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本物の女神様

プロフィール欄に書いてあった通りの身長157cmの華奢な女の子が小走りで改札口を出てきた。

『遅れて申し訳ありません』

彼の前まで走って来ると深く頭を下げて詫びる。


『全然、大丈夫です、頭を上げて下さい』

恐縮した彼が謝罪ポ-ズを止めるように促すと

おじぎをしていた彼女が顔を上げる。


野球キャップを深く被って長い髪をポニーテ-ルに結んだ出立ちに、カラフルな大きめなマスク


顔の隙間からはキラキラした吸い込まれそうな瞳がコチラを見つめて

『初めまして絵色です』と挨拶をした後

また深々とおじぎをしてくる。


その一連の行動をタクシー待ちの客が不思議そうに見ている。


その視線に気付いた彼が彼女の腕を掴んで、場所を変えるように促す。


『ビ-ナスさん、もうやめて』

『周りの人が見ているから』と言うと


ハッと我に返った表情になり

『すいません』と再び謝ってきた。


キリがないと悟った彼が

『こっちだから』と誘導するように歩き出す。

その後ろに遅れまいと彼女が小走りで追いかける。


『場所、分からなかった?』

その場を繋ぐように彼が聞くと

『階段降りたら、違う改札の前で』

『正面改札口を探していたら、時間がかかちゃって』そう彼女が説明をしているが彼は上の空だった。


絵色女神だ


本物だ


やっぱり可愛いじゃんか


頭の中で天使がラッパを吹きながら回転している。

冷静を装っているが心臓はバクバクだ。


『GODさんで宜しいんですよね?』

歩きながら彼女が聞いてきた事で我に返り

『初めましてGODこと立花です』と歩みを止めて自己紹介をした。


その直立不動で緊張した挨拶に

『立花さん、初めまして』と彼女が満面の笑みで返してくる。


笑われたのか?


とにかく自分のアパートへご案内をしないと、他の人に見られても彼女が困るだろう。

そう思い

『ここから10分くらい歩くけど大丈夫かな?』と声を上擦らせて聞くと

『大丈夫です、お願いします』と

再び満面の笑みで返してきた。


10分はウソになる、実際は15分である。


女の子と並んで歩くのは10年ぶりに近い彼は、何を話して良いのか分からず、無口になってしまう。


その状況を察したのか?彼女が

『本当にGODさんが普通の人で良かったです』と話しかけてきてくれた。


『普通じゃないって、どんな感じ?』

普通の定義がわからない彼が聞くと

『オラオラ系やチャラ男系とかの人が』

『私の周りに居なかったから苦手でした』と

困ったように説明してくる。


『普段は会社勤めのサラリーマンです』

『会ってみてガッカリしたんじゃない?』

言われて傷つくより自分から自虐的に説明すると


『全然全然、そんな事ないです』と

右手を大きく振って否定した。


その表情を見た彼も少し安心したようで

『俺はエクシブハンターで、何処までレクチャーすれば宜しいんでしょうか?』と本題を切り出す。


『そうでした』と彼女も家庭訪問の本題を思い出して歩きながら説明をしてきた。


明日の収録の時に彼女のスマホを画面に映して、プレイしている状態を出演者全員で観る


権太坂36で他にもエクシブハンターをプレイしているメンバーがいるようで、その人とレベルを比較した後にバトルをする。


ビ-ナスと、そのメンバーで2コ-ナ-分を待たせなきゃいけない。


今まではひな壇の最上段で笑っている顔をチラッと1秒ほど撮影されて

その日の出演が終わっていた時とは大違いで


初めて自分がみんなに注目される大チャンス


だが注目はされたものの、自分のレベルの低さで番組が成り立たなかった時の恐怖


グループ内での自分の評判はガタ落ちで、番組も降板させられるかもしれない。


『全部私がウソをついちゃったから、いけないんです』

そう説明するビ-ナスを見て


その状況に追い込まれたら、確かにメッセージで『助けて』になるな、と彼も納得した。


多少強引だったが、エクシブハンターでは伝説級の上位者に教えを請えば


明日の収録も乗り切れるし、あわよくば自分の人気が上がる。


彼女じゃなくても、そうしただろう。


『でも一つ想定外の事があったな』と

彼が歩みを遅めて呟くと、彼女もそれに合わせて歩みを遅め

『想定外って何ですか?』と質問をしてきた。


『スマホを公開してレベルを見せる程度だと思っていたから』

『対戦までするとは思わなかったんだ』

真剣な顔つきになった立花を見て彼女も心配になり

『それだと、どうマズいんですか?』と質問する。


『俺が操作をしてビ-ナスさんのレベルを10くらいまで上げて』

『後は基本操作を教えれば大丈夫だと思っていたけど』

『対戦だと相手が、どのくらいのレベルか分からないでしょう?』

『レベルだけ上がっているのに反応が遅い人だと戦っている内に、慣れているか?慣れていないか?』

『すぐにバレちゃうと思うんだよ』

そう説明すると彼女が、不安そうな顔になる。


そう説明している立花には、もう一つの不安があった。

絵色女神は顔は可愛いがゲ-ムセンスが無いのでは?という疑念が頭の中で渦を巻いている。


地元の友達に教わってレベル3はヤバい感じでは?

頭の片隅にあった疑いが今や全面にある。


世の中には、いくら教えても理解するのが遅い人も中にはいる。


だったら自分が操作をして、ある程度レベルを上げた方が早いと思っていた。


しかし、それでは結果ビ-ナスがスタジオで恥をかいてしまうだろう。


『収録は明日で時間はもう少ない』

『急いで俺のアパートに帰って特訓しよう?』

そう立花に言われた彼女は不安げな表情のまま小さく頷く。


『何、まだ不安?』

立花にそう聞かれた彼女が

『単純にGODさんに教えて貰えれば、全部解決すると思い込んでいました』

『でも明日の収録にGODさんは居ないし、結局は私が上手くならないとダメなんですよね』と

本筋に気付いた事を言った。


『そうだよ』

『でも、だからこそビ-ナスさんは俺を頼って、ここまで来たんでしょ?』

『GOD様にお任せあれ』

そう言って自分の胸を叩く立花の姿を見て

彼女にも笑顔が戻り

『師匠、お願いします』と頼んできた。


その輝く瞳に見惚れていた彼も

『特訓は厳しいぞ、しっかり付いてこいよ』と、師匠と弟子の関係に乗ってくる。


会社の仲間には見せない表情をビ-ナスには見せている事に彼は気付いていない。


そんな掛け合いで、じゃれ合いながら歩いてきたので徒歩10分で着くアパートには20分以上かかって到着した。

















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