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棚橋と立花

棚橋が初めて立花に会ったのは

新入社員研修の時だった。


会社が採用した新人を一同に集めて

4月1日から1ケ月かけて

会社の仕組みや商品知識、社会マナーから

コンプライアンスまでを


朝から晩まで、みっちり教え込む

地獄の儀式で


大学生が天国モ-ドが終わったと思う瞬間だ。


朝から晩まで研修を一緒に受けていれば

みんな仲間意識が芽生えて仲良くなる。


ただ一人を除いて


人に馴染む事をしようとしていなかった

立花は新人の中で浮いていた。


明日が休みならストレス発散で

研修生全員で飲みに行くのだが

立花だけは参加しなかった。


当然、立花の印象は同期の中で

最悪になっていく。


暗いヤツ


陰気キャラ


同期入社50人の中で立花だけが

孤立していった。


やがて研修最終日に新人達の配属先が

発表される。


棚橋の配属先は立花と同じ支店となった。


終わった。


社会人1年生、不安や困った時に

助け合うのが同期入社の友人だ。


他の同期の

『立花ちゃんの事ヨロシクね』や

「おつかれさま」という

冷やかす声が追い打ちをかける。


支店に配属された棚橋は

同期入社はおらず自分一人が新人だと

自分に言い聞かせて

先輩社員に可愛がられるように

社内で立ち振る舞った。


先輩社員に誘われても

飲みに行く事をしなかった立花は

当然ながら、煙たがられて

会社内でも孤立していく。


そんな、ある日の金曜日

明日が休みなので

棚橋は先輩社員達と飲みに行く

約束をしていた。


だが新人だった棚橋は仕事が遅く

月曜日の朝イチに提出する資料が

完成していない。


「棚橋、もう行くぞ?」

先輩社員に声をかけられた彼は

「今いきます」と返事をしたが迷っている。


飲みを断って残業をするか?

禁止されている方法を使うか?


「もう待てないぞ」

その先輩社員の声を聞いて

棚橋は禁止されている方法を

選んでしまったのだ。


社内データーの持ち出し


メモリースティックに会社の資料を

データーコピーをして家に持ち帰り

休みの日に自宅で作業をする行為。


家に持ち帰る際にメモリースティックを

紛失してしまい

その社内データーが外部に流出してしまえば

会社に莫大な損害を与える恐れがあるので

企業では禁止となっている。


だが棚橋は

USBにメモリースティックを入れて

コピーしたものをズボンに入れてしまった


シビレを切らした先輩社員は

既に外で待っている。


待たしてはいけない


急いでパソコンを切って

机の上を片付けてオフィスを出る。


エレベーターが1階に着いた瞬間

飛び出たので

待っていた人にぶつかってしまった。


「すいません」

棚橋が謝った相手は立花だった。


仕事に慣れていない立花は毎日

残業をしている。


「大丈夫か?」

立花にそう聞かれた棚橋は

「おう、大丈夫だよ」と言って

その場から走って立ち去っていく。


俺は立花みたいにならない。


先輩達に可愛がられて

早く一人前になるんだ。


そう考えながら先輩達と合流して

居酒屋に向かって行った。


飲みの席は楽しい。


会社内では聞けないオフィスラブの話や

上司の悪口が聞けるからだ。


そんな中、気になる話で

先輩達が盛り上がっている。


「埼玉支店の奴が社内データーを

勝手に持ち出して無くした」


「会社にバレてクビになったらしい」

みんなバカな奴だと笑っている。


「それだけは、やっちゃダメ」


先輩達が大笑いしていた時に

棚橋だけは焦っていた。


研修の時に

絶対にしてはいけない行為

確かに、そう聞いていた。


無くしたからバレたんだろ?

