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追放剣士とお気楽魔王~自由な奴らが世界を変える~  作者: 幸・彦
第三章 メグラン王国騒乱記
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命を無意味にするな

「…あんた自身も、たぶん馬車の中から見てただろうと思うけどさ。」


メリゼを見据えながら、ガンダルクが抑揚のない口調で告げる。


「ウォレミスの街では、襲った奴も迎え撃った冒険者も大勢死んだよ。

もちろん、ルクトもトッピナーも、このあたしも片っ端から殺した。」

「……」


返答の言葉を見出せないメリゼに、ガンダルクは容赦なく続ける。


「別に自分が頼んだわけじゃない、と言いたいのは分かる。そんな事、

別に語る気もないよ。襲った連中は金とかに目がくらんだんだろうし、

守ろうとした連中はあんたに対する忠義を持っていたのかも知れない。

どれもこれも本人の勝手だ。それをあんたが全部背負う必要はない。」

「ですが…」


なおもぽたぽた雫を垂らしながら、メリゼが何とか答える。


「彼らの死の原因が私という事実はもう、変えようがないでしょう。」

「当たり前ですよ。」


食い気味にそう言ったのは、じっと聞いていたルクトだった。


「彼らが死んだのも俺たちが殺したのも、原因を辿れば全てがあなたに

つながっている。それぞれの目的があって、その結果になった。」

「そう。」


頷いたガンダルクが、再びメリゼをきっかりと見据える。


「あんたはこの国の王女様。それは生まれた時から決まってる運命よ。

国が混乱すればこんな事も起こる。そこはもう、割り切らないとね。」

「人の命を、そんな風に割り切れと言うんですか!?」

「そうしなきゃ前に進めないなら、そうだと言うしかないね。」

「……そんなの嫌です!」


ぽろぽろと頬から零れているのは、オジ湯の雫ではなかった。

裏返った声でそう訴えたメリゼは、涙を流していた。


「そんな事で、国民たちの尊い命が無意味に失われるなんて…」

「無意味って言うな無意味って!」


ガンダルクの怒鳴り声が、夜の空気を丸ごと震わせた。

目を腫らせたメリゼが、その怒声に身をすくませる。


じっと耳を傾けるプローノたちも、思わず瞠目していた。


================================


「あたしは百年前、勇者グレインと戦って死んだ。」


焚き火の炎をじっと見つめながら、ガンダルクが静かに語る。


「最後の勅令で、あたしが死んだ後の魔王を空位にしろと言い遺した。

残された者たちはその命令を愚直に守り、人の世界と融和していった。

あたしはそれをこの姿で見てきた。…正直、悪い気はしなかったよ。」

「…その結果が、今の世界という事なのですか。」

「ちょっと違う。」


いつしか泣き止んだメリゼの問いに対し、ガンダルクが首を振る。


「あたしがグレインと戦って成した世界は、それまでより平和だった。

命と引換えに作った世界と思えば、それなりに誇らしくもあったよ。

…だけど百年を経て、新たな魔王が降臨して。世界は、あっという間に

昔みたいな殺伐とした空気に満ちてしまった。時間が戻ったみたいに。

あたしは、それが許せないんだよ。どうしても我慢できないんだよ。」

「…どうして?」

「あたしの死が、それこそ無意味になっちゃうからだよ!」


パチッ!!

声に呼応するように、焚き火の炎が勢いよく爆ぜた。


「たかが魔王がまた現れただけで、何でここまで元に戻ってんのよ。

グレインたちとあたしが全身全霊で戦ったのは、一体なんだったのよ。

生きた証も意味も何もかも無意味にされてこのまま黙ってられるほど、

あたしはお人好しじゃない!!」


一気に言い放ったガンダルクの目が見据えたのは、アルメダだった。


「…アルメダの爺ちゃん婆ちゃんも同じよ。あれほどの人間が、同族の

幸せのために命を投げうったのに。それさえまた無意味にされている。

冗談じゃない。そんなもん、認めてたまるか。たとえほんの少しでも、

戻ってしまった時間をまた進める。もっとマシな形で、あたしの手で。

だからあたしは自分の道に、ルクトを巻き込んだんだよ!」


================================


しばし、誰も口を開かなかった。

アルメダは声を殺して泣いていた。

少し小さくなった炎が、黙り込んだ11人の顔を赤く照らしていた。


どのくらいそうしていただろうか。

やがて。


「…無意味な命など、絶対あってはならない。そういう事ですね。」


誰にともなく、メリゼが呟く。


「この私を巡って、大勢が死んだ。それはもう、変えようのない事実。

だからこそ、私自身がなかった事にしてはいけない。王都に戻れば、

ここまでの戦いの中で失われた命が本当に無意味になってしまう。」

「そういう事ですよ。」


頷いたのは、プローノだった。


「勝利も敗北も、現実は残酷です。騒乱の中、失われる命は絶えない。

無駄死にと呼ばれるような者が多いのもまた、事実でしょう。」


過去を吐き出すかのような口調で、彼はゆっくりと続ける。


「しかし、だからこそ我々は進む。進んで結果を残す。それによって、

失われた命にも何かの意味が宿る。私もそう信じております。信じて、

そして恥を忍んで剣を振るいます。それこそが我が道ですから。」

「分かりましたあぁ!!」


いきなりメリゼは立ち上がった。

そして有無を言わさずトッピナーの手から酒瓶を奪い取り、蓋を開けて

一気に中身をあおって飲み干す。


「あああぁぁ酒ぇ!!値上がりィ!何すんのよおぉぉ!!」


悲鳴のようなトッピナーの訴えなど完全に無視し、メリゼは空になった

酒瓶を投げ捨てた。誰もが目を丸くする中、腰に手を当てて言い放つ。


「だったらとことん突き進みます!私自身にできる事、やります!!

きっと、何かを変えてみせまぁす!だから皆さ」


ガシッ!!


最後まで言う間もなく、トッピナーの腕がメリゼの首に回される。

ルクトとガンダルクの2人が、その様子にあーあとため息をついた。


「…言ったからには実行しなよ?」

「え?」


触れるほどの距離に顔を寄せられたメリゼが、殺気のこもった言葉に

ちょっと言葉を失う。


「あたしの酒の分、働きなよ?」

「あ、あの…」

「やるよね!?」

「はぁい!!」

「にゃはははは!そうこなくちゃ!やったろうじゃん、みんなで!!」


大笑いするガンダルク。

苦笑いを浮かべるルクト。

ひたすらオロオロするアルメダ。

顔を見合わせて笑うプローノたち。


寒々とした暗闇の中に、ぽっかりと明るい空間が浮かび上がっている。



何とも不思議な、夜の一幕だった。

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