集合と襲撃と
人は、強くあろうとして足掻く。
それぞれの思いを、拠り所にして。
しかし。
何かの拍子に、その心は暴走する。
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街道に出た後は、プローノたち2人が他を先導する格好になった。
あらかじめ決めていたという集合のポイントまで、まずは皆で向かう。
メリゼが行使した、あの転移貴術で一緒に戦場に来ていた4人の兵士。
ほんの一瞬だったものの、ルクトの目にもかなりの強豪と映っていた。
「出自はそれぞれ違ってはいるが、まあ私の教え子みたいな連中だ。」
現時点では、プローノからそれだけ説明されている存在。と言っても、
一緒に亡命している事実を鑑みれば「同志」と呼べる人間なのだろう。
腕が立つのに加え、とにかく判断が早かったという印象が強い。
あれなら、混沌を極める戦場からの離脱は、簡単だったと思われる。
しかし、そうは言っても今の時点で心配はさせているだろう。何しろ、
プローノとラジュールの2人だけにあの場を任せた上、ルクトという
得体の知れない存在も乱入していたのだから。
「…それなりに話してはいたから、その点は心配ないよ。」
プローノ本人はそう言ったものの、ルクトとしてはやはり心配だった。
とにかく、まずは合流を急ぐ。
次第に口数も少なくなっていた一行は、その一念で馬を駆けさせた。
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グルークによる強行離脱は、結果としては妙手だったらしい。
もし馬車での突破を敢行したなら、ほぼ確実に追っ手がかかっていた。
そうなれば、現時点でも何かしらの戦いは避けられなかっただろう。
フライドラグンを使った遁走など、さすがに誰も想定していなかった。
そして馬車を捨ててしまえば、もうメリゼ王女たちをすぐに認識できる
襲撃者などいない。それと同時に、直前で戦場を離脱した4人の兵士を
わざわざ追おうとする者もいない。
グルークが一気に飛び越した道程を戻る形になったルクトたち一行を、
王女とその護衛だと認識する相手は現れなかった。
「もう少しだ。」
街道から左に逸れ、プローノがそう言い放った。道は次第に細くなり、
さっきとまた違う森に差し掛かる。ひと気も絶えたあたりで、目の前が
パッと開けた。
「…プローノ様!」
小さな空き地になっている場所に、4人はすでに待っていた。
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「すまん、遅くなった。」
馬を降りたプローノが、相乗りしていたメリゼを支えながら応える。
「ご無事で何よりです!」
「お怪我は!?」
「どうやって離脱を!?」
「この馬は…?」
どうやら、4人ともかなり心配していたらしい。矢継ぎ早の声が飛ぶ。
蚊帳の外状態になったルクトたちも馬を降り、ホッと息をついた。
「まあ、とりあえずは落ち着け。」
苦笑気味のプローノがそう言うと、さすがに4人とも黙った。そして、
その視線がルクトたちにゆっくりと向けられる。
何とも、様々な感情の混ざり合った視線だった。警戒されているのは
当然として、結果だけを見てみれば敵だと判断するのは浅慮が過ぎる。
そんなどっちつかずの視線を受け、ルクトは言うべき言葉に迷った。
やがて、槍を携えた兵士がルクトに問いかける。
「失礼ですが、ご貴殿は?」
「…ええっとですね。」
ますます、ルクトは言葉に迷う。
ここはメグラン王国である。しかし目の前にいる4人の兵士たちは、
紛れもなくジリヌス王国の人間だ。冒険者ではない兵士とは言っても、
追放されたルクト・ゼリアスという事実は、気安く告げてもいいのか。
人魔という事実を教える事により、何らかの支障は生じないだろうか。
「ルクト君だよ。」
迷いを見透かしたかのように、傍らのラジュールがあっさりと言った。
ハッとする本人とは裏腹に、4人は納得の表情を浮かべる。
どうやら、プローノは自分の事を、すでに彼らに説明していたらしい。
その事実を察したルクトが、小さく息をついた。そして姿勢を正す。
「初めまして。俺は…」
その刹那。
「魔王ガンダルク!!」
叫び声が上がり、誰かが動いた。
ルクトの後ろに一人で立っていた、ガンダルクに向かって。
明らかな殺意を持って。
誰も反応できなかった。
そう。
本人以外は。
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「!?」
叫び声の主-侍女は、急停止すると同時に周囲を見回す。しかし彼女は
完全に相手を見失っていた。そんな彼女へと、ワンテンポ遅れて周囲の
全員の視線が向けられる。
ルクトの顔に驚愕の色はなかった。
「…どっ、どこ行った!?」
「なぁに、あたしを探してんの?」
ガン!!
何の抑揚も感情も感じられないそのひと言と共に、侍女はすぐ背後から
思い切り頭を殴られた。もちろん、さほど強い力ではない。それでも、
バランスを崩して前に倒れ込むには十分な一撃だった。
「おー痛てててて。」
一瞬で侍女の死角に滑り込んでいたガンダルクが、うつ伏せに倒れた
彼女の体を片膝で押さえ込む。その挙動の早さには、周りにいた誰もが
反応できなかった。
「ぐっ…は、離せ!」
「嫌。」
殴った右手を痛そうに振りながら、ガンダルクは訴えをはねのける。
なおも侍女は彼女の足の下でもがくものの、どうにもならなかった。
「アルメダ!何のつもりなの!?」
驚愕に大きく目を見開くメリゼが、組み敷かれた「アルメダ」に問う。
その声に動きだけは止めたものの、アルメダは答えようとしなかった。
「何なの?」
その様子を見ていたトッピナーが、不愉快そうな声を上げる。
誰も動かなかった。
「…皆さん!!」
何とか首を回したアルメダの声が、佇む4人に向けて投げかけられた。
「この女は…アステアの先代魔王、ガンダルクなんです!今この場で
討たないと、大変な事になります!どうか…力をお貸し下さい!!」
「………」
答える者はいなかった。
形容し難い表情を浮かべたものの、4人の兵士はプローノにほんの一瞬
視線を向けただけだった。ルクトもアミリアスも、何も言わなかった。
「…皆さん正気ですか!?この女は魔王ガンダルクで」
「うるさいな。」
ギリッ!!
「ぐうっ!!」
右腕を捻り上げられたアルメダが、苦痛に顔を歪ませた。その様子に
メリゼがヒッと掠れた声を上げる。それでもルクトは動かなかった。
何となく察したらしいトッピナーもまた、黙って展開を見守る。
「あたしがガンダルクだから何よ。思うところがあるのはいいけど、
変に他人を巻き込もうとするな。」
「…どの口が言うか!お前は…」
「何だよ。」
アルメダを組み敷いた体勢のまま、ガンダルクはぐっと顔を寄せた。
「あたしは、お前の何なんだよ。」
見た目からは想像もできない凄みを間近で感じ、アルメダは黙った。
救いを求めるようなメリゼからの視線を、ルクトはあえて無視する。
これは必要な事だ。
場に集うべき人間が集った時点で、はっきりさせる必要があった。
4人と合流できたなら、どっちみちアルメダ本人に問うつもりでいた。
むしろ、ある意味手間が省けた。
わだかまりを抱いたままの状態で、ここから先進むわけにはいかない。
彼女から先に手を出してきたのも、考えようによっては悪くない。
「答えろチビ。」
ますます強く腕を捻り上げながら、ガンダルクが容赦なく問いかける。
周囲から聞こえる鳥のさえずりが、何とも場違いな響きになっていた。




