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権太坂36のセンタ-

有給休暇の申請を藤波係長に提出した立花は仕事を順調にこなしていたが


棚橋は蝶野正子に呼び出されて応接室にいた。


蝶野正子は3ケ月ほど前に1年付き合っていた彼氏に振られている。


蝶野は、かなり気に入っており、あと数年経ったら結婚も視野に入れていたのだが


別に好きな人が出来たと言われて、一方的に振られてしまっていた。


何とか関係修復を目指したが、男にその気はなく


やがて全く相手にされなくなり最終的にはブロックされて関係が終わっている。


彼女は女性も社会進出すべきで、子供を産んだ後にはダブルインカムで生活する青写真を描いていたが


彼氏は妻として母として家庭を守って欲しかった。


そこで大きく意見が食い違い、付き合っている時から、いつも衝突をしており


仕事の為にデ-トの約束を飛ばす蝶野を避けていったことを蝶野本人は気付いていない。


学生時代の合コンでも1番人気、得意先の男性からも声をかけられて


自分に振り向かない男性は居ないとすら思っている彼女は


自分から追いかける事には慣れていなかったが


自分を振った男が悔しがるようなイイ女となり、周りの女子が羨ましがるような男と結婚する。


それを心の支えとして次の男を探していた。


すると、自分の身近に見た目はそれほど悪くない、


国家資格を多く保有しており将来は有望


同じ会社なので自分の仕事への理解もあるだろうから、


出産後に仕事復帰を後押ししてくれるだろう、と思う男がいた。


何より取引先でピンチに陥っていた自分を助けてくれた男らしさは高得点だ。


今まで接点が全く無かったので何が好きなのか?


何が趣味なのか?


そんな情報が無いので作成の立てようが無い。


少しでも情報収集しようとツイッターやインスタグラム


名前で『立花 隆』とググってみたが、ありきたりの名前な為


同姓同名の別人の情報ばかり羅列されて、本命の立花に辿りつかない。


目的の男の趣味がバ-べキュ-だと分かれば


牛角あたりで、ちょっとでもゴミが付いていたら文句を言う彼女も


砂埃にまみれた肉を外で焼くバ-べキュ-の時には『自然の中だと美味しさがアップするね』と

変身出来るタイプの女だった。


自分を可愛く見せる為に、男の趣味に興味を持っている女子を演じて

『詳しくないから、おしえて?』と甘えて、男をトリコにしてきた


今までの作戦が今回は全く組めない。


自慢するつもりでLINEで情報を公開したら、後輩の武藤慶子までも、チョッカイを出し始めた。


あんな年下に女の魅力では負けはしない。


だが使えるモノは全部使う


『そこで棚橋さん、立花さんの事を詳しく教えてください』と


応接室で向かい合って座りながら、スカ-トの奥を見たり


大きく開いた胸元を遠慮なく見ているスケベな男に頼んでいたのだ。


いつも私の事をギラギラした目で、舐め回すように見ている、この男なら


今日のセクシース-ツ姿で、ちょっと頼めば


ホイホイ着いてくると思ったが、案の定だった。


『立花さんと明日、ご飯に行くんですけど』

『何の会話したら、盛り上がるか?』

『仲の良い棚橋さんに聞きたかったんです』


そう甘えた声で聞いてみたが

『アイツの私生活って知らないんだ』と

拍子抜けする回答が返ってくる。


『意地悪しないで、教えてくださいよ』

『立花さんと上手くいったら』

『合コンをセッティングしますから』

そう、エサをぶら下げたが


『本当に知らないんだよ』と、親友だから知っていると思った蝶野の期待を裏切る答えが返ってくるだけだった。


『いつも仲良くオフィスで喋っているじゃないですか?』

そう棚橋に聞くが

『俺が、立花に話して貰っているだけなんだよ』と、何も情報を引き出せない。


コイツ、何を考えていやがる?


エサが足りないか?


なら違う角度で聞くか?


『なら棚橋さんが、先週に話していたナンシ-って言う外国人は何処で知り合ったんですか?』

そう質問すると


『あれは俺が勝手にデッチ上げた作り話だよ』

『立花が、外国人と付き合ったら面白いと思って冗談で話しをしていたら』

『いつのまにか広まっちゃっただけだよ』と

ナンシ-事件を説明する。


マジか?


