲し立てた。
正論だ
藤波係長は蝶野の言葉が正論過ぎて
何も言い返せないでいる。
1人の男を巡って、上司と部下の
女同士が争う、正に修羅場だった。
立花も自分の家だが逃げ出したかった。
『コンキン、コンキン』
iPhoneの木琴の着信音が自由が丘の
アパートに鳴り響く
立花のスマホに着信が入る
『あ、彼女からだ』
立花は助け舟に乗る事にした。
さっきテレビを見た感想を送った時に
『今日は24時まで寝ないから
空いた時間に電話しても大丈夫』と
女神にLINEを送っていたのだ。
『すいません、電話なんで』と言って
立花は外に出てしまった。
『仕事は終わったのか?』
立花の嬉しそうな声が薄い玄関ドアから
漏れて聞こえてきた。
彼女のいる男の家に勝手に押し掛けて
言い争っている自分は滑稽だと
蝶野は思った。
それは藤波係長も同じだった。
立花の笑い声が聞こえてくる度に
自分の存在価値を問う2人である。
3分ほどの短い時間だったが
蝶野と藤波係長に現実を分からせるのには
充分な時間であった。
『どうも、すいません』
電話を終えた立花が戻ってくると
『突然、夜に押し掛けて来て
申し訳なかった』
『これで失礼するよ』と
藤波係長が帰る事を申し出た。
それに追随するように蝶野も
『私も大丈夫です』
『遅くまで、すいませんでした』と
立花の家から帰る事を告げる。
『そうか、気をつけてな?』
そう言って2人を送り出す立花は
余計な事言うのを、よそうと思っている。
立花のアパートの敷地を出た藤波係長は
『少し飲んで行くか?』と
蝶野を誘うが
『結構です』と蝶野は断り
早歩きで藤波係長を置いて
1人で駅へと向かう。
もうすぐ別れると思っていたが彼女とは
まだ繋がっている。
係長さえ来なかったら絶対にエッチまで
いけた。
最後まで、いけなかったが成果もあった。
キスが出来たのは大きい。
エッチまでしたら、立花の中で
自分の地位は変わる?
日曜日の約束もあるし、
もう一度アタック出来る。
気持ちを切り替えて駅へと急ぐ蝶野に対して
群馬県のホテルで同部屋で泊まったのに
何も起きなかった。
アパートに行って、ご飯を作れば
見直してくれるのでは?
そんな淡い期待は蝶野がいて
実現出来なかった上に
目の前で彼女との、やり取りを
見せつけられて敗北感を味わった。
帰りに日本酒を買って帰ろうと
心に誓う藤波係長であった。




