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プロジェクト ビ-ナス

絵色女神がセンターじゃないと楽曲提供はしない


その話を聞いて1番ビックリしているのは彼女本人だった。


嫉妬を感じるメンバー全員からの痛いくらいの熱視線は耐えられない。


山田プロデュ-サ-が

『女神は、佐山サトシと知り合いなのか?』と

素朴な質問をすると


『一度もお会いした事ありません』と

手を振って全否定をした。


ア-カムは大好きでスマホで、よく曲を聞いていた彼女だが


佐山サトシ以外のメンバーの名前は言えない程度の知識しかない。


『そうか、でも先方さんからの注文だ』

『曲が届き次第、女神をセンターで組むぞ』

山田の、その声でリハーサル室に緊張が走った。


特に初期メンバーの先輩からの視線は、ナイフのように強烈だった。


3年前からコツコツ努力をしていたのに、つい最近加入したばかりの後輩に


新曲のセンターを取られたのだから心中は穏やかではない。


そこに山田プロデュ-サ-の

『今日の女神は本当に神がかっているよな?』

『新曲のセンターだけじゃなく、CM撮影とイメージガ-ルの就任だもんな』


空気を読まない、この報告に

『CMって何?』

『イメージガ-ル?』と言う

ヒソヒソ話が聞こえてくる。


やめてください。

リハーサル室の雰囲気が最悪になっている。


絵色女神の心の叫びを無視するように

『いいか、お前ら』

『先輩、後輩関係なくチャンスを掴んだ奴がトップになっていくんだぞ』

山田プロデュ-サ-はメンバーを鼓舞する為に言っているようだが


みんな下を向いたまま、前を向こうとはしない。


彼女の隣りにいた越中美桜は

『良かったね』と言ってくれたが


『ありがとう』と絵色女神が返すが、こちらを見ようとしない。


そんな中

『何、みんなお通夜みたいになってんの?』

『負け犬みたいになっている子に誰も声なんて、かけない』


『分かっている?』

『次の新曲は注目されるって事だよ?』

『女神みたいに頑張れば、ワンチャンで一気に人気が出るんだよ』

権太坂のキャプテン、前田明子がメンバーを奮い立たせる言葉をかけた。


するとメンバーの表情が少しずつ、やる気に満ちてきたように見える。


深夜の番組からでも絵色女神のように注目されて、スターに成れる。


『次は自分だ』

どのメンバーも目が輝きだした。


山田プロデュ-サ-は腕を組んで

『うん、うん』と頷いている。


それからのリハーサルは、みんな汗が飛び散るほど真剣に取り組んでいった。


3時間続いたコンサートリハーサルが休憩に入ると同時に権太坂36のメンバーが絵色女神を取り囲み質問攻めにする。

『CMって何が決まったの?』

『イメージガ-ルって何?』

『今度佐山サトシに会わせて』


次から次に来る質問に丁寧に答えていく絵色女神だが、佐山サトシに関しては


彼女自身も何も知らないので、何故自分をセンターにしたのか意味がわからない。


『確か佐山サトシって独身だから、女神を狙っているんじゃない?』


だが音楽番組で一緒になった事はない。


『佐山サトシのインスタとか見れば何か書いてないかな?』


いつのまにか絵色女神が権太坂の中心になって輪が出来て、女子会のようにお菓子とジュ-スで盛り上がっている。


先輩達と、ここまで近い距離で和気あいあいと話したのは加入後、初めてなので彼女自身も嬉しかったのだが


1人になって立花に新曲のセンターに決まった事を早く報告したかった。


だが先輩達からの質問は続いており、1人になるタイミングがない。


やがて休憩時間は終了してしまいリハーサルが再開された。


夜まで立花に連絡が出来ない


絵色女神は、モヤモヤした気持ちのままリハーサルに参加する。


山田プロデュ-サ-はリハーサルの途中で呼び出されて応接室へと移動していた。


そこにはエクシブハンターの開発元のオリファルコン株式会社の広報担当


世界トップクラスの広告代理店のベンツ-の担当者がおり


山田プロデュ-サ-と若手スタッフの松田も同席していた。


『急遽お邪魔して、すいません』

ベンツ-の担当である濱口が非礼を詫びる。


『いえいえ、大丈夫ですよ』

山田プロデュ-サ-が答えると


『ありがとうございます』

『時間がないので、手短に説明致します』

そう言って広告代理店の濱口は説明しだした。


内容はオリファルコン株式会社の世界同時発表の記者会見の件だった。


『我が社の看板ゲ-ムであるエクシブハンターの世界大会を来月から開催します』

『つきましては木曜日に記者会見を世界発信で行いますので』

『絵色さんの会見参加とポスター撮影、衣装合わせを、すぐに行いたいのです』と