使えね-奴


『少しは協力してくださいよ』

怒りを殺して質問を続ける蝶野に


『アイツ、自分の事を話さないから』

『本当にプライベートを知らないんだよ』とクチを割らなかった。


『そうですか、分かりました』

そう言って怒った蝶野は応接室から出て行く。


棚橋は絵色女神の写真を見ていたが、その事を誰にも言うつもりはない。


ここ最近の立花の良い意味での変化は彼女が理由だと棚橋も分かっている。


昔までの誰とも関わらない立花も嫌いではなかったが、今の明るくなった立花の方が好きだった。


立花の私生活を詳しく知らないのは事実だが、知っている情報も蝶野に言うつもりはなかった。


立花には蝶野のセクシーな部分に興味あるように振る舞っていたが


身近な人間が彼女と付き合う事を心よく思っていなかった。


男の本能で、結婚して一生を連れ添う相手には向いていないと分かっていたからだ。


見た目に惹かれて一晩付き合うのには良いが、すぐに飽きられて男が去っていくタイプの女性がいるが彼女は、そのタイプだろう。


『俺も戻って仕事をしよう』

そう言って棚橋はオフィスを出た。


自分の知らない所で棚橋に守られていた事を立花は知らずに仕事で忙殺している。


先週までのやり残しや新規の案件が来ており、月曜日の朝が会社員にとって1番忙しい日だろう。


立花も自分の仕事をこなすだけで精一杯で、絵色女神のLINEに気付いたのは昼食時だった。


そこにはオリファルコン社のイメージガ-ル就任とエクシブハンターのCM出演


雑誌の毎号表紙と看板番組でのコ-ナ-MCの就任決定が喜び溢れる感じで報告されていた。


そのLINEを読みながら

『関係者以外は極秘なんじゃないか?』と

笑いながら独り言を呟く。


猪木会長と話したのが土曜日の昼過ぎ、月曜日の朝には契約って事は


広告代理店の担当は休日返上で飛び回ったんだろうな。


そんな事を考えていた立花は絵色女神への返信を打った後に


オリファルコン社の猪木会長にお礼のメールを入れておく。


食堂で昼食を終えた後、すぐに仕事に戻った為


今週の記者会見でGOD andビ-ナスを発表します。と猪木会長からの返信に立花が気付いたのは

、その日の夜だった。


場所は変わって

午後のサニーミュージックの本社ビルでは権太坂のメンバーが全員揃って


コンサートのリハーサルをしている。


不動のセンターと呼ばれていたメンバーが無期限活動停止を発表したので


残りのメンバーで、今までの曲の歌うパ-トを新担当に割り振るのと、一部振り付けの見直しが行われていた。


そのリハーサル室に

『山田さん、大変です』と

若いスタッフが走って飛び込んできた。


『なんだ慌てて』

そう言った山田プロデュ-サ-の耳元で、内緒話をするように報告する。


『ウソだろ?』

その話を聞いた山田プロデュ-サ-は驚愕しながら

『ウチに、そんな金無いぞ』と若いスタッフに言うが


『ノ-ギャラでOKだそうです』と返してきた言葉を

リハーサル中のメンバーも動きを止めて注目している。


何が起きているの?


そんな不安な顔をしているメンバーを察して、

プロデュ-サ-が

『安心しろ、良い話だ』と伝えた。


若いスタッフに

『コイツらには話しても大丈夫なんだよな?』と山田プロデュ-サ-が聞くと


『はい、レ-ベルから来た話なんで確定案件です』と答えると


『次の新曲がア-カムの佐山サトシの作曲で決定しました』と発表したのだ。


『キャ〜』

『ヤッタ〜』


抱き合って喜ぶメンバーや泣き出す者、

驚き過ぎて固まっているメンバー


みんな、曲に恵まれていなかったと感じていた

その事は共通認識であったので


人気バンドのア-カムの佐山サトシが曲を提供してくれる、


作る曲にハズレ無しと言われる彼が曲を提供するって事は、ヒットが約束されたようなモノだった。


みんな優勝したように喜んでいる中、若いスタッフが

『佐山サトシから一つ条件がありまして』と

申し訳なさそうに言ってきたので


『何だ言ってみろ?』と

プロデュ-サ-が言うと


『この曲は絵色女神をセンターに起用する』

『そうしなかった場合は楽曲提供はナシにする、との事です』


若いスタッフが、そう報告した瞬間


メンバー全員の視線が一斉に、絵色女神に集中したのであった。




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