お泊まり
『ねぇ、もう一回しようよ?』
クィーンサイズのベッドに
男と女が裸でいた。
『あぁ、』と男はめんどくさそうに
答えるがスマホを触る手は止めない。
豊洲にあるタワーマンションの3LDKが
濱口の家だ。
横にいる女性はアイドルグループを
数年前に華々しく卒業した後
1年くらいクイズ番組やバラエティで
見た後は
テレビで見る機会が減った元アイドルだ。
CM出演がしたい為に濱口に接近してきた
女性の1人だ。
濱口は約束通り、彼女のCM出演を
実現した。
CM出演時にはメインタレントの他に
サイドにギリギリ知っている
サブタレントを配置する。
スポンサーはメインタレントは
指名してくるが
オマケには興味がない。
広告代理店のディレクターの提案に
『任せるよ』と言って一任する。
その構図を知っている女性タレントは
濱口などのような
広告代理店のディレクターに媚びて
CM出演をねだってくる。
再ブレイクを期待している
元売れっ子タレントは
テレビ出演のキャスティング権を
握っているテレビ局の
プロデューサーに媚びを売った後に
広告代理店のディレクターの元に
辿り着いていく。
そこでも使用済みになると
越中美桜が参加した
情報交換会へと流れていくのだ。
今、濱口の横にいる元売れっ子も
やがて廃棄処分となるだろう。
濱口の元には面接前の元アイドルが
10人ほど順番待ちをしているからだ。
一瞬でもスポットライトを浴びた
元売れっ子タレントは
地方のTV局出演や粉まみれになる
深夜のバラエティを嫌がる。
必死な姿を他人に見せたくないので
見栄えの良いCM出演を欲しがる。
テレビの画面で笑顔をふりまく為に
何人ものプロデューサーや
ディレクターには身体を提供する。
誰の、お古か分からない女性タレントより
誰の手垢もついていない
旬のアイドルの方が良くなった濱口は
スマホで絵色女神の記事を読んでいた。
昨日の絵色女神と記者会見の日の彼女は
見た目が変わっている。
男に磨かれて、一皮むけて
良い女となった。
キスをした時の反応もスレておらず
体験人数も少ないだろう?
俺の女にしてヤル
濱口は心に誓うのであった。
場所は変わってサニーミュージック本社で
権太坂メンバーが全員揃った
ミ-ティングが開かれている。
CM撮影とラジオ出演を終えた女神は
一番最後に合流した。
運営である山田プロデューサーが
『みんな、どうだ?』
『世間が権太坂に注目している事を
肌で感じるだろう?』
『みんなに発表がある、美桜の
CM出演が決まった』
その瞬間にメンバーが
『すっげ〜』と声を上げる。
女神も自分の事のように手を叩いて喜ぶ。
『女神といい、美桜といい大活躍で』
『お前ら3期生に負けっぱなしだぞ』と
先輩達にプロデューサーがイヤミを
言った後に
『大活躍の女神は先週のCMの他に
2本のCM出演が決まりました』
その発表を聞いて歓声や悲鳴が上がったが
美桜は絶句したまま固まっている。
変態社長に身体を差し出して
やっと掴んだCM出演。
追い付いたと思ったのに更に離された。
先輩達の中心で笑顔でいる女神は
この時に美桜が鬼の形相で
睨んでいた事に気付かなかった。
すると山田プロデューサーが
『今日はメンバーの配列を変える
発表をします』と説明を始める。
権太坂36には不動のセンターと言われた
岡田チカがいた。
楽曲は全て岡田中心で作られていたが
彼女が抜けた今
昔の曲を歌う際にフォーメ-ションを
変えないと違和感がある曲が
多かったのだ。
そこで古い曲を歌う際に新センターとして
5人をセンターにする事が発表された。
メイン3人は1期生と2期生で
権太坂の人気投票ベスト3で
納得の人選だったが
残り2枠にサプライズがあった。
ここ最近の大活躍で女神が選ばれたのは
納得だったが
残りの1枠は越中美桜だった。
『え?わたし?』
選ばれた後だが美桜は半信半疑で
再確認をしている。
『美桜ちゃん良かったね』
『一緒にがんばろう!』
女神にそう言われて美桜は、
この日初めて彼女に笑顔を見せた。
『美桜は、女神に感謝しろよ?』と
山田プロデューサーが言ってくる。
『感謝?』
意味が分からない美桜は
不思議な顔をしていると
山田プロデューサーが説明を始める。
M-1優勝後の漫才師なみにテレビ出演を
している女神は
番組内で必ず聞かれる
『メンバーの中で一番仲の良い人は
誰ですか?』と聞かれると
『越中美桜ちゃんです』と
毎回、答えていたのであった。
テレビを見ていた人は
『越中美桜って、誰?』となって
彼女も検索ワ-ドで急上昇して
いたのである。
それに伴い、美桜のテレビ出演は
先週の倍になっていた。
彼女自身も不思議だった。
急にスケジュールが詰まってきて
テレビ出演やラジオ出演で
来週も休みは無くなっていたからだ。
『女神ちゃん、ありがとうね』
美桜が彼女に礼を言うが
目の焦点が合っておらず飛んでいる。
礼を言われた女神は照れた感じで
『お礼なんて、全然良いよ』
『いつも美桜ちゃんに助けて貰っているのは
コッチなんだから』
『番組で聞かれた時に、正直に美桜ちゃんが
一番仲良いって答えているだけだよ』
それを聞いた美桜の感情が
壊れそうになっている。
私は絵色女神に負けたくなくて
身体を差し出してCMを勝ち取った。
女神ちゃんは私をライバル視してない?
