さよなら自由が丘 1
新型コロナウィルスの
大流行は大きな被害を
世界中に与えたが
思わぬところで
恩恵を受けている者もいる。
5年前なら夏場に
マスクをしていれば
あの人、何?
イキってる?
そんな感じだったが
コロナ以降は
珍しくなかった。
髪の毛をポニーテ-ルにして
野球キャップを被り
ピンクのマスクをすると
目元しか分からない。
更に、その目元に
伊達メガネを掛けたら
身内でも
誰だか分からないだろう。
『だったら、自由が丘まで
変装スタイルでいきます』
『バレずに待ち合わせが
出来たら、良いですか?』
女神に、そう言われた立花は
『危ないと思ったら
すぐにタクシーに乗れよ?』と
女神に注意する。
『絶対にバレませんよ』
女神は自信満々だ。
その根拠のない自信が
立花は不安だった。
『ほら、バレないでしょ?』
女神がドヤ顔で立花に
聞いている。
『あぁ』
返事をする立花は
周りをキョロキョロして
見渡しているが
『普通にしていれば
分からないモノです』と
女神は気にしていない。
自由が丘駅に近い
東急ストア
夕方で晩御飯の材料を
買いに来た主婦が
大勢いる中
若い2人は買い物カ-トを
押して並んで歩いている。
立花の左腕に絡みつくように
自分の顔を押し付けている女神は
幸せそうな顔だ。
それは突然、
女神に午後からオフが
出来ると昨夜に
連絡が入った。
メイン司会の
大物芸人がスキャンダルを
スッパ抜かれて
番組の収録が飛んだらしい。
午後からオフになった女神は
すぐに立花に連絡をした。
『立花さんは明日、
残業ですか?』
そう聞かれた立花は
予定を思い出す。
『何もないから定時には
帰れると思うけど』
立花の、その言葉を聞いた
女神は
『だったらハンバーグを
作りに立花さん家に
行っても良いですか?』と
聞いてきた。
ずーっと棚上げされてきた
女神の立花への
恩返しの約束だった。
『それって材料は、どうする?』
立花の素朴な質問に
『もちろん、2人で
お買い物をして選びます』と
当たり前のように
女神が答えて
立花が頭を抱えている。
『絶対バレるだろ?』
立花が、そう呟くのも
しょうがないだろう。
今や女神をテレビで
見ない日はない。
CMでオンエアー
されているモノだけで
現在6本
配信先行の新曲は
Apple musicで
ダウンロード数世界1位
コンビニの雑誌コ-ナ-に
並ぶテレビ情報誌
少年マンガ誌、
女性ファッション誌と
女神が表紙の本が並び
テレビのバラエティや
音楽番組にも出演しており
80歳のおばあちゃんでさえ
絵色女神の名前を
知っているほどだった。
その女神が日中に
ス-パ-に食料品を買いに行く
テレビ番組のドッキリで
実はアイドルが
間抜けな店員さんでした的な
変装モノを放映しているが
それを2人で
実践する勇気が
立花には無かった。
『変装して買い物が
大丈夫でしたら
次はミラコスタに
一緒に泊まりましょう?』と
女神が野望を打ち明けてきた。
『ミラコスタって
ディズニーシ-の
公式ホテルか?』
信じられない立花が
そう確認すると
『権太坂の先輩が
先月、彼氏と泊まったそうで』
『すごく良かったそうです』と
恋愛御法度の
アイドルを無視した
報告をしている。
ミラコスタより
東急ストアの方が
リスクは低いか?
そう考えて
押し切られる形で
ハンバーグの材料を買いに
一緒に来ていたのだ。
『他人から見た夫婦に
見えますかね?』
ニコニコした女神は
腕をロックしたまま
質問していた。
歩きづらい立花は
『店内では、腕に絡むのを
止めてください』と言えず
『恋人同士じゃない?』に
とどめて答えている。
『絶対に夫婦に
見えてますって』と
言っている女神は
超ご機嫌なので
今なら頭を叩いたとしても
許してくれるだろう。
ハンバーグには
関係ないと思われる
鮮魚コ-ナ-や
乾物コ-ナ-も
くまなく見て回る女神に
『ソッチは今晩の料理に
関係ないよね?』と
立花が言うと
『これからアタシが
来た時に料理をする
下見をしないと』
『高いか?安いか?
分からないじゃないですか?』
『落ち着いたら、他の店も見て
1番安いお店で買物をします』と
女神は経済観念が高い事が
分かる事を言ってきた。
『しっかりとした奥様に
なりそうですね』
そう立花が答えると
『ねぇ、誰の奥さん?』
『教えてくださいよ?』と
女神が腕を引っ張って
聞いてくる。
余計な事を言ったな
そう思いながらも
嬉しそうな顔をした立花が
女神の耳元で
『俺の奥さん』と
囁くと
更に嬉しそうな顔に
なる女神だった。
ス-パ-では誰にも
気付かれる事なく
買物を終了する事が出来た。
『ね?大丈夫だったですよね?』
女神が勝ち誇ったように言って
手を繋いでくる。
案外バレないもんだな
そう思った立花だが
『近所のス-パ-と
ディズニーシ-は違うだろ?』と
言うが
『大丈夫ですよ』
『みんな他人に興味ありません』
そう言って自論を
女神がアピールしてきた。
『そうだ、来月の平日に
立花さんは2日間
お休みは取れませんか?』と
女神が聞いてきた。
『ミラコスタか?』
立花が、そう聞くと
『違います』
『一緒に北海道に行って
貰いたいと思って』と
凄い事をサラッと言ってきた。
『北海道?』
『女神の実家に挨拶?』
立花が、うわずった声で
聞くと
『あぁ、そうですね』
『挨拶も、ついでに
その時にしても
良いかもしれないですね』と
言ってきた。
『ついで用事?』
意味が分からない立花が
そう質問すると
女神が説明を始める。
女神が家族と電話で
話しをしている時に
娘の活躍が
北海道でも有名になり
彼女の実家を見に来る人が
多くなっているが
狭い2DKが女神の実家だと
ファンの間で噂になると
彼女に迷惑がかかると思い
引越しを考えているとの事だった。
親に迷惑をかけていると
感じた女神は
『来月にはCMの出演料が
入るから』
『そのうち中古の家を
プレゼントするつもりだよ』と
両親に話すと
『いつ帰って来る?』と
連日、確認が入っていて
来月あたりに
北海道に戻って家を
見学する話が進んでいる
との事だった。
『両親も借家住まいだし
アタシも家の事は
分からないので』
『一緒に見て貰いたいんです』と
北海道行きの理由を
説明してきたが
『俺も専門家じゃないし
アドバイス出来るか?
不安だが』
『俺で良ければ同席するよ』と
立花が承諾をする。
すると女神が
目を輝かせて
『アタシの両親に
会ってくれるんですね?』と
聞いてきた。
『あぁ、予想より早いけど
女神と、お付き合いさせて
貰っている事は』
『ちゃんと、お会いして
説明はするつもりだよ』と
立花が言うと
伊達メガネの奥の瞳から
涙を溢れさせた女神が
立花に抱きついた。
『どうした?』
突然の女神の行動に
驚いた立花が聞くと
『彼氏は自分の事を
真剣に考えていてくれると』
『親に会うのを嫌がらない、って
聞いていたので』
『さっきの話をしていた時に
少し怖かったんです』
『でも立花さんは
全然嫌がってなくて』
『アタシ、大事に
されているって分かったら
嬉しくなって』と
泣きながら説明をしている。
確かに遊び相手としか
女性を見ていなかったら
両親には会えないだろう。
そう思った立花は
『女神が俺の奥さんになるなら
挨拶するのは当たり前だろ?』
そう言って抱きついている
彼女の背中をポンポンと
優しく撫でた。
少し経って落ち着いた女神は
『美味しい晩御飯を
作りますから』
『期待していてください』と言って
立花と手を繋いで
アパートへ向かうのであった。




