**.八百坂澪の約束
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心から楽しんでくれているような紬希に、やはりこれは打ち明けられないと、あたしは心の奥底に仕舞い込んだ。
自殺未遂が後遺症として自殺の選択肢を遺すように、鬱病も、いらぬ置き土産を遺していった。いや、そう言っては語弊がある。置いて行ったのではなく、まだそこにいるのだ。
鬱病は、そう簡単には治らない。
頼る先がなくて、命綱を求めた末に闇に呑まれたあたしの場合、本当に心を預けられる対象が現われてしまうと、それは二段飛ばしで依存に昇華する。意思と関係なく、意思が依存する。鬱病が治ったのではない――次のフェーズに移ったのだ。
あの日、紬希がログハウスから現実に戻ったあと。
彼女が、紬希が出ていくのをずっと待っていたことは、例によって見ればすぐに分かっていた。システム上、彼女の意図は容易に伝わる。
自分と二人きりになったログハウス。黙れば音もない、暗い空間。
『あんたにも、ひとつ、守ってほしい約束事がある』
そこで、彼女は――あたしの真心は言ったのだ。
平然と。顔色ひとつ変えずに。
『――あんたが先に死ぬなら、紬希も道連れにしてほしい』
真心は、その人物の本心を代弁する。
そして。
――真心は、嘘を吐かない。
《あとがき》
乙糸旬です。これで最後です。
【終幕】をお読みいただき、ありがとうございます。
そして、『セーブローダーズ ・Save-Loaders・』を読了していただき、本当にありがとうございました。
この作品は、初めて書いた作品ではありませんが、初めての完結作品となっています。
ある日の夜、寝付けずにベッドで燻ぶっているときに思いついた小さな案に、骨を与えて肉をつけてここまで形にすることができました。
趣味には変わりませんが、完全な娯楽にしては伝えたいことを詰めすぎました。
拙い作品ではありましたが、ここまで読んでくださった方に、何かを感じ取ってもらえていると幸いです。
ここで紬希と澪とお別れするのがあまりにも惜しくて、続編を考えたこともありますが、実際に書くかどうかは分かりません。
少なくとも、僕自身がもっと成長し、技術を磨いて、より良い世界に彼女たちを立たせられる自信ができてからでないと話は進みません。
また、これとは全く別の作品の準備も進めていますので、よければそちらも楽しみにしておいてください。
文字と絵の両方で、楽しい世界を皆様に提供できるように精進します。
最後に。
改めて、初の完結作品である『セーブローダーズ ・Save-Loaders・』を見届けていただき、誠にありがとうございました。
また、他の作品や、イラストレーターとして、どこかでお会いしましょう。
本当にありがとうございました。