むしろ売れる為に応援をしてくれている。
自分は誰に勝ちたかったの?
自問自答しても分からない。
『すいません』
そう言って美桜は走って外に
出て行ってしまった。
山田プロデューサーが
『誰か見てきて?』と女性スタッフに
美桜を追いかけさせた。
5分後、美桜は笑顔で戻ってきて
何事もなかったように会議に参加した。
美桜の感情は正常に戻っていたが
彼女は今後も同じ事象に
悩まされる事になる。
この日、権太坂のメンバーは
美桜が寝不足だった事に気づいていない。
それは体調不良を感じさせない
女神の笑顔があったからだ。
今日のCM撮影が終わって以降、
立花に3通のメッセージを
送っているが
3通とも既読になっていない。
だが女神は笑顔だった。
3通送った文面は3通とも同じであった。
立花を信じる、女神が決めた事だった。
そのメッセージを送られた
相手である立花は
電車が止まった為に東京に帰れず
女性上司である藤波係長と
群馬県のビジネスホテルに
急遽、泊まる事になった。
食事の準備は無いとの事だったので
立花と藤波係長は食料品を含めて
自分の必要最低限の物をコンビニに
買いに来ている。
経費で落とせるか分からないので
各々、欲しい物を買う事となっており
立花はおにぎりや酒を買っているが
何気なく立ち寄った生活用品売場で
気になる物を発見していた。
避妊具
先日、女神が泊まった時に家に
在庫が無くて
悶々とした原因でもある。
次回の為に買っておこうと思っていたが
ついつい忘れてしまう。
買い忘れてしまう可能性があるから
とりあえず買っておくか。
そう考えてカゴに入れてレジへと
足を運ぶ。
立花がレジに並んでいるのを見て
藤波係長も遅れては、いけないと思い
急いでレジへと並んだ。
立花は酒とおにぎりを買ったんだな。
そう思いながらバ-コ-ドが商品を
読み取っている時に
ある物に目が釘付けとなる。
避妊具
え?
それを、買うって今晩使うつもり?
待って、下着がヤボったい
どうしよう?
藤波係長はパニックに陥っている。
同部屋で男女で泊まるのは台風の影響で
今回はしょうがない。
相手が立花なら、藤波係長としては
むしろウエルカムである。
だが、何も準備が出来ていない。
無駄毛の処理は大丈夫か?
生理は終わったばかりだから
オリモノは大丈夫な筈
替えの下着は、コンビニに売っていない。
立花の会計が終わって店員が藤波係長を
呼んでいるが気付かなかった。
『係長、レジの人が呼んでいますよ』
立花に、そう言われて慌て
レジへと並んだ。
買い物が終わってビショ濡れに
なりながら
ホテルへと走って戻るが
藤波係長の心はソワソワしている。
ホテルの部屋は10帖ほどにベッドと
椅子が向かい合う応接がある
質素な作りだった。
『係長、先にシャワーを浴びます?』
雨に濡れている藤波係長を気遣う
立花の言葉だったが
コンビニにいる時から頭の中が
エッチな事で占められていた彼女は
『後で入ります』と言って
立花を優先させた。
『じゃあ、俺先に入りますね』
そう言って立花は風呂が奥にある
洗面所に入って行った。
すると、すぐにシャワーの音が
聞こえてくる。
『子供じゃないんだからジタバタしない』
自分に言い聞かせるように言った
藤波係長は自分の服を全て脱いで
全裸となり
ホテルに備え付けのバスタオルで
胸を隠す形で体をタオルで巻いて
立花のいる浴室へと
入って行ったのであった。




