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好きになったアイドルがウチに来る?


最後の顧客の会社を出た時には夜19時を回っていた。

いつものようにFAXとコピーの複合機の定期メンテナンスを終了して会社に連絡を入れる。


『立花です、浦賀商事さんのメンテ終わったんで、このまま帰ります』


『はい、明日は会社に寄ってから外出です』

『はい、失礼します』


そう言って会社への報告を入れて1日の業務を終了した。


やりたい事も見つからず無駄に過ごした大学の4年間。


新卒で会社に就職したが、たまたま内定が取れた会社で言われた事だけをこなして、もう5年、目的の無い毎日を繰り返していた。


駅前のコンビニで晩御飯の弁当を買って、一人暮らしで住むアパートに帰る。


テレビを付けてバラエティを流したままハンバーグを口に放り込み、お茶を含んで食事と言うには淡白な時間は終了した。


『さて、始めますか』


寡黙に食事をしていた男とは思えぬ機敏な動きで背広からスマホを取り出し


慣れた手つきでアプリを起動させると

『エクシブハンター』と書かれたロゴが颯爽と画面を駆け巡る。


RPGとパズルゲ-ムを融合させた、このゲ-ムは全世界でダウンロード数で一位を独走する人気で子供から老人まで夢中になり社会現象を起こしていた。


この男『立花隆』が唯一夢中になれるものが、このネットゲ-ムだった。


大学1年の18歳の時に彼女に振られて、引きこもり気味だった立花の心の友が『エクシブハンター』だったのだが、


その当時はクソゲ-と言われておりダウンロード数も少なかった。


引きこもりでやる事もなかった彼はゲ-ムのコメント欄にあった会社への要望に文句を書きまくっていた。


『つまらない』

『盛り上がりにかける』

『迫力が無い』


単なる暇つぶし程度にコメントしていたが、ゲ-ム開発会社の社長は、そのコメントに真摯に対応していた。


返信が返ってくると思っていなかった彼も、真面目な返信に驚き


『時間制限を設けたら?』

『キャラクターを変えてみたら、どうですか?』

『アイテムを増やしてみたら、どうですか?』と前向きな応援メッセージに変わり


やがて、彼のアイデアで中身が変わっていき、当初とは180度変わった新しいゲ-ムへと進化していった。


GPS機能と連動して敵や味方が変わっていくシステムを導入した時には市民権を得て、推しも推されぬ人気ゲ-ムと変化していった。


ゲ-ム会社の社長は彼に感謝をして、何度か食事を一緒にして


『お礼をしたい』と言ったり彼が就職活動中には

『役員待遇で入社してくれ』と懇願をしたが、頑なに彼は固辞をした。


このヒットを皮切りに新しいゲ-ムもヒットを連発していき、やがてクソゲ-から始まった会社は日本有数の会社へと登り詰めていった。


今でも定期的にアドバイスを求められて、改善点を提言して次のバ-ジョンに反映されている、現状で彼は満足している。


『さて、誰から倒していきますか?』


ニコニコした顔で画面をスクロールする表情を会社の人間は想像出来ないだろう。


残業はしない、余計な事はしない、誰も助けない、自分の事しかしない。


彼の事をロボットだと思っている女子社員もいると言う噂だ。


会社での無表情の仏頂面からは想像がつかないニタニタした顔 


『ヨシヨシ、俺を頼ってきたんだね』


知らない人が聞いたら、頭がおかしくなったと思われそうなセリフだが、


このゲ-ムの世界で彼は『GOD』だった。


『神』

『GOD』


誰もプレイをしていなかった頃から10年近く、あまりにも強力過ぎて今では課金しても手に入らないアイテムを30種類以上も彼は持っており、彼一人対150人の敵の時も彼の圧勝だった。


