プローノたちの顛末
とにかく移動というわけで、3頭の馬にそれぞれ分乗する。
まず、ルクトとガンダルクで1頭。次にプローノとメリゼ王女で1頭。
そして最後の1頭にはラジュールとトッピナー、そして侍女が乗った。
正直、最後の1頭だけかなり窮屈になっている感が否めない。
「よければ、こっちの方が少し余裕がありますが。」
「結構です。」
ルクトの言葉を、侍女は食い気味に突っぱねる。
王女があわててたしなめたものの、侍女の態度はどこか頑なだった。
しかしルクトは、そんな彼女の態度に対し、特に責めもしなかった。
相乗りするガンダルクもまた、特に何も言わなかった。
確信が持てただけだ。
悪名高いアステアの先代魔王というだけではなく、個人的感情を抱いて
侍女はガンダルクを忌避している。それはトッピナーたちの目にさえも
明らかな事実だ。
しかし今、それについてあれこれと詮索する者はいなかった。
理由は言うまでもない。
そんな些事にかまっている時と場合ではない。とにかく、王女メリゼの
最低限の安全と今後の方針を確たるものにしなければならない。今は、
それが何よりも優先されるべきだ。
彼女自身でさえ、この事はちゃんと認識しているだろう。
だったら、その話は後だ。
ルクトたちは、街道を目指した。
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かなり森の奥まで来ていたものの、それほど道のりが険しい事もない。
焦りは禁物なので、ほどほどの速度を保ったまま馬を進めていく。
もちろん最低限の警戒は続けているが、何とも平坦な道程だった。
むしろ、皆が黙ったままでは無駄な気まずさが生まれてしまう。
「それはそうとさ。」
雰囲気を察してか、ルクトと相乗りするガンダルクが口を開いた。
「あんたたちは、どうしてこの国に来たわけ?それと、あの4人は?」
「ああ、説明がまだだったな。」
質問を受けたプローノが、ルクトの馬と並走しながら答える。
「まあ、平たく言えば亡命だよ。」
「やっぱりそうですか。」
「だよねえ、うん。」
納得顔でうんうんと頷くガンダルクに、プローノは苦笑を浮かべた。
ルクトたちの馬を挟むかのように、ラジュールも反対から馬を寄せる。
侍女は視線を逸らしたままだった。
「ガルデンを離れた後、私はラジュールと共に知り合いの元を訪ねた。
王都の南の城砦を治めていた3人の将軍だ。事実上、かつての私とは
ほぼ同位の将だったな。」
「それはまた、ずいぶん思い切った判断ね。危険じゃなかったの?」
「動きが早かったからな。」
自嘲気味にプローノはフッと笑う。相乗りするメリゼは、興味深そうな
表情を浮かべて聞き入っていた。
「知ってのとおり、ギルド国営化で国中が騒がしかった真っ只中だ。
ガルデン陥落の細かい事情も、私に対する処分などもほとんど周知は
されていなかったよ。だからこそ、彼らも私の話に普通に耳を傾けた。
ガルデンにいた兵の大半を先に退去させていた事、直後に魔人の襲撃を
受けた事。そして兵たちに言われて逃げた事などを隠さずに話した。」
「そのまま話したんですか…」
何とも形容しがたい表情を浮かべ、ルクトがそんな言葉を口にする。
実に合理的、そして無謀な選択だ。
多くの兵の損耗を防いだとは言え、プローノはれっきとした敗軍の将。
他の将を訪ねたり、ガルデン要塞の経緯を話したりするのはある意味、
自殺行為に等しい。下手すればその場で殺されても、文句は言えない。
しかしその一方で、話しておく事は絶対に必要だったとも言えるのだ。
冒険者ギルドが国営化された事。
冒険者や勇者が、完全な国のお抱えになったという事。
そして何より、バルセイユの部下をメリフィスが薙ぎ払い、ガルデンを
見事に奪還してみせたという事。
これらの出来事は、国に属する兵士たち全てに対して影響を及ぼす。
間違いなく、彼らの立場は根底から見直されてしまう事になるだろう。
仮に王とメリフィスがこの筋書きを考えたのだとすれば、おそらくは
好ましくない方向に国は変わる。
混乱のどさくさにそれらが進めば、何を強要されるか分からない。
とすれば、ガルデンで起こった事を認識として共有するのは重要だ。
バルセイユを倒したのがルクトだという事情は別として、メリフィスの
動向などを知っておけば話はかなり変わってくる。
だからこそ、プローノは危険を承知で将たちを訪ねたという事だろう。
「まあ、話をするぐらいは大丈夫と確信していたからな。」
「そう…ですか。」
「あんたらしいねえ、ホントに。」
本当にそんな確信があったのか。
何にせよ、命を懸けるという覚悟は既に持っていたのだろう。
プローノに対するルクトとガンダルクの言葉は、実に対照的だった。
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「…結果的に、将軍たちは話だけはきちんと聞いて下さいました。」
今度はラジュールが説明する。
「信じても頂けたと思っています。が、だからと言って今の時点では
できる事などほとんどありません。ギルドの国営化が決定された以上、
いかに将軍といえど王からの勅令に物申す事は無理ですからね。」
『でしょうね、確かに。』
「何度聞いてもヤな話ね。」
アミリアスとトッピナーの2人が、そんな相槌を打った。
「我々をかくまうという話も出たのですが、さすがにプローノ様も
私も断りました。あまりにリスクが大きい上、先がありませんから。」
「…いくら何でも、そんな道連れはさせられないからな。」
もう一度プローノは小さく笑った。
「もはや私の立場は失われている。それは、誰にもどうにもできない。
現状を彼らに伝えた以上、もう国に留まる理由はなかったんだよ。」
「それで亡命ですか。」
「まあ、それは決めていた事だ。」
そう告げたプローノが、相乗りするメリゼとガンダルクを順に見やる。
「経緯がどうであれ、今がこれなら不本意ではない。ガルデンの戦いで
散っていった兵士たちから託された命は、こんな事のためにこそある。
それは曲げたくないって話だよ。」
「にゃはははは!さすがプローノ、一端の漢だねぇ!!」
愉快そうに言い放つガンダルクに、さすがのメリゼも驚いていた。
しかし、やがて彼女も小さな笑みを浮かべる。
少なくとも、ここに集う人間たちは自分の護衛を強要されてはいない。
少なくとも、自分たちの意思により集っている人たちだ。
そんな確信が、いつしか彼女の胸に小さく生まれていた。
今はそれだけで十分だ。
その確信さえあれば、きっと未来は少しずつでも切り拓いていける。
街道までは、もう間もなくだった。




