女神様が行方不明 2
マネージャーや男性スタッフが右往左往していて時間になっても打ち合わせは始まらない。
ヒソヒソ話で
『女神ちゃんがスト-カ-にロックオンされたらしいよ』と会話している声が絵色女神の耳にも聞こえてくる。
当人はここまで大騒ぎになるとは思っていなかった。
すぐ横にいた越中美桜は
『女神ちゃん平気だったの?』と心配しながら、スト-カ-騒ぎの件は
さっきまでの話の翌日胸タッチ男の件では?と
疑いの眼差しをしており
絵色女神にも、それは伝わってきており
ここで美桜にさっきまでの事をバラされたら、
イッカンの終わりだと思い
『美桜ちゃん、後でちゃんと説明するね?』とハラをくくったのであった。
ザワついている中、レコード会社のディレクターが『打ち合わせを始めます』と会議を強行スタートする。
新曲のセンターとサブ、パート担当、コ-ラスの割り振りをメンバーごとに説明している時に
マネージャーさんに絵色女神だけ呼ばれて中抜けとなった。
『打ち合わせは良いんですか?』
マネージャーと廊下を歩きながら絵色女神が聞くと
『女神ちゃんは今回コ-ラスだから、それほど重要じゃないのよ』
『打ち合わせよりファンが家に来ている方が問題よ』と言って先を急いでいる。
別のフロアに着くと会議室のような場所に通され、事務所の関係者やスタッフが何人か集まっており、彼女に椅子に座るように促す。
権太坂36のプロデューサ-である山田恵一が
『事情は聞いた』
『貼り紙が玄関ドアに貼られていた事以外に、何か異変はなかったか?』と質問をしてきた。
そこからは何時に気付いたか?
昨日は何時に家に着いたか?
どのルートで家に帰ったか?と
彼女に怒涛の質問責めが続いていく。
ボロが出ないように咄嗟に色々と考えて、その場を取り繕う。
決して立花の家に泊まっていた事はバレてはいけない。
女性アイドルにとっての絶対的な不文律
『彼氏、恋人は厳禁』
権太坂36も例外ではなく、メンバー加入の際に誓約書にサインをしていた。
バレたらグループを辞めさせられる。
おそらく立花にも迷惑がかかるだろう。
絶対にバレない為に彼女は上手く、太刀振舞っていた。
結果、事務所の関係者は彼女の話を全面的に信用し、話し合いを続けている。
大人たちの話し合いの流れでピンチは免れた
彼女はそう思った。
昨日の帰り道を尾行されたのでは?
発信機や盗聴器を付けられているのでは?
ファンが家を突き止めた方法を色々と考えている中で
『女神ちゃん、スマホを見せてくれる?』
あるスタッフが信じられない事を言ってきた。
『何故スマホを見せないといけないんですか?』
驚きを隠しながら彼女が質問すると
『最近、ウィルス入りのアプリが流行っていて』
『そのウィルスがGPS情報を発信しているらしいんだ』
『スマホに変なアプリが入っていないか?』
『専門家に見てもらう為にスマホを預けないとダメなんだよ』
その説明を聞いて彼女は凍った。
この2日間、彼女のスマホは立花と連絡し合ったLINEでいっぱいだ。
自分が寝ている時に優しく話しかけられた動画はお守りとなった。
極めつけは待ち受け画面で、今朝撮ったばかりの立花と顔を近づけたツ-ショットだった。
スマホを見られたら全てが終わる。
幼い彼女の知識でも、その事は充分に予想出来た。
『女性にスマホを見せてと言うのは、コッチもツラいんだけど判ってよ?』と男性スタッフが言って、逃げられない状況を作ってくる。
スマホを渡した瞬間に立花とのツ-ショットを見られてしまう。
困っている彼女に別のスタッフが
『スマホに見られたらマズいのがある?』と確信をつく質問をしてきた。
そうです、なんてクチが裂けても言えない
『見られちゃマズい写真とかあったら削除してからでも良いよ』
『水着姿とかがあって流出したら、マズいから今のうちに消しておいてよ』
そう言われて咄嗟に
『下着姿とかもあるんです』と彼女が言うと
男性スタッフ同士が顔を見合わせた後
『隣の部屋に行って、早く消してきちゃって』と促してきた。
一刻も早く1人になりたかった彼女は
『わかりました』と言って席を立ち、隣の小さな会議室に移動する。