ランキング永年1位、

奇跡のアイテムを持つ男、

天上天下唯我独尊


このゲ-ムの世界での圧倒的な強さで、いつしか彼は『GOD』と呼ばれていた。


個人戦、チ-ム戦どれも彼がプレイするとランキングは1位である。


彼を慕って頼る者も多く、彼のチ-ムへの加入希望者は500人を超えている。


10人でワンチ-ムのチ-ム戦だが人気のゲ-ムだから空きも中々出ない、

それでも付和雷同を求める新たな参加者はチ-ムのNO.2の人物が交通整理をしてくれていた。


だから彼、立花隆はゲ-ムに集中出来る。


『ここはノ-ザンライトで、おしまいね』

そう言ってアイテムを使うと、画面上の敵は全て消えてしまった。


〝出た神の一撃〟

〝一瞬で消えた〟

〝素敵〜GOD様〟


ライブコメントには彼の幻のアイテムに感嘆する声で溢れていく。


実際彼の技だけを見に来るギャラリーも多く、ある種の名物になっていた。


当初は彼しか持っていないアイテムの数々に

卑怯だ、

反則だ、

インチキだ、

と非難が集まっていったが、そのうち


社員じゃねぇの?

プロか?

最後には社長自身がプレイしているんだろう?と


考察が増え、社長自身がコメントを出す事態となっていった。


『エクシブハンターで噂になっているプレイヤ-は私ではありません』

『さらに付け加えると当社の社員でも、ありません』


『彼は一般の方で、1プレイヤ-です』

『このゲ-ムの黎明期、プレイヤ-の数が1桁の頃から活躍していた方です』


『皆さまに見向きもされなかった頃にログインした方に差し上げていたアイテムを彼が持っていても不思議では、ありません』


『彼のアドバイスで、このゲ-ムは進化していきました』

『言い換えれば、彼はこのゲ-ムの創造主なんです』と説明した、この社長のコメントに


〝創造主〟

〝神だ〟


とネット民が騒ぎ、彼のあだ名がGODに変わっていた頃にはネット民は誰も、彼の事で文句を言わなくなっていった。


『彼と私で相談しました』


『幻のアイテムを年間ランキング1位の方にプレゼントします』と発表され

この騒動がネットニュースとなり、このゲ-ムの注目度が上がり、みんなの話題となっていった。


約束通り、ランキングで立花の次の順位の人に、幻のアイテムはプレゼントされた。


貰った人はアイテムを一度だけ使用出来る。

言い方を変えれば一回しか使えない。


立花は無制限だ。


神のインチキであるが彼と社長しか知らない秘密である。


そんな、いきさつもあり彼自身もこのゲ-ムに愛着を持ち1日の生活の中心となっていた。


会社で働いているのはゲ-ムするためだけだとさえ思っている。


このサイトに来れば自分が世界の中心である、

そんな生活に満足していた。


『少し休憩しますか』


既にプレイして1時間ほど経過している。


ゲ-ムをメインメニューにすると彼宛にメッセージが入っている。


普段は『弟子にして下さい』とか『アイテムを売ってください』と言うメッセージが多く、


メッセージをオフにしているのだが、昨晩はチ-ムNO.2のトニ-との連絡の為にメッセージをオンにしていたのだ。


『GOD、新しくチ-ムに入りたいってのが相談してきているんです』


オフ会にも一切、参加しない彼には興味が無い事だったので

『いつものように人選は任せます』とトニ-に一任をした。


チ-ム運営に関して色々な事を相談してくるトニ-はゲ-ム内での秘書的な存在として彼を助けている。


全国から来るメッセージに彼が困っていた時にも『メッセージ機能をオフにしたら、どうですか?』


『必要な連絡のやり取りはゲ-ム内のチャットで、やり取り出来ますよ』


『面倒な事は俺がやっておきます』


彼が積極的にゲ-ム以外のイベントに参加したがらない内向的な性格だと分かっているのか?