俺は、そんな奴とは違う


そんな思いでズボンのポケットを

触ってみるが

入れたハズのメモリースティックが無い。


一気に血の気が引く


大笑いをしている円の中

棚橋だけは真っ青だ。


胸ポケットやズボンをパンパンと叩いて

探すが一向に見つからない。


棚橋の奇妙な行動に気づいた先輩が

「棚橋、何か無くしたか?」と

聞いてくるが


メモリースティックを無くしたとは

クチが裂けても言えない。


「家の鍵を無くしたみたいで」

そう誤魔化すと


「なら探してやるよ」と

先輩達も自分の周辺を探しだしてくれた。


5分ほど全員で探したが見つからず

「会社じゃないのか?」

一人の先輩の声で


棚橋もパソコンにメモリーを

挿しっぱなしでは?と

淡い期待をして

居酒屋から会社に向かう事にする。


居酒屋から会社までは10分ほどだが

飲み始めて2時間は経っていた。


急いでオフィスに行くと電気がついており

誰か一人だけ作業をしていた。


立花だった。


棚橋は立花に話しかける事もなく

急いでパソコンへ向かい

USBを確認する。


無かった。


完全に無くした、そう思った時に

さっきの先輩達の会話を思い出す。


社内デ-タ-を紛失したヤツが

クビになった。


金なら払う

誰か時間を戻してくれ


狂いそうになっている棚橋に

『こんな時間に、どうした?』と

立花が話しかけてきた。


うるせぇな、お前には関係ないよ


声には出さないが棚橋は、そう思い

イラだちながら

『ソッチこそ、こんな時間まで

何をしてんだよ?』と聞くと


『月曜日提出の資料に手間どって

今までかかっていたんだ』

『終わったから、もう帰るけど』と言って


戸締まり用の鍵を見せながら

棚橋に説明をしてくる。


立花が帰ったら、メモリーを探せない


『ちょっと待ってくれ』

『探し物があるから、帰るのを

少しだけ待ってくれないか?』と

立花に頼んでみた。


『何を探しているんだ?』

立花にそう聞かれた棚橋は返答に迷う。


事情を話して一緒に探して貰えば

見つかる可能性は増える。


だが普段からバカにしていた立花に

借りを作りたくない。


だが、そんな事を迷っている時では

なかった。


『メモリースティックを落としたみたいで

さっきから探しているんだ』


『この辺りで見なかったか?』

そう立花に聞いてみたが


『メモリーは見ていないな』と

立花も答える。


そうだよな


そう思いながら棚橋は自分の机周りや

引き出しの中を探し始めた。


その様子を見ていた立花は

『俺も探そうか?』と言って

一緒に探し始めてくれた。


30分ほど探したが見つからない。


やはり居酒屋までの道で落としたか?

誰かが拾って、社内デ-タ-が

外部流出してしまう。


棚橋は最悪のシナリオを想像して

頭を抱えていた時に

『さっきエレベーターの前で棚橋と

俺がぶつかった時』

『あの時に、ぶつかって

はずみで落ちたんじゃないか?』


立花の仮説に棚橋も目を見開いて

走って1階のエレベーター前に向かう。


床に顔が近づきそうになりながら

2人して探していると


『これじゃないか?』と

立花が何かを拾って棚橋に差し出す


『あった』


それは確かに棚橋が探し求めていた

メモリースティックだった。


疲れ果てた棚橋は、その場に

座り込んでしまい動けなくなった。


『良かったな』立花にそう言われた棚橋は


心の底から感謝して

『ありがとう』と立花にお礼を言った。


『じゃあ片付けて帰るか?』

立花がそう言った時に


棚橋が、まだ問題が解決していない事に

気付き頭を抱えている。


『まだ何か問題があるのか?』

立花がそう質問してきた時に

覚悟を決めて全てを話した。


月曜日提出の資料が終わっていない。


だが先輩達との飲みを優先する為に

メモリースティックにデ-タ-を入れて

家で日曜日に作業をしようとしていた。


そのメモリースティックを紛失して

青くなって、やっと見つけた。


もう怖くてメモリースティックは

社外に持ち出せない。


必然的に月曜日に仕事は間に合わなくなる。


捜索に時間がかかってしまい

時計はすでに23時をまわっていた。


クビは免れたが、怒られるだろう?

新人社員で仕事に穴を空けるなんて

前代未聞の事だろう。


そう考えて困っていた棚橋に

『俺で良かったら、手伝うけど』と

立花が手差し伸べてくれたのだ。


『今からだぞ?』

棚橋が立花に確認するが


『2人で作業すれば半分の時間で

終わるだろう?』と

立花は言ってくれた。


陰気キャラと1番からかっていたのは

自分だった。


徹夜になる事を覚悟で手伝ってくれる

良い奴じゃないか。


『ありがとうございます』


棚橋は涙ながらに立花に頭を下げた。


『敬語は、よせよ同期じゃないか』


立花にそう言われて棚橋は泣きだした。


立花、ゴメン




『立花を裏切る事は出来ないです』

『許してください』

棚橋は、そう言っているが


『いいから飲みに誘って、お酒に

このクスリを混ぜて』


慶子は棚橋の意見を却下した。


渋谷のホテルでの情事の翌日

食堂で慶子に言われた


酔っている慶子をホテルに無理矢理

連れ込んで襲った件。


2人の合意でホテルに行ったと言う棚橋と

酒を飲まされて意識が無い状態だったと

主張する慶子。


だがスマホには、だらしない

棚橋の写真が残されており


彼女は訴えると言っていた。


自分に不利な写真しか残っていない現状で

慶子の言い分を世間は支持するだろう。


酔った女性を無理矢理となったら

自分は社会的に抹殺されて終わりだ。


2人しかいない食堂で棚橋は土下座をして

『すいません、何でもしますから』

『許してください』と謝ったのである。


棚橋が土下座をしたままの時間が

5秒ほど経った時に

『カシャ、カシャ』と

スマホのカメラで撮影する音が

聞こえてきた。


土下座をしたままなので見れないが

慶子ちゃんが俺が土下座をしている姿を

撮影しているんだな


棚橋がそう思っていた時に

『ガツン』と

棚橋の後頭部に衝撃が走った。


慶子が靴のまま、棚橋の頭を踏みつけて

チカラを入れていたのだ。


『何でもするって言ったね?』


棚橋にとって武藤慶子は

よく笑う清楚なイメージしかなかったのだが


彼女は別の顔を持っていたのであった。




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