広報担当の坂口が説明をした。


『急ですね?』

『今回のCMの話も昨晩、聞いたばかりなのに』

そう山田が笑いながら言うと


広報担当が

『すいません土曜日に急遽決まったもので、私どももバタバタでして』

『ご迷惑をお掛けしております』と謝ると


『会長案件ですもんね?』と広告代理店の濱口が茶化す。


『会長案件?』

山田が不思議そうに聞くと


『当社の猪木会長の指名で、絵色さんを起用しろと、鶴の一声で決まり』

『関係各所の皆様には、ご迷惑をお掛けしております』と

広報担当者は頭を下げた。


それを聞いた山田が

『女神はモテモテだな』と冗談混じりの笑顔で話すと


『他にも何か、あるんですか?』と

広告代理店の濱口が、その話に食い付いたので


『ここだけの話にして下さいよ』と前置きをしながら新曲の事をバラした。


『佐山サトシって、ア-カムの佐山ですよね?』


『トライデントがデビュー曲を依頼して、5000万円を提示して断られたんですよ?』

『それを絵色女神の為にノ-ギャラ?』


『加入して4ケ月の新人に?』

『聞いた事がない』と

広告代理店の濱口が驚嘆している。


『それより佐山が作る新曲の話って、記者会見で発表出来ないですか?』

『エクシブハンターのCM放映時に流す事が決まっていたら目玉になるんですけど』と

濱口が言うと


『ウチとしても楽曲使用料は支払いますのでタイアップしたいです』と

広報担当者も聞いてきた。


山田プロデュ-サ-は松田に指示を出して、確認を急がせる。


『佐山サトシが他人に楽曲提供したって聞いた事がないから』

『広告料に換算したら3億円近い価値はあると思います』

その話を聞いた山田プロデュ-サ-は大喜びだ。


不動のセンターが抜けて、アイドルグループとして華が無くなった権太坂に起死回生となる話だったからである。


『女神も呼びましょうか?』

山田の確認に


『契約書も交わした事だし』

『一度、お会いしときたいですね』と

濱口が答えて、すぐに絵色女神は呼び出された。


応接室に行くとプロデュ-サ-の他に、知らない男性2人がいる。


『女神、こちらは広告代理店のベンツ-の濱口さんと』

『オリファルコンの広報の坂口さん』

絵色女神にそう説明する山田を見て


『初めまして、絵色です』と

彼女が深々と、おじぎをする。


生の絵色女神を見た濱口は

『可愛いは可愛いが、一流企業の会長や佐山サトシが夢中ななるほどなのか?』と感じていた。


『話はドコまで聞いてます?』

濱口に、そう聞かれた彼女は

イメージガ-ル、CM出演、雑誌の年間表紙、番組スポンサー、と

先ほど聞いた内容を話すと


『それらを今週行われる、世界大会の記者会見で発表します』と濱口が説明したのだ。


『記者会見?』

他人事のように言った彼女に

『絵色さん、あなたにも同席して貰うんですよ?』

そう言われて始めて

『え?アタシが出る?』と

事の重大さに気付きアタフタし始める。


『イメージガ-ルのポスター撮影や記者会見の打ち合わせ』

『衣装合わせやCMの打ち合わせも、すぐに準備に入ります』

オリファルコンの広報担当の坂口も、矢継ぎ早に説明をして


キャパシティを遙かに超えた現象に彼女はパニック状態だった。


その時

『コン、コン』と応接室のドアをノックする音が聞こえて


それに反応した山田プロデュ-サ-が

『どうぞ』と大声で返事をする。


ガチャっとドアが開き

『どうぞ、コチラです』と若手スタッフの松田が応接室へ招き入れる。


『え?ウソ?』


一同が驚く人物が現れた。


ア-カムの佐山サトシ本人が現れたのだ。


『レ-ベルに行って新曲の楽曲確認をしようとしたら佐山さん本人が、いらっしゃっていて』と

松田が説明しているが


応接室にいた人間は全員固まっている。


そんな中、さすがは広告代理店

『佐山さん初めまして、デンツ-の濱口です』と

佐山に名刺を差し出しのだ。


その名刺を受け取った佐山は

『よろしく』と

濱口に挨拶をしたが視線の先には、やり取りを黙って見つめている少女だった。


そして彼女の元へと歩いて行くと

『絵色さん、初めまして』

『佐山サトシと申します』と言って、右手を差し出した。


条件反射のように彼女も右手を出し、握手をしながら

『初めまして、絵色です』と

棒読みで自分の名前を名乗る。


山田やオリファルコンの広報も、佐山に挨拶を済ませると


『今日は権太坂へ提供する音源を会社に届けに来て、その時に松田さんが、レ-ベルにいらっしゃっていて』

『そこで、お話は大体、伺いました』


『新曲の件は記者会見で発表して頂いて、差し支えないですし』

『どうぞCMで、お使いください』

『曲もお持ちしていますので、後で確認して頂ければと思います』と説明をしてくれた。


山田プロデュ-サ-が

『新曲は、もう出来ているんですか?』と

驚きながら質問すると


『元々ア-カムの次のシングルで発表しようとしていた曲ですから』

『編曲まで終わっていますから、明日にもレコーディング出来ますよ』と笑いながら説明をしてくれた。


『何で権太坂36の為にノ-ギャラで、そこまでして下さるんですか?』

本人が現れても半信半疑な山田が聞くと


絵色女神を指差して

『彼女がGODさんの弟子だからです』と言った後

『俺も弟子になったので絵色さんへのプレゼントかな?』と

曲を提供した理由を明かしたのだ。


『GODさんの弟子?』


立花からは何も聞いていない彼女が不思議そうな顔をしていたので


『弟子になったのは昨日なんで、ビ-ナスさんの方が先輩ですけどね』

そう言って彼女に微笑みかけた時に


彼女は立花が昨晩、人に会う約束をしていた事を思い出した。


立花が佐山サトシに頼んでくれたんだ。


それが分かった瞬間、彼女は泣き出してしまう。


事態が飲み込めていない広告代理店の濱口が

『GODさんって誰ですか?』と質問をしてきたので


オリファルコンの広報担当が

『ウチの会長の古くからの知り合いで、当社にとっては大切な方です』と説明すると


『なるほど、今回の件は』

『全て、そのGODって人が仕組んだ事なんですね?』と質問するが


『それは分かりません』と広報の坂口は答えるに、とどまった。


『佐山さん、ありがたく新曲を使わせていただきます』

山田プロデュ-サ-がお礼を言っているが、まだ絵色女神は泣きじゃくっている。


そんな彼女に佐山が近づき、耳元で

『立花さんにヨロシクね』と囁いた。


その声で、我に帰った彼女は

『本当にありがとうございました』と礼を言いながら、深々と頭を下げる。


再び彼女の耳元に近づいた佐山が

『君が活躍する事が立花さんの喜びみたいだから、何でも言ってね』と囁いたのであった。


それを聞いた彼女は

『ありがとうございます』と言って

再び佐山に深い礼をする。


事態を見ていたオリファルコンの広報担当者は慌てて電話している。

『俺だ、坂口だ』

『大至急、会長に繋いでくれ』


『会議なんて知っているよ、大至急だよ』


『プロジェクト ビ-ナスで報告がある、って言ってくれ』

そう言って、電話の向こうの人間を急がせている。


応接室にいる人間は黙って、その光景を見ていた。


やがて会長が電話に出たようで

『現在、サニーミュージックの本社ビルで絵色さんを交えて打ち合わせをしているのですが』

『ア-カムさんの佐山サトシさんが権太坂の新曲に楽曲提供する事が急遽決まって』

『エクシブハンターのCMに使用する事を了解して頂きました』


『CMの楽曲使用料の決済を、お願いしたいのですが』と広報担当者が言ったところで


『使用料はいらないです』と

佐山が言い放ったのだ。


『はぁ?』

横で聞いていた広報担当の坂口が驚いているのが、電話の向こうの猪木会長にも伝わったようで


『はい、今伺ってみます』と坂口が電話に向かって話をして


『佐山さん、当社の猪木会長がお話をしたいと、おっしゃっているのですが宜しいでしょうか?』と確認すると


『はい、大丈夫ですし』

『むしろ、話をしたかったです』と言って電話を代わった。


2人で5分ほど話しをして、間接的に聞こえてきた話では


佐山サトシがエクシブハンターのヘビーユ-ザ-なので


そのCMに使うなら楽曲使用料は必要無いとの事だった。


そして何度も佐山のクチから出る

『GODさん』の名前


猪木会長と佐山サトシとGODで飲む話まで出ていたようだ。


大人同士の話しが終わった後、佐山は応接室を出て行き、残った4人で打ち合わせが再開される。


『多少内容の変更も必要なようですので、このまま木曜日の記者会見の打ち合わせわを続けたいと思います』

そう言った濱口の言葉を聞いた彼女は、立花との約束の日だと分かり


『あの、すいません』

『アタシ、その日は休みなんですが』と申し訳なさそうに言うが


『女神、何言っているんだ』

『休みなんか、いつでも取れるだろ?』

『バカな事を言うな』と一蹴されて、取り合って貰えない。


次から次へと決まった大きな仕事と、立花との休日デ-トが中止になってしまう。


17歳の彼女の頭では処理しきれない多くの課題に頭がいっぱいとなった彼女は


今すぐ応接室を出て立花に電話をしたかったのだが、それが許される雰囲気ではなかったのだ。




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