そう提言してくれた。


ゲ-ムだけを堪能したい立花にとっては願ったり叶ったりだった。


『なら、そうさせてもらうよ』


それからチ-ム運営はトニ-に任せていった。


正直、彼は他のチ-ムメンバーを知らない、その辺には無頓着だった。


久しぶりに入っているメッセージ、普段はスルーだが、その日はたまたま目を通してみた。


『攻略方法を教えてください』

『チ-ムに入れてください』

『ウチのチ-ムに入ってくれたら10万円は払います』


毎度変わらない、彼にとって全く興味の無いメッセージが羅列されている。

そんな中


『助けてください』

の文字が書いてあるメッセージが目に飛び込んできた。


助けてください、


今まで無かった種類のメッセージに内容を読んでみる。


『ゴッドさんに頼るしか方法がないんです』

『どうか私を助けてください』

『詳しくはLINEで』


差出人はハンドルネームで〝ビ-ナス〟となっていた。


ピクっ


彼の眉毛が一瞬動いた。

ビ-ナスからのメッセージは、まだあった。


『勝手なお願いで申し訳ありません』

『ゴッドさんに助けて貰わないと、私はピンチなんです』

『返信して下さい、LINEのIDです』

ビ-ナスより


ピクッ


また眉毛が反応してしまった。

しかも、このメッセージは1分前に来ているものだった。


シカトするか。


自問自答している立花だが、差出人の名前が引っかかっている。


普段は返信などしないの彼だったが、その日は何故か返信をしてしまった。


『助けてって、どう意味ですか?』

『ピンチなら警察に相談したら、どうですか?』


そんな短いメッセージを返信すると、すぐに新規メッセージが入る。


恐る恐る立花が確認すると、やはり差出人はビ-ナスで


『LINEに連絡をください』と

一行だけ書いてあった。


『あんたは誰なんだ?』

『何故、俺に助けを求めている?』


一人暮らしのアパートに立花の独り言だけが響く


新手の振り込め詐欺か?

トニ-に相談するか?


急に攻め込まれてパニックになっている彼に、追加のメッセージが入る。


操られるように開封したメッセージには


『時間が無いんです』

『お願いです、LINEして下さい』の文字


何故、見ず知らずの奴にここまで指図されなきゃならない、興味本位が怒りに変わっていった。


メッセージボックスをオフにしようとした時に、ビ-ナスからメッセージが再び入った。


見ないつもりだった。


だが自分の意思に反してメッセージを開封してしまう。


『私の名前は絵色 女神と言います』

『LINEに連絡をください』


そう書かれていた。


えいろ めがみ

ビ-ナス


『何で知っている』


立花は、そこに書いてあった名前を見た後に固まってしまった。


18歳の時に彼女に振られてからは女性に興味を持たなかった彼だが、ここ最近でアイドルに夢中になり始めている。


たまたま流れていた歌番組で見たアイドルに一目惚れをして夢中になっていたのが権太坂36の絵色 女神だった。


次期センター候補のニュースタ-の17歳。


権太坂36の写真集を1週間前に買ったばかりだった。


そんな事は誰にも言っていないし、誰も知らないはずだ


女神にかけて彼女のニックネームはビ-ナス

だから、ハンドルネームに反応していて、気になっていたのだろう。


その相手が絵色 女神と名乗っている。

そんな訳ないだろ。


むしろ何で、こいつは俺が絵色 女神を好きだと知っているんだ?


こいつは誰なんだ?


そう思うと、ドッキリに引っ掛かったタレントのように部屋をキョロキョロと見渡してしまう。


ほっとかれている自称アイドルと同姓同名のビ-ナスから、

『お願いです、返信してください』と、またメッセージが入った。


本物の訳が無い、そう思いながらも、

もしかして?


そう思うと強い態度には出れない


『絵色さんは、俺に何をして欲しいの?』


放置する訳にもいかず、振り絞って書いたメッセージにビ-ナスがすぐに返信してきた。


『LINEしてください』

『そこで全部、説明します』

『無理を言っているのは分かっていますし』

『失礼な態度で申し訳ありません』

『でも時間が無いんです』

そんなメッセージが返ってきた。


新手の勧誘だったり迷惑系の人物だったらブロックすれば良いだろう、

そう思った時にはビ-ナスのIDを打ち込んでいた。


『GODです、LINEしました』


そう返信してからの事態は早かった。


操られるようにビ-ナスに促されるまま電話をしている立花がいた。


『ホントにGODさんですか?』

『嬉しいです』


若い女の子の声が流れてきているが立花は、彼女が本物の絵色女神なのか、判断がつかなかった。


『それで、俺への頼みってな何かな?』


興味があるのを押し殺して、冷静を装って事務的にビ-ナスに質問をしてみる。


『そうでした』

『明日の番組の収録の時にエクシブハンターでの自分のプレイを発表する事になったんですけど』


『私まだ、レベル3なんです』

『このままじゃ明日の収録に参加出来ないんです』と

泣き声を真似て説明してきた。


まだドッキリを疑っている立花は、半信半疑で彼女の話しを聞いている。


『収録って何?』


そう立花が聞くと

『私テレビに出ているんです』

『権太坂36と言うアイドルチ-ムなんですけど、ご存知ないですか?』と言った後に

『名前を出して、知っていてくれたからLINEしてくれたと思ってました』と、

少し寂しげに説明をしてきた。


彼女が本物なら設定としてはあり得る。


テレビ番組ではタレントのプライバシーなとお構いなく、色々とプライベートをほじくってくる。


『私ウソついちゃったんです』

『収録前のアンケートにダウンロードしたばかりのエクシブハンターが得意って書いちゃって』

『それを見たスタッフさんがメチャクチャ反応しちゃって』


『次回に番組内でお披露目しよう?って』

『私みたいな新人の出演時間なんて、いつもは5秒くらいなのに、今回は枠で10分なんです』


『エクシブハンターを予告に書くと、番組の視聴率が上がるらしいんです』


実際、立花の元にも数社の出版社から攻略本を出さないか?


週刊誌で特集を組みたい、とオファーが来ている。


マスコミも美味しいと感じているのだろう。

だがテレビ出演を含めて全ての依頼を断ってきた。


『でも、それとLINEのIDを教えるのって、何の繋がりがあるの?』


そうビ-ナスに聞くと


『だってGODさん、いつもメッセージボックスを閉じていて、3日前から連絡したかったんです』


『メッセージボックスが開いた時に私のメッセージを見てLINEを交換したら』

『メッセージボックスを閉じても連絡が取れると思ったんです』


『実際こうやって喋っているじゃないですか』

『GODさんはご存知じゃなかったですけど、これでも一応芸能人なんでプライバシーも考えると

LINEが1番安全かな?と思ったんです』


ここまで話すと、もはや本物なのでは?とさえ思い始めてきた。


『ビ-ナスさんは、テレビの収録前にエクシブハンターのコツを俺に聞きたかった』

『内容を聞いた後も連絡が取れるようにLINEを使いたかった』


『要点は、そんな感じかな?』と立花が聞くと


『若干、違うんですが、まぁそんな感じです』と答えてきた。


『でもビ-ナスさんが、アイドルの名前を語った男の可能性もある訳じゃない?』


そう立花が言うと


『この声で?私は女の子ですよ』と笑いながら、彼女が返答する。


『マッチングアプリの詐欺で男がボイスチェンジャーで女の子の声を出して男を誘い出したってニュースでやってたよ』と立花が先日テレビで見た情報を、そのままビ-ナスにぶつけてみると