心臓がドキドキしている。
1人になった彼女が改めてスマホを見ると、立花とのヤリ取り以外はマズいデ-タ-は無かった。
むしろ、立花とのデ-タ-だけが大事だった。
確認している時間が長かったようで
『女神ちゃん、終わった?』と、スタッフが呼びに来てしまった。
『もう少しです』
返事をしてみたが、何も終わっていない。
スマホを見られたら全てが終わってしまう。
そう感じていた彼女は写真や動画を削除し始めた。
LINEは一つずつ消すしかないか。
そう思っていた時に
『女神ちゃん、急いで戻って来て!』
男性スタッフがノックもせずに部屋に入って来た。
『キャッ 』
ビックリした彼女は間違ってLINEのアプリを削除してしまったのだ。
あたふたしている彼女を男性スタッフが呼び、元いた部屋へと呼び戻される。
『これからマンションに行くから、一緒に来てくれ』
『部屋の中に入らないと、いけないだろうから立ち会って貰いたいんだ』
別の男性スタッフに、そう言われて本社ビルから幡ヶ谷にある
会社が借りてくれているマンションへと向かう事となった。
LINEのアプリが削除された事を知らずに。
かたや仕事に励んでいる立花はテキパキと仕事をこなして午前中の分は
予定より早く終わろうとしていた。
昨日と同じ失敗をしないように、1時間ごとにスマホは確認している。
午前中は新曲の打ち合わせと言っていたから、連絡が出来ないのだろう。
そう軽く考えて仕事をこなしていき、自分の会社に昼ご飯を食べに戻って来た。
立花の会社には社員食堂があるので、時間がある時には安く済ませる為に皆んな、そこで食べている。
立花もAランチを食べながらスマホをいじりだした。
たまには俺から連絡を入れてみるか
今日は残業が無いので予定通り、家電を買いに行ける事を報告しよう。
そう思ってLINEのアプリを起動させる。
彼女に連絡を入れようとすると
『メンバーがいません』と、なってしまった。
アプリがおかしくなったのか?
そう考えて、改めてLINEを起動させるが、やはり『メンバーがいません』となってしまう。
いやいや、メンバーがいませんって
スマホが静電気でバグったんだ
そう考えて電源を落として再起動させるが、結果は同じだった。
行方不明?
すぐにスマホで原因を検索してみる。
『相手の方が退会してしまったと思われます』と出ている。
ブロックされているんじゃなくて退会?
もう連絡できないの?
俺の前から消えた?
放心状態の立花を棚橋が見つけて、同じテ-ブルに座った。
『絶好調な立花さんはランチタイムにメ-ルチェックですか?』と
いつものように茶化すが、朝のような返しが戻ってこない。
不思議に思った棚橋が
『立花どうした?』と聞くと
『女神様が消えた』と
魂が抜けた人のように呟く
『女神様?』
『昨日も泊まったって言う女か?』
そう確認すると立花が静かに頷く
今日、電気屋に家電を買いに行く約束をしており、残業が無い事を報告しようとLINEをしたら相手が退会していた。
チカラ無く立花が説明すると
『不法就労で強制送還されたんじゃねぇの?』と、まだ相手が外国人と決めつけて話すが立花からは返しが戻ってこない。
『相手のLINEに連絡がつかなくなるなんて、しょっちゅうだろ?』と棚橋が言った言葉に
『そういう時って、どうするの?』と
立花が急に食いつき棚橋に質問すると
『どうにもならない、行方不明のままだ』と答えて、立花は撃沈する。
『逃げられたら、それまで』
『男と女なんて、そんなもんだよ』と
棚橋が遠くを見るような目で語ってきた。
『でも約束したの、ついさっきだぜ』
『それで音信不通になるか?』
納得がいかない立花はAランチに手をつける事もなく嘆いている。
『女なんて、いくらでもいる』
『次行こうぜ?』
『どうせブスだったんだろ』
棚橋がそう言って慰めていると、立花が自分の携帯を目の前にかざした。
『何だよ?』
何も言わずスマホを出してきた立花に聞くと
『見てみろ?』
そう言ってスマホを更に前に差し出した。
友人の別れた彼女なんて興味はない
どうせブスだろ?
そう思いながら立花のスマホを見ると
立花と顔を寄せあっている女性
よく見る
『どひゃ〜、めちゃ可愛いじゃんか?』
食堂中に聞こえる絶叫で騒いでいるが、立花は制止しない。
『なんだ、この可愛いさは?』
『学年で1番、いや学校でも1番だろ』
『この女が2晩連続で泊まったのか?』
そう言って、やたら興奮気味で一方的に喋っているが立花の耳には入ってこない。
あの子が俺に何も言わず消えるか?
今朝だって、今夜の家電デ-トをあんなに楽しみにしていたじゃないか?
こちらから連絡が出来なくなった今、残っている可能性は
『今夜の家電購入デ-トだ』
18時にラジオ番組の収録が終わると言っていた。
自分も間に合うように仕事を片付けて、定時に帰るしかない。
頭の中で整理が出来た立花は、目の前のランチを急いで食べて
『何処で知り合ったんだ?』と言う
棚橋の声を無視して食堂を後にした。
それからはスマホに連絡が入らないか、気にしながら午後の仕事を片付け
朝の宣言通りに定刻に退社したのであった。
自由が丘駅に向かうまでの間、ヤフーニュースで権太坂36に事故が無かったか?を調べたり
絵色女神のインスタグラムを見て、更新されていないか?と
色々と調べてみたが彼女に関する情報は何も出てこなかった。
不安だけが増幅していくが、やがて自由が丘駅に着き、走って改札を抜けて自宅アパートまで走って向かう。
時間はまだ18時になったばかり、
彼女の話ではラジオ番組の収録の終了時間なので
まだ自由が丘には来ていない筈だが、もしかしたら昨日のようにアパートに居るのでは?
そんな、かすかな期待を胸に、走り続けてアパートに到着をした。
急いで鍵を開けて中に入るが誰もいない。
連絡が入っていないか?
何度も確認したスマホの待ち受けは
この部屋で今朝撮った2人のツ-ショット写真だ。
約束した場所は電気屋だ、ここじゃない。
そう考えて、今度は電気屋へと向かう。
ス-ツ姿のサラリーマンが全力ダッシュで走っているので、電気屋に着いた頃には、汗だくで息を切らしている。
急いで店舗の中に入って、キョロキョロと人探しをしているが絵色女神はいない。
2階のフロアも店の端から端まで歩き回ったが、彼女の姿はなかったのである。
まだラジオ局から到着出来る時間じゃない
自分に、そう言い聞かせて店舗の入り口へと向かう。
この店の出入り口は一ヶ所だけだ、ここで待っていれば会える筈だ。
そう考えて、そこから彼女を待ち続けていた。
再会出来たら何て言おうかな。
突然連絡出来なくなってビックリしたよ!
いい加減しろよ、急に消えるなんて!
色々とシュミレーションを頭の中でしているが、若い女性が来店するとすぐに目で追ってしまい、時間だけが経過していった。
やがて店内放送で『蛍の光』が流れてきて閉店時間が近づいて来た事を暗示し始めている。
ドラマなのでは、閉店時間ギリギリにヒロインが現れて主人公と抱き合うが
現実は非常で、彼女は現れることなく電気屋は閉店を迎えた。
終わったな
この2日間は楽しかった。
好きになったアイドルが自分の家に来た。
彼女には感謝しかない
そもそも何の契約も制約も決めていなかったじゃないか。
そう自分に言い聞かせているが、大粒の涙が溢れていく。
トボトボと歩き、アパートに着いた時間は20時30分となっていた。
真っ暗な部屋に入り、ベッドで横になった。
背広からスマホを取り出し大好きなエクシブハンターを起動させる。
『元々、俺にはコレしかなかったんだから』
そう言った時に気づいた。
絵色女神と知り合ったキッカケはネットゲ-ムじゃないか。
『いつもブロックしていたメ-ルボックスを解除していた時に』
そう言ってエクシブハンターのメ-ルボックスを解除する操作をした。
すると1分後にメ-ルが届く。
差し出し人はビ-ナス
その名前を見て、急いでメ-ルを開封する。
『ごめんなさい、間違ってLINEのIDを消しちゃいました』
『これが新しいIDです』
これで絵色女神と繋がった。
メ-ルを見て立花は疲れがドッと出て、身体が溶けていく感じがする。
呆けている場合じゃない、すぐに彼女の新しいIDを登録して連絡を取った。
『立花さん、ごめんなさい』
『全然、連絡出来なくなって大変だったの』と
彼女が泣きながら電話をしてくる。
そして朝イチにマネージャーに報告してからのスマホを調べるまでの流れを説明し始めたのであった。
本社を出てからは事務所スタッフを引き連れて幡ヶ谷のマンションに向かい
盗聴ハンターの専門業者を呼んで彼女のマンションの部屋を大捜索する。
盗聴機や発信機が出す特殊な電波を部屋の中で探し始めると、すぐに部屋にあったぬいぐるみが反応を示した。
『これは?』
業者が彼女に聞くと
『この前、ファンの方に貰った物です』と説明する。
『この。ぬいぐるみを解体しても良いでしょうか?』と聞いてきて
彼女が無言で頷くと、すぐに専門業者がカッタ-でぬいぐるみの腹に刃を入れた。
中からスポンジが溢れてきて、その中からカランと音を立てて床に転がる機械。
発信機だった。
プレゼントにエアタグや発信機を潜り込ませるスト-カ-対策で事務所サイドが
アイドルに送られてくる手紙やプレゼントは全て電波チェックや金属探知機で調査するのだが
彼女はテレビ局から出る時に出待ちをしていたファンから、直接手渡しでプレゼントを受け取ってしまっていたのだった。
ベテランの先輩達は手渡しされたプレゼントも事務所でのチェックに回すが
新人である絵色女神は、そのチェックを忘れて直接家に持ち込んでしまったのである。
家がバレた原因は分かった。
他に怪しい物が無いか?
その後、マンション内を徹底的に調べたが結果はシロだった。
後は引越し業者を手配して、会社が探してくれたウィ-クリ-マンションへと荷物を運び込み、20時過ぎに、やっと1人になれた、との事だ。
『スマホの調査はどうしたの?』
立花が質問すると
『聞いてくださいよ』
『その専門業者の人が、アタシのスマホの設定欄にある』
『インストールしているアプリ一覧を確認して』
『大丈夫ですね、って』
『20秒で終わったんですよ』
『動画も写真も全部消して』
『LINEも、いつのまにか消えていたのに』
『20秒で終わるなら、消さなかったのに』と
ご立腹で畳み掛けるように喋る。
『うん、うん』と
彼女の話しに相槌を打っていた立花だが
『消しちゃった動画や写真なら復活出来るよ』と言うと
『本当ですか?』と泣き声で確認してくる。
『PCデポって言うパソコン屋さんだと、消しちゃったデ-タ-を復旧してくれるよ』と言うと
『絶対に行きます』と熱く答えてきた。
『朝撮った写真なら今から送るよ』
立花に、そう言われた彼女は
『本当に嬉しい』と感激している。
電話番号やメ-ルアドレスも知っていれば、復旧も早かったと思いお互いの連絡の取れる連絡先を全て交換したのであった。
『今日、電気屋さんに行きたかったな』
絵色女神がポツリと呟いた。
『電気屋になら、いつでも行けるでしょ?』
『あの店だったら、何処に何があるか完璧に把握したから』
『いつでも案内してあげるよ』
立花がそう言うと
『もしかして今日、電気屋さんで待っていてくれたんですか?』と
申し訳なさそうな声で彼女が聞いてくる。
『そりゃあ、連絡も取れないから』
『約束していた電気屋に行くしかないじゃん』
笑いながら説明する立花に
『本当にごめんなさい』と彼女が謝ってきた。
『今日の事は不可抗力だったから、しょうがないと思うよ』
『でも、もし』
『居なくなる時は、さよならを言ってから』
『俺の前から、居なくなって欲しい』
そう立花が言うと
『絶対に居なくなりません』と
彼女が強く断言をする。
経験上、絶対は無い事を立花は知っていたが
『俺、泣いちゃうから消えないでね』と、おどけて
連絡のやり取りを再開出来た喜びに浸っていたのであった。