『今って、そんな事が出来るんですか?』と驚いて返してきた彼女が

『どうしたら信用して貰えるのかな』

ポツリと洩らした。


『写真を送ってくれる?』無意識に彼の口から、その言葉が出た。


『写真ですか』


そう言った彼女の言葉に、調子に乗ってしまった自分が恥ずかしくなり立花の顔が真っ赤になる。


『やっぱり、いいよ』


立花がそう言ったのと同時に

『送りました』と彼女が発した。


ピロリロリン


立花のスマホに通知が入る


『ごめんなさい、今なんて言ったんですか?』


ビ-ナスが喋っているが、耳には入らず震える指で写真を開くと、少し暗めの部屋で自撮りした美少女の写真があった。


絵色女神だ


声にならない絶叫で立花が唸る。


『GODさん?います?』


先ほどから、ほっておかれているビ-ナスが聞くが立花は固まってしまい彼女の声が聞こえてこない。


『もしもし〜』


その声で、立花が我に帰った。


『写真見てくれましたか?』

自信なさげな彼女の問いかけに、


『あぁ、見たよ』と

答えるのが精一杯な彼であった。


『これで私が女の子だって信じて貰えました?』そうビ-ナスに聞かれた立花に、ある疑念が生まれた。


グ-グルで絵色女神を画像検索して、出てきた画像を貼り付けただけではないか?と


ここまで来ると重症な人間不信だが立花は、動揺を悟られないように

『もう一枚、写真を送ってくれる?』と頼んでみた。


『良いですけど』と彼女が言った瞬間に


『今度はウィンクした表情で撮影して?』と、

ポ-ズを指定をしてみる。


これで送って来れなかったり、送るのに時間がかかったら画像検索に手間取っての事だろう。


そうなれば偽物だろう

そう考えていた時に


ピロリロリン


画像が送られてきた。


居ても立っても居られなく、速攻で開封すると、そこには絵色女神のウィンク画像が先ほどと同じ暗い部屋で撮影されていた。


確定だ


本物のえいろ めがみと話しをしている。


そう分かってしまった瞬間

『あぁ、あぁ、り、が、と』と急に緊張が身体を支配してしまっている。


それと彼女を疑いまくっていた自分自身に自己嫌悪の気持ちが沸いててきた。


『まだ、ダメですか?』


切なげに聞いてきた彼女に

『もう大丈夫、信じた』と即答すると

嬉しそうな声で

『良かった』と安堵をもらすビ-ナスだった。


立花はこの時ほど寝食を忘れてエクシブハンターに没頭した事に感謝した事はなかっただろう。


それと同時に今までの非礼を恥じて、全身全霊で彼女の手助けをしようと誓った。


『俺は、どうしたらいいの?』


無条件降伏を決めた立花が聞くと

『今から会えませんか?』と彼女が問いかけてきた。


今から会う?

俺と?


部屋の時計を見ると22時を回っている。


『今から会うの?』


予想外の彼女の発言に驚いて震えた声の立花が確認すると

『最初から、私はそのつもりで連絡をしていたんです』と彼女が即答してきた。


『どういう事?』

電話で話をしている現在の状況さえ異常事態なのに本人に会う?


緊張で爆発してしまうのでは?

とさえ考える彼だが、せいぜいエクシブハンター初心者の彼女にレクチャーをして、すこし体裁を整えて明日の収録に臨む、

それが彼女の希望と思っていた。


会うのは最初から無理だろう、

そう考えていた立花が


『リモートで指導してあげるけど』

考えられる最善の提案を伝えたが


『私のスマホでGODさんがプレイしてくれませんか?』と彼女の更なる要望が返ってきた。


『私地方から出て来ているんで、こっちに友達が少なくて、ましてやメンバーにゲ-ムの事を聞く訳にもいかないし』


『それで3日前に地元の友達にリモートで教えてもらったんですけど、ちんぷんかんぷんで』

『全然、進んでいかなかったんです』


立花も事態が少しずつ分かってきた。


『その地元の友達のレベルは、どのくらいなの?』そう立花が聞くと


『確かレベル5だったと思います』

そう聞いた彼は頭を抱えた。


初心者に毛が生えた人間が初心者にレクチャーしている状態ではレベルアップは難しい。


『このままじゃダメだ、って2人で話しをしていた時に友達が教えてくれたんです』


『このゲ-ムにはGODって呼ばれている伝説の人がいる』

『だったら、その人に教えて貰ったら一気に上達するだろうからGODさんに頼もうって』


年頃の女の子の考えそうな事だ。

そこに立花の意思は存在していない。


RPGで会った人の全てが情報を教えてくれる訳じゃないが、良い意味で純真無垢な人は

『困っている人がいたら助ける』

この不文律が成り立っている。


『そこからGODさんを見つけるのに苦労しました』

『何処のフロアにいるか?』

『どの時間にいるか?』


『やっと見つけたと思ったらメッセージボックスは閉じていたし』そう笑いながら言った後に

『だから、やっと今話せて嬉しいんです』と立花に伝えてきた。


『事情も、現在の状況も分かったよ』

『今から指定してくれた場所に向かうので、何処に行けば良いのかな?』そう立花が聞くと


『GODさんって実家暮らしですか?』と彼女が立花の問いかけには答えず質問をしてくる。


突然の自宅確認にビックリしつつも

『アパートで一人暮らしだよ』と答えると


『これからGODさん家に行っても良いですか?』と彼女が頼んできたのである。


えいろめがみが俺のアパートに来る?


『何、言ってるの?ダメだよ、男の一人暮らしのアパートに女の子が、夜に来るなんて』

驚いて声が裏返った立花が言うと


『何でダメなんですか?』と彼女が不思議そうに質問をしてきたが


『俺が突然、狼になったら、どうするの?』なんて事をコミュ障気味の彼が言える訳もなく、口ごもっていると

『彼女さんがいるとか?』と少し心配そうにビ-ナスが聞いてきた。


これには即答で

『彼女なんかいないよ』と答えると

『そうなんですか』と少し安心したように呟く。


話を変えるように

『これから会うのは良いけど、ビ-ナスさんが今いる場所から、俺の家って遠かったら、どうするの?』と今更な事を立花が言うと

『ホントだ』と

ビ-ナスも、やっとその事に気付いた。


『GODさんの家って九州ですか?』と、自信なさげに彼女が質問する。


『都内、23区内』

立花が、そう答えると

『良かった〜、おんなじだ〜』と嬉しそうに彼女が答えた。


あまりにも、おっとりした性格に笑うしかなかった彼が

『言いたくなかったら言わなくても良いけど、そっちは何処なの?』と聞くと

『渋谷です、渋谷のネットカフェです』と答えてくる。


アイドルがネットカフェ?


イメージに不相応な場所に彼が驚いていると、

『事情があって自分のマンションには2日間くらい帰れていないんです』と説明をしてきた。


『何があったの?』

心配している

好奇心

興味本意


どの感情か分からない気持ちで立花が聞くと

『ファンと言うか、スト-カ-さんみたいな人に家がバレて、帰れないんです』

そう衝撃的な事を告白してくる。


『今は大丈夫?事務所は?マネージャーは?』

地方から出て来た17歳の少女、頼れる人とかは居ないのか?

心配が強くなった彼が聞くと

『ここはバレてませんから大丈夫です』

『でも事務所にはスト-カ-の事は言ってません』

『事情を話したらホテルとかを予約してくれるかもしれないですけど』

『外には絶対出れなくなると思ったんです』


スト-カ-に自分の所属タレントが狙われていると分かったら事務所は必死に守るだろう。

『すごく怖くて迷ったんです』


『でも外に出れなくなったら、GODさんに会って

貰えなくなっちゃうと思ったんです』


事務所に保護して貰う安全より、ゲ-ムを上達させて番組で採用して貰う方を選んだ。


見上げた向上心だ


それと同時に自分の普段の仕事に対する不誠実さを恥ずかしいと感じる。


『事情を聞いたら、会うのは厳しいですか?』

そう心配そうに彼女が聞いてきたので


『何で?むしろ絶対に応援したくなったよ』

その立花の言葉に

『良かった、ありがとうございます』と嬉しさを溢れさせた声で返してきた。


『渋谷なら、急行で3駅だから、すぐに迎えに行くよ』

緊張や恥ずかしさより彼女を助けたい

その一心から出た言葉だった。


『このネットカフェ、駅から遠いんです、来て貰って移動だと時間もロスだし』


『それに、ちょっと怖そうな人も多いから、本当はココを早く出たいんです』


『だからGODさん家に、お邪魔したいと思っちゃったんです』


『すごい図々しくて、すいません』

『御礼は必ずします』


また彼に会うのを拒否されたら困るように、必死に頼むビ-ナスの姿があった。


『了解しました』

ここに来て彼女の決意は固い、自分が何かを言っても曲げないだろう。


全て彼女のやりたいように、やらせてあげようとと思った彼が

『東横線の乗り場は分かる?』と自分のアパートへの行き方を説明し始める。


『多分30分も、かからず自由が丘に着くと思うよ』

『駅に着いたら連絡して?』

『俺は改札前で待っているから』


簡単な打ち合わせをして2人は電話を切った。


いまだに信じられない、絵色女神と喋った上に、これから俺のアパートに彼女が来る。


醒めない夢が始まった瞬間だった